王子×悪戯戯曲

幕間 Piece《悠斗side》

12

　──耳障りな音が聞こえる。

　ゆっくりと瞼を開けると、テーブルの上でバイブするスマホが軽やかな音を奏で着信を知らせていた。自分は今までなにをしていたのだろうと、これが夢なのか現実なのかすら判断できない。
　体調は最悪といっていいほど酷いものだった。ハァハァと荒い息を吐き出しながら、全身汗だくになっている。朦朧としながら、スマホを握ると意識を失ってからそう時間は経っていなかった。
　酸素を肺いっぱいに吸い込み、血液の循環を整える。その間にも、スマホは鬱陶しいほど何度も鳴っていた。

　こんなときに誰だ……。

　メッセージを開きハッとする。
　それは環樹先輩からのものだった。

「……くそッ──‼」

　メールの内容に青い顔をさらに青くさせる。
　言うことを聞かない身体を奮い立たせた。

　動け、動け、動け！
　早く、早く、動け！　動け‼

　ここ一ヶ月の自分の行動は記憶として残っていた。遠くを見つめ悲しそうにしている姿。無理矢理笑顔をみせる姿。大粒の涙を零していた姿。それがなぜなのか……今ならはっきり分かってしまう。

　抱えていたものは俺という存在……。
　悲しみを与えていたのは俺自身だ‼

「──俺は……なんてことをッ‼」

　混乱していた思考が徐々にクリアになり、二つの自分が一つになっていく。
　ふらつきながら立ち上がると、痛む頭に顔を歪め目的の場所へと足を進めた。


　走りながら何度も電話を掛けていた。けれどコールは虚しく鳴るだけだった。こんなにも焦っているのは、今までの自分の行いが、あまりにも残酷なものだったと実感しているからだ。
　友達という役を演じさせてしまった。無神経な自分の行動や言動に、一体何度傷ついたのだろうか。罪悪感がフツフツと湧き上がってくる。


　学校に到着すると、予め連絡を入れていた雅臣と村上君が、生徒会室の扉に耳をあてながら中の様子を窺っていた。

「あっ！　本当に王子が復活してる！」
「悠斗……お前……大丈夫なのか？」
「うん、平気……それより中の様子は？」

　二人は首を横に振る。

「静かなものだよ」
「本当に中にいんのか？」
「居る。画像が送られてきたから間違いない。けど、嫌がらせにしては悪趣味だ」

　不敵に笑い冷静を装うが、実際の胸の内は異なっていた。冷静で居られるはずもない。いつ戻るかも分からない恋人を、ただ一途に待ち続けるなど簡単なことではない。しかも、その相手は自分のことだけ忘れてしまったのだ。
　心が病まないほうがどうかしている。誰かに寄りかかり、癒やして欲しいと思うのは極自然なことだ。

　生徒会室の扉のノブに手を掛け、大きく息を吸い込み意を決して扉を開けた。