434 / 716
第13幕 ひとりぼっち
12
しおりを挟む
「なぁ、肉……硬くなっちゃうぞ?」
「……ん、そっ、そうだよね! うわっっあっちぃぃ~~‼」
上げた肉が鍋に落ち、跳ねた熱湯が村上の手の甲に当たっていた。
「……大丈夫か?」
「う、うん大丈夫……ってぇ‼ それはこっちのセリフだよ」
「えっ? なにが?」
「……あの……一応、違うと思うけど確認。……その……さ……」
村上は箸を置き下を向いたままチラチラと俺を見てくる。口がパクパクと動き、言葉を選んでいるようだ。
「……別れた……とかじゃないよね?」
「えっ……そうなの?」
「あっ、そっか違うか……」
「俺、知らない間に振られたの?」
「イヤイヤ、ちょい待ち! 変な空気になってる。振られてないし別れてないと思うよ。柳ちゃん、今日までの経緯話して」
村上の言葉に凹む俺に、これまでの経緯を話した。悠斗のおじいさんのことや、最近おかしかった悠斗の様子、祐一さんのことも当たり障りなく少しだけ。
村上は俺の話に時折相槌を打って、話が終わる頃には少し怒った顔をしていた。
「……なんで今まで連絡くれなかったの」
「んー……俺もまさかこんなことになるとは思っていなくて」
「柳ちゃんってさ。辛いときほど無理に普通になろうとするよね。それに相変わらず人に頼ろうとしない」
「……だってさ、明日には悠斗が帰って来るって……毎日そう思ってて」
「うわぁ~健気過ぎて涙出そうなんですけど……連絡はしてみたの?」
「してない。返信来なかったら凹むし。あいつのことだから連絡もできない状況ってことだろ?」
「確かに……あの王子が柳ちゃんに連絡もしないってよっぽど……」
豆な悠斗が連絡してこないということは、おそらくその余裕すらないはずだ。
「どうしよう……このまま本当に戻って来なかったら……」
「必ず戻って来るよ。流石に高校生でいきなり跡を継げなんて言われても困る訳だし、きっとなにかしら王子には考えがあるはず。気晴らしなら俺がいつでも付き合うし」
「うん……そうだよな。あいつ物腰は柔らかいけど、結構自分の意思はブレないもんな。ありがとう村上。……はぁ、なんか話したらスッキリした! 時間まで食べるの再開!」
「うんうん。食べて発散しよう~!」
お代わりのお肉を追加して、野菜も取りに行く。三大欲求の食で幸福感を満たしながら、村上と夏休みの予定も立てたりした。休みはあっという間とはいえ、まだ一ヶ月以上はあるのだ。
満喫しないなど勿体ない。そう思っても心の奥底で、チラチラと悠斗の顔がどうしても浮かんでしまうのだった。
待つっきゃないか……。
俺にできることは今はそれだけ……。
普段通りに笑顔で迎えられるように。
悠斗が休まる場所をいつでも作っておかないと。
呪文のように自分に言い聞かせながら、寂しい気持ちをごまかし続けた。
「……ん、そっ、そうだよね! うわっっあっちぃぃ~~‼」
上げた肉が鍋に落ち、跳ねた熱湯が村上の手の甲に当たっていた。
「……大丈夫か?」
「う、うん大丈夫……ってぇ‼ それはこっちのセリフだよ」
「えっ? なにが?」
「……あの……一応、違うと思うけど確認。……その……さ……」
村上は箸を置き下を向いたままチラチラと俺を見てくる。口がパクパクと動き、言葉を選んでいるようだ。
「……別れた……とかじゃないよね?」
「えっ……そうなの?」
「あっ、そっか違うか……」
「俺、知らない間に振られたの?」
「イヤイヤ、ちょい待ち! 変な空気になってる。振られてないし別れてないと思うよ。柳ちゃん、今日までの経緯話して」
村上の言葉に凹む俺に、これまでの経緯を話した。悠斗のおじいさんのことや、最近おかしかった悠斗の様子、祐一さんのことも当たり障りなく少しだけ。
村上は俺の話に時折相槌を打って、話が終わる頃には少し怒った顔をしていた。
「……なんで今まで連絡くれなかったの」
「んー……俺もまさかこんなことになるとは思っていなくて」
「柳ちゃんってさ。辛いときほど無理に普通になろうとするよね。それに相変わらず人に頼ろうとしない」
「……だってさ、明日には悠斗が帰って来るって……毎日そう思ってて」
「うわぁ~健気過ぎて涙出そうなんですけど……連絡はしてみたの?」
「してない。返信来なかったら凹むし。あいつのことだから連絡もできない状況ってことだろ?」
「確かに……あの王子が柳ちゃんに連絡もしないってよっぽど……」
豆な悠斗が連絡してこないということは、おそらくその余裕すらないはずだ。
「どうしよう……このまま本当に戻って来なかったら……」
「必ず戻って来るよ。流石に高校生でいきなり跡を継げなんて言われても困る訳だし、きっとなにかしら王子には考えがあるはず。気晴らしなら俺がいつでも付き合うし」
「うん……そうだよな。あいつ物腰は柔らかいけど、結構自分の意思はブレないもんな。ありがとう村上。……はぁ、なんか話したらスッキリした! 時間まで食べるの再開!」
