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第13幕 ひとりぼっち
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しおりを挟む俺は今、広大な海の上でプカプカと浮いてます。
辺りを見渡しても、誰も居ない広い広い海の上です。
遭難した……というわけではないです。
「なぁ……ここなんなの‼」
「海だよ。行こうねって話していたでしょ?」
「そうだけど、そういうことじゃないんだいっ!」
目覚めると悠斗が突然目の前に居て、しばらくお祝いの言葉や、不在の謝罪、それからサプライズのプレゼントを貰い、ここ数日間のあれこれを説明してくれるとばかり思っていた。
けれど話はあとでと、息をつく間もなく連れて来られた訳です。外出の荷物はすでに悠斗の手で荷造りされ、顔を洗い着替えを済ませると、知らない車に乗り込み知らない土地へと到着していた。
もちろん悠斗は運転できる訳ないので、見たことのない運転手さんの手前借りた猫のように大人しくしていた俺。ここに来るまでに色々話もできたはずだが、騒げる空気でもなく言葉を発する機会は訪れなかった。
「人が居ないから開放的だよね。天気も良くて瀬菜のお誕生日に丁度良かった」
「……ありがとう……。じゃなくてさ、しばらく会わない間にセレブにでもなったのかと、俺は聞きたいんだ。それに話も全然できていないじゃないか。俺はいつまで待たされればいいんだ」
「今は瀬菜のお祝いが先。今日からは瀬菜が嫌っていっても、ひっつき虫になるんだ。嬉しい?」
首を傾げ俺を見上げる悠斗は、水面から現れた人魚姫……いや、人魚王子だ。キラキラと光る水面が反射し、水滴に濡れた悠斗を余計に輝かせている。
本当にその顔は狡い。狡過ぎて、言葉に詰まると視線を逸らす。
「──うっ、うるさい。俺の目の届くところに居るなら……それでいい」
「ふふっ、瀬菜……どこにも行かないよ」
浮き輪に座る俺のお腹に腕を絡めてくる悠斗。チャプチャプと波に揺られ、悠斗が浅瀬から流れないように軌道修正してくれていた。
悠斗が抱きつき体重を掛けたせいで浮き輪がひっくり返ると、二人で海に放り投げられてしまった。いきなりのことに慌てる俺を、クスクス笑いながら掬い上げてくれる。
「────ばっ、ゴホッゴホッ! うぅ~~鼻入ったぁっ~~! すげー痛いっ~!」
「ふふふっ、大丈夫?」
「ムカつくぅ! お前足着くのかよ!」
悠斗の首に抱きついて足をパタパタさせるが、俺の身長では届かない場所らしい。水の力を借りて俺をひょいっと悠斗が抱え直してくれる。
「……悠斗さ。毎日一緒で気付かなかったけど、身長伸びた?」
「うん。おかげさまで百八十三センチ。瀬菜は変わらないかな?」
「おかげさまで変わんねよ‼ 頭一つ以上違うとか俺のがお兄ちゃんなのに」
「クスッ、ごめんね、お兄ちゃん。水の中だと丁度いい高さ……」
目線は少し俺が上。水も滴る……とはよく言うが、目の前の人物そのものだ。茶色の瞳は光の反射かいつもより茶色く、緑がかったように見える。
吸い込まれるような光彩に、マジマジと惚けて見つめてしまう。
……好きだなぁ。
なんでこんなに好きなのかなぁ。
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