王子×悪戯戯曲

そら汰★

文字の大きさ
上 下
393 / 716
第11幕 王子の憂鬱と無鉄砲な俺

12

しおりを挟む
 一台の白いワゴン車が目の前で停車すると、後部座席のドアが開き、伸びて来た手に腕を掴まれ、あっという間に車内に連れ込まれてしまった。
 手にしていたスマホは路面に放り投げられ、虚しくドアが閉ざされてしまう。騒ごうとしても、口を覆われ叫ぶこともできなかった。
 それから俺は身体を縛り上げられ、口と目を布で覆われ数秒で誘拐されていた。チラリと見た犯人の顔は、忘れもしないあの三人組だった。運転している人物までは認識できなかったが、仲間なのは確定だ。

 なにもできなかった自分が悔しくて堪らない。なにより戻った悠斗が心配だった。おそらく悠斗は自分のことを責めてしまう。
 けれど今は目の前のこの状況だ。明らかに計画的な犯行に、どう立ち向かうか……俺はない頭を総動員し、大人しく車に揺られ、チャンスを窺っていた。

 しばらくすると車が停車し、ドアが開く音がした。荷物のように担がれ、ジャリジャリとした足音が聞こえてくる。ほんのりと緑の香りがする。自然が多い場所なのだろうか。
 目的が分からないが、対象は俺ではなくおそらく由良りんだろう。だからすぐに俺になにかするとは思えなかった。もちろん不安ではないと言ったら嘘になる。けれど俺はこんな状況でも、ずいぶん落ち着いてた。
 柔らかいなにかにゆっくりと降ろされると、口元の布を外され、男に声を掛けられた。その声は聞いたことのない、澄んだ落ち着きのある優しげな声だった。

「手荒な真似してごめんね?」
「そう思うなら、これ外せよ」
「ははっ、元気がいいな」
「ふんっ、それが俺の取り柄だ」
「動じないね……それなら目隠しも取っても驚かないかな? 明るくなるよ?」

 誘拐犯にしてはずいぶん丁重に扱ってくれる。手足を縛っているくせに、気遣いを見せるのもおかしな話だ。
 目隠しを外され、急に差し込む明るい光に目を瞑りそっと瞼を開いていく。目の前の男の背後から、大きな照明が向けられ、しばらくその姿を認識することができなかった。
 目が慣れると、次第に男の顔がはっきりと確認できた。きっちりとしたスーツ姿で、声にマッチした優しい笑顔を向けてくる。背は高く細見ながらも男らしさが十分備わっている。歳は二十代後半ぐらいだろうか。

「初めまして……だね。柳瀬菜君」
「……誰?」

 強い光に目を背けながら、男に素性を聞くが、もちろん欲しい回答などくれるはずはない。

「君を探すのにずいぶん手間取ったよ。三人から聞いてた人物とかけ離れてたからね。鈍くさそうなメガネの小さい男の子。哉太の周りには、そんな子いくら探しても居ないし。結構大変だったんだよ?」

 男は俺の顎にすっと指先を置くと、品定めするように角度を変え観察してきた。

「うん……今はあどけなくて可愛いけど、将来は美人になるね」
「はぁ⁉ てか、あんたなんなんだよ‼ 由良りんのナニ? 俺を囮にでも使うつもりか⁉」
「こらこら騒がないの」

 ピトッと男の人差し指が、俺の上下の唇を抑える。女の子にするような態度に腹が立ち、思い切りその指に噛みついてやった。

「……痛っ……うーん、これはおてんばさんだ」

 指先にフーフーと息を吹き掛け、平然と俺に笑顔を見せる男は、立ち上がり三人組に向かって声を張り上げた。

「撮影会の始まりだ! 綺麗に撮れよ」
「「「了解っす!」」」

 バタバタと用意を始める三人組を目で追うと、その先には大きなベッドがあり、ベッドを囲うように三方にビデオカメラがセットされていった。
 流石に強気な俺も徐々に理解し青ざめていく。男はネクタイを緩めながら、ギラついた目で俺を見下ろしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」 突然、降って湧いた結婚の話。 しかも、父親の工場と引き替えに。 「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」 突きつけられる契約書という名の婚姻届。 父親の工場を救えるのは自分ひとり。 「わかりました。 あなたと結婚します」 はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!? 若園朋香、26歳 ごくごく普通の、町工場の社長の娘 × 押部尚一郎、36歳 日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司 さらに 自分もグループ会社のひとつの社長 さらに ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡 そして 極度の溺愛体質?? ****** 表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】 【続編も8/17完結しました。】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785 ↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...