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第10幕 新学年と不良くん 〜高校二年生編〜
08
しおりを挟む……あれ?
──バトミントンがない‼
いくら待てど黒板にはバトミントンが現れない。バスケットボール、バレーボール、ドッジボールの三種目だけだった。
俺は元々、運動神経が悪く、あまりハードなものは好まない。かといって勉強ができるかといえば、そういう訳でもない。サーッと青ざめる俺に、うしろから声が掛かり余計に身を跳ねさせた。
「なぁ、柳はなににすんの?」
「へっ⁉ あっ、いや、うん、その……できるのがない……かも? あはは……」
まさかの由良君のお声掛けに、驚きながらそう答える。
「ふーん。俺もどうすっかな……」
由良君は頬杖をつきながら黒板を眺め、ボソリと呟いていた。意外にも真面目に参加はするようだ。
「悠斗はなにするんだ?」
「ん? やっぱバスケかな。雅臣は?」
「俺もバスケ」
俺も……とは流石に言えない。
「柳、俺とドッジしねぇ?」
「えっ? いいの?」
「ああ、いいもなにも、選ばねぇとなんねぇだろ。一番サボれそうだしな」
無表情に真っ直ぐ前を向きそう言う由良君。やっぱり彼は不良だった。
バレーやバスケのように、ドッジボールは人を減らしていく球技だ。サボりたければ早く当たり、外野に出ればいいだけのこと。引きつった笑いを零していると、悠斗も多澤も賛同する。
「瀬菜はそれが妥当かな? 逃げ回ればだけど……大丈夫かな?」
「由良はビジュアル的にもいいんじゃね? 瀬菜はほら、逃げるの得意だから大丈夫だろ」
確かに由良君のビジュアルなら、報復を恐れて誰もボールを当てようとは思わない。彼が本気を出してくれれば、もしやうちのクラスは最強になるかもしれない。
取り敢えず逃げ回ろう……。
弱いボールに当たればきっと痛くない……はず……。
ああ……俺のバトミントン……。
グスンとしながら、逃げ回る練習でもしようかな……と、脳内トレーニングだけは順調に進んでいた。
***
ドッジボールのルール。実はよく知らない。当たったら内野から外野に出て、敵チームの内野を減らしていく。それぐらいだ。
高校で主催の親睦会のような球技大会だ。ガチルールにはならないとはいえ、高校男子のパワーは計り知れない。白熱したら内野に残るプレイヤーは標的の的。小学生のときに、キャッキャとしながら遊んだものとは、まったく違うだろうと予測できる。
終わった頃には、きっと痣だらけだろうな……。
現在、ドッジボールの実践中です。
体育館でやりたかったが、スペース的に今日はドッジボール組は、校庭のグラウンドで砂埃に塗れながら練習をしていた。走り回る度に砂が舞い上がり、ジャージが酷いありさまだ。
「柳すげぇ! ウサギみたいに逃げ回ってる!」
「マジで当たらねぇ!」
鈍くさい俺だが、逃げ足だけはいいようだ。素早いボールをヒョイヒョイと交わしながら、内野にまだ居残っている。
砂が目や口に入り、涙目になりながら逃げる姿は、一体他人にどのように映るのやら。
「あれで内野から攻撃の威力あれば、結構イケるんだけどな」
「俺腕力ないから無理! てか、由良君! 君、絶対攻撃得意でしょ!」
掠れた大声をあげ振り向くと、内野でうんこ座りをする由良君に呆れてしまう。よくもまあ、この埃の中でじっとしていられるものだ。
「あぁ? 面倒クセェ……」
「君のやる気スイッチ、どこにあるの‼ 俺、押すけど! 流石に逃げるの疲れたー!」
「当日頑張ればいいだろ?」
「練習が本番の糧になるんだよーーっ!」
どうにも由良君はやる気がないらしい。それにみんなやはり怖くて、当てることができないようだ。そのおかげか、疲れ果て動きが鈍くなった俺に、みんなが猛攻撃を仕掛けてくる。
素早いボールが前を向くと目前に迫っていた。あまりの速さに、両腕をクロスしてガードすると、二の腕に衝撃が走る。バウンドしたボールは大きく宙に浮き、太陽の日差しに姿を消していた。
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