王子×悪戯戯曲

そら汰★

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第10幕 新学年と不良くん 〜高校二年生編〜

03

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 新しい教室は一年の教室と大差はない。けれど知らない顔がいっぱいで、かなり緊張してしまう。ゴクリと唾を飲み込み、一歩足を踏み入れた。
 出席番号順なので、「や行」の自分の席だろう場所へと向うと、机の隅に小さく『柳瀬菜』と貼られた席を見つけ、なぜだかホッと息を吐き椅子へ腰掛ける。「や行」の俺は廊下側の隅っこの、うしろから四番目。村上はその横の列の一番うしろの席で、三浦さんの席は村上の前だった。

 うぅ……緊張する。
 前後と左側の人とは仲良くなりたいな……。
 怖い人じゃなければいいな……。

 手持ちぶたさでソワソワしてしまう。教室には徐々に人が溢れ始めるが、まだ半分程度だ。
 しばらくすると前の席に女の子がやって来て、ニコリと笑い掛けてくれた。可愛らしい小柄なボブヘアーの女の子は、元気なハキハキと通る声で自己紹介をした。

「初めまして! 矢田沙耶やださやです! 二年間よろしくね♪ 柳瀬菜君!」
「……よろ……しく……? 俺の名前、知っているの?」
「うん。知っているよ! 立花君と凄く仲いいでしょ? 有名だよ?」
「俺は有名じゃないけど……」

 悠斗はともかく、俺の名前まで有名とは驚く。悠斗と居ても、声を掛けられることなどないのだ。
 不思議に思いながら矢田さんに首を傾げると、ポーッと頬を赤らめながら目を輝かせ、俺の手を両手でガシッと握り締めてきた。

「そんなことないよッ‼ 王子が唯一心を許しているって、話題になっているんだよ! 確か……幼馴染みだよね?」
「なにそれ……その噂、怖っ! でも幼馴染みってのは合っている。家が隣同士なんだ」
「羨ましい~♪ 頭良し、運動神経良し、顔良しって……凄いよね!」
「うん。あいつってば、なんでもできちゃうから狡いよね?」
「ははは! 確かに! 少しは隙があったほうが私は好きだな」
「女の子はみんな、ああいう感じが好きだと思ってた」

 ヘラリと笑うと、矢田さんは「はぁ~う~……ヤバキュン♡」と謎の言葉を呟いていた。その日本語の意味を教えて欲しいものだ。

「まぁ人気はあるし、イケメンなのは間違いないけど、みんながみんな恋しているって訳じゃないよ。そんなだと、人類滅んじゃう!」
「へへっ……そうだよね。矢田さんって面白いね! 俺、そんな風に思う人と会ったの初めてかも!」

 矢田さんが色々話を振ってくれたおかげで、あっという間に打ち解けることができた。話をしていると、うしろから机を叩くような大きな音に、ビクッと肩を跳ねさせた。恐る恐る振り向くと、サーッと青ざめていった。

 いかにも「俺、不良です」と言わんばかりに、机にガンを飛ばす長身の男子生徒。ライオンのたてがみのような鮮やかな金髪。その体躯は威圧があるからか、余計に大きく見える。
 自分の机だと判断したのか、ドスッと気怠げに椅子に腰掛け、大きなため息を吐き出していた。そのため息は、俺には猛獣が獲物を狩る前のものに聞こえる。
 
 おおぉお……、こ、怖い……。
 でも、挨拶はちゃんとしなさいって……。
 頑張れ俺……。
 第一印象は大事だ。

「あ、あの……っ! 柳瀬菜です。よろしく……お願いします……」
「ああ……」

 ひと言そう頷くと、スッと視線を寄越してくる。鋭い視線に挫けそうになってしまう。やはり話し掛けないほうが、良かったのだろうか。
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