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第10幕 新学年と不良くん 〜高校二年生編〜
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しおりを挟む──ヒィ~っ、いィっ、痛っ‼
……と顔を歪めるが、俺に当たった訳ではない。相手チームの内野からバンッ! という大きな破裂音が響き渡ると、その場が静まり返る。悪魔に遭遇したかのように、その場に居るみんなの視線が由良君に集まっていた。
ギラリと眼光を光らせ、相手チームを威嚇する由良君は、背中に口を大きく開けて真っ赤な顔で激おこ気味の、閻魔大王を背負っているようだった。
「マジ容赦ねぇ……。悠斗とは違う意味ですげー」
たった一球投げただけだ。けれど、それだけでも相手チームを怯ませるには十分だった。当の本人は、「あー……ダル……」と言いながら、気怠げに柔軟体操をしている。
一回戦目、最初はどうなるかと思ったが、やはり由良君のパワーは予想通りで大活躍だった。全員を外野に送ることは難しかったが、半分は由良君ひとりの手柄だった。
俺はといえば、へなちょこボールしか投げられず、相手チームにチャンスボールを与え、神のように拝まれた。そのおかげか、俺を狙うボールは少くなり試合が終わるまで、どうにか持ち堪えることができた。
「俺達のチーム中々じゃねぇ⁉」
「柳君と由良君のおかげっしょ!」
「本当だよねー。僕らだけじゃ、巻き返せなかった!」
「まさにアレだね! 天使と悪魔コンビ!」
「言えてるー! 敵が緩んだところを、滅殺! みたいな!」
「飴と鞭だ!」
「さっきの試合は負けたけど、次の試合も頼むよ!」
負けたというのに、チームはなぜか団結し不思議なほど興奮している。由良君に気軽に声を掛ける姿は微笑ましく、学生らしい光景だ。
「……あー……お前らもな……」
「へへっ、由良君、俺達どうにも頑張らないとだね?」
背中を叩き激励を送ると、由良君は眉を下げ照れくさそうにしていた。
ひとりでバスケチームとバレーチームを、体育館の壁側に小さく座りながら交互に観戦していた。由良君はあとで行くと言い残しどこかへ行ってしまった。
悠斗と多澤は相変わらずギャラリーも多く、近寄れそうにもない。村上もバレーで活躍をみせていた。
ははっ、痛そう……村上も終わったら、俺と同じで痣だらけだな。
ジャージの袖を捲れば、腕が真っ赤になっていた。先ほどの試合で、無理をしたせいだ。皮膚が熱を持ち、ジンジンと痺れた感覚。所々濃い痣ができ、内出血をしている。
痛みをごまかすように肌を擦っていると、スッとなにかが差し出された。
「擦るな。余計に熱持つぞ」
「……えっ?」
由良君は俺の腕にそれを押し付けた。ゆっくりと肌から熱が引いていく。タオルに巻かれたそれは、どうやら氷嚢のようだ。
「もしかして、これ貰いに?」
「腕、真っ赤だったから」
「……超感激……ありがとうな‼」
「別に……たまたまだ」
「へへっ、末っ子なのにお兄ちゃんみたいだ」
「お前の兄ちゃんじゃねぇよ」
無愛想に言う由良君だが、耳を赤くしていては可愛いとしかいえない。折角の好意を無駄にできず、気付かないふりをしておいた。
午前の試合は終わり、ドッチチームの勝敗は今のところ五分五分。由良君と並んで観戦しながら、午後の試合の作戦と、由良君のプライベート情報をちょこちょこと聞き、昼休みになるまでの時間を過ごしていた。
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