「うんうん。食べて発散しよう~!」
お代わりのお肉を追加して、野菜も取りに行く。三大欲求の食で幸福感を満たしながら、村上と夏休みの予定も立てたりした。休みはあっという間とはいえ、まだ一ヶ月以上はあるのだ。
満喫しないなど勿体ない。そう思っても心の奥底で、チラチラと悠斗の顔がどうしても浮かんでしまうのだった。
待つっきゃないか……。
俺にできることは今はそれだけ……。
普段通りに笑顔で迎えられるように。
悠斗が休まる場所をいつでも作っておかないと。
呪文のように自分に言い聞かせながら、寂しい気持ちをごまかし続けた。
0
お気に入りに追加
236
あなたにおすすめの小説
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
壊れた番の直し方
おはぎのあんこ
BL
Ωである栗栖灯(くりす あかり)は訳もわからず、山の中の邸宅の檻に入れられ、複数のαと性行為をする。
顔に火傷をしたΩの男の指示のままに……
やがて、灯は真実を知る。
火傷のΩの男の正体は、2年前に死んだはずの元番だったのだ。
番が解消されたのは響一郎が死んだからではなく、Ωの体に変わっていたからだった。
ある理由でαからΩになった元番の男、上天神響一郎(かみてんじん きょういちろう)と灯は暮らし始める。
しかし、2年前とは色々なことが違っている。
そのため、灯と険悪な雰囲気になることも…
それでも、2人はαとΩとは違う、2人の関係を深めていく。
発情期のときには、お互いに慰め合う。
灯は響一郎を抱くことで、見たことのない一面を知る。
日本にいれば、2人は敵対者に追われる運命…
2人は安住の地を探す。
☆前半はホラー風味、中盤〜後半は壊れた番である2人の関係修復メインの地味な話になります。
注意点
①序盤、主人公が元番ではないαたちとセックスします。元番の男も、別の女とセックスします
②レイプ、近親相姦の描写があります
③リバ描写があります
④独自解釈ありのオメガバースです。薬でα→Ωの性転換ができる世界観です。
表紙のイラストは、なと様(@tatatatawawawaw)に描いていただきました。
薫る薔薇に盲目の愛を
不来方しい
BL
代々医師の家系で育った宮野蓮は、受験と親からのプレッシャーに耐えられず、ストレスから目の機能が低下し見えなくなってしまう。
目には包帯を巻かれ、外を遮断された世界にいた蓮の前に現れたのは「かずと先生」だった。
爽やかな声と暖かな気持ちで接してくれる彼に惹かれていく。勇気を出して告白した蓮だが、彼と気持ちが通じ合うことはなかった。
彼が残してくれたものを胸に秘め、蓮は大学生になった。偶然にも駅前でかずとらしき声を聞き、蓮は追いかけていく。かずとは蓮の顔を見るや驚き、目が見える人との差を突きつけられた。
うまく話せない蓮は帰り道、かずとへ文化祭の誘いをする。「必ず行くよ」とあの頃と変わらない優しさを向けるかずとに、振られた過去を引きずりながら想いを募らせていく。
色のある世界で紡いでいく、小さな暖かい恋──。
ハッピーエンド
藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。
レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。
ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。
それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。
※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話
タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。
「優成、お前明樹のこと好きだろ」
高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。
メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子
葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。
幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。
一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。
やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。
※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる