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第12幕 修学旅行はお遊びではありません
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夜は旅館から直で乗り込める小さな船でナイトクルーズ。出航すると船内の照明が落とされ、暗闇にガタガタとモーター音が鳴り響く。
船の騒音に説明の放送が中々聞き取れず残念だが、遠くから見てもライトアップされた厳島神社は、それはもう綺麗で日中とは違い格別だった。
黒い海に朱色が映り込み、黒と赤のコントラストに興奮して写真を何度も撮ってしまった。一日で違う顔を見せる景色は、泊まってこその醍醐味だ。
「綺麗に撮れてる。瀬菜は写真撮るの上手いよね」
「へへっ、そうかな? ねぇ、ツーショット!」
覗いて来る悠斗に寄り添って二人で自撮りする。アングルもバッチリだ。カシャっとスマホが音を立て画面に収まる。
自分で撮った写真に満足し悠斗にも見せようとすると、悠斗の顔が意外に近くて固まってしまった。スマホの灯りに照らされた悠斗の茶色の濡れた瞳が、ジッと俺を見つめている。
「そんなに無防備だと……キスしたくなっちゃう」
「……えっ?」
スーッとスマホがオフになると暗闇が広がり、唇に濡れた柔らかな感触が重なった。
「暗くて良く見えないけど、そこで当たりだった?」
「……おまっ……なにしてるんだよ……」
腕で唇を覆い視線を逸らし下を向くと、楽しそうに俺に向けてシャッターを押している。
「ああっ、もう! 元気になった途端に俺で遊ぶなよ!」
「ふふっ、もうすぐ鳥居の下潜るみたい。甲板に行けるよ?」
一番後部席で暗いのをいいことに、いつも通りの悠斗が俺で遊んでいる。誰かに見られていないかと内心ドキドキしている俺は、きっと顔が真っ赤になっているに違いない。
外でこんなことをして来るとは思っていなかったのだ。
悠斗の悪戯にため息を吐き、甲板に向かう悠斗のお尻を背後からペシリと叩いておく。甲板は薄っすらと足元が照らされ、夜の潮風が髪を心地良くなびかせる。
あちこちから歓声が上がり、みんな記念の撮影をしていた。海の上からから見上げる大きな鳥居は迫力があり、どっしりと構えライトアップの照明が暗闇の中で朱色を強調させていた。
神社のほうを見れば、点々と置かれた灯籠に火が灯り、暗闇の中にフワリと優しい光が浮かび幻想的で美しい。
「……瀬菜。寒いの? 震えてる」
「うん、ちょっとだけ。でも、あんまりにも綺麗で震えちゃうのかも」
「本当に綺麗だね。そろそろ戻るみたい。中に入ろう」
もう一度振り返り目に焼き付けると、船内へと入り船はゆっくりと船着場まで戻っていった。
七月とはいえ夜の海は冷え込む。ナイトクルージングから戻ると、大浴場で身体を温めた。今日の旅館はしっかりと温泉で露天風呂も設置されており、入浴時間は短いものの、歩き疲れた身体には丁度いい湯加減だった。
温泉から上がると、あっという間に消灯時間が訪れてしまった。昨日と同じように五人で寝転びながら会話をする。今日の部屋はベッドが二台と敷布団が三組で、ベット争奪のための簡単なゲームをした。
ルールは十秒当てゲーム。スマホのストップウォッチを使ってピッタリ賞順に順位を決めた。できればフワフワなベッドで疲れを取りたいところ。コレが意外と難しくて、みんな十秒の壁に苦しむことになった。順番にやると感覚が読めてしまうので、一斉に開始した。
……げっ、俺時間感覚なさ過ぎ。
十秒って結構長いんだな……。
船の騒音に説明の放送が中々聞き取れず残念だが、遠くから見てもライトアップされた厳島神社は、それはもう綺麗で日中とは違い格別だった。
黒い海に朱色が映り込み、黒と赤のコントラストに興奮して写真を何度も撮ってしまった。一日で違う顔を見せる景色は、泊まってこその醍醐味だ。
「綺麗に撮れてる。瀬菜は写真撮るの上手いよね」
「へへっ、そうかな? ねぇ、ツーショット!」
覗いて来る悠斗に寄り添って二人で自撮りする。アングルもバッチリだ。カシャっとスマホが音を立て画面に収まる。
自分で撮った写真に満足し悠斗にも見せようとすると、悠斗の顔が意外に近くて固まってしまった。スマホの灯りに照らされた悠斗の茶色の濡れた瞳が、ジッと俺を見つめている。
「そんなに無防備だと……キスしたくなっちゃう」
「……えっ?」
スーッとスマホがオフになると暗闇が広がり、唇に濡れた柔らかな感触が重なった。
「暗くて良く見えないけど、そこで当たりだった?」
「……おまっ……なにしてるんだよ……」
腕で唇を覆い視線を逸らし下を向くと、楽しそうに俺に向けてシャッターを押している。
「ああっ、もう! 元気になった途端に俺で遊ぶなよ!」
「ふふっ、もうすぐ鳥居の下潜るみたい。甲板に行けるよ?」
一番後部席で暗いのをいいことに、いつも通りの悠斗が俺で遊んでいる。誰かに見られていないかと内心ドキドキしている俺は、きっと顔が真っ赤になっているに違いない。
外でこんなことをして来るとは思っていなかったのだ。
悠斗の悪戯にため息を吐き、甲板に向かう悠斗のお尻を背後からペシリと叩いておく。甲板は薄っすらと足元が照らされ、夜の潮風が髪を心地良くなびかせる。
あちこちから歓声が上がり、みんな記念の撮影をしていた。海の上からから見上げる大きな鳥居は迫力があり、どっしりと構えライトアップの照明が暗闇の中で朱色を強調させていた。
神社のほうを見れば、点々と置かれた灯籠に火が灯り、暗闇の中にフワリと優しい光が浮かび幻想的で美しい。
「……瀬菜。寒いの? 震えてる」
「うん、ちょっとだけ。でも、あんまりにも綺麗で震えちゃうのかも」
「本当に綺麗だね。そろそろ戻るみたい。中に入ろう」
もう一度振り返り目に焼き付けると、船内へと入り船はゆっくりと船着場まで戻っていった。
七月とはいえ夜の海は冷え込む。ナイトクルージングから戻ると、大浴場で身体を温めた。今日の旅館はしっかりと温泉で露天風呂も設置されており、入浴時間は短いものの、歩き疲れた身体には丁度いい湯加減だった。
温泉から上がると、あっという間に消灯時間が訪れてしまった。昨日と同じように五人で寝転びながら会話をする。今日の部屋はベッドが二台と敷布団が三組で、ベット争奪のための簡単なゲームをした。
ルールは十秒当てゲーム。スマホのストップウォッチを使ってピッタリ賞順に順位を決めた。できればフワフワなベッドで疲れを取りたいところ。コレが意外と難しくて、みんな十秒の壁に苦しむことになった。順番にやると感覚が読めてしまうので、一斉に開始した。
……げっ、俺時間感覚なさ過ぎ。
十秒って結構長いんだな……。
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