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幕間 Piece《悠斗side》
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「王子さ……柳ちゃんと急接近だっり?」
「ん? なんで?」
生徒会室で村上君がいきなりそう言ってきた。
「だってさ、ついこの間知り合ったばかりなのに、今日一緒に登校して来ると思っていなかった。それに教室まで送り届けるって姫対応。なにがあったのか気になるっしょ?」
「別におかしいことじゃないでしょ。隣同士だし、柳君、朝弱いみたいだし。話をしてると面白くて、時間が足りないんだよ」
トントンと紙の束を揃えホチキスでとめる。今日の作業はもうすぐ終わる。できることなら柳君と一緒に帰りたい。なぜ自分は生徒会に入ってしまったのか……。
「ああ、隣……知らなかったなー。まぁ柳ちゃん、朝はかなり弱いけど……」
「本当にどうして今まで会わなかったか不思議だよ。今日は起きていたみたいだけど、今まで遅刻とか大丈夫だった?」
「遅刻は、今のところないかな……ギリギリセーフってのはあったけど」
「そっか。今後は僕と一緒だし、朝の寝坊の心配は不要だね」
「うん、まぁ……だといいけど……」
笑顔の俺に反して、村上君は暗い表情を見せる。雅臣もだが、村上君も柳君の話になるといつもこうだ。二人は俺に柳君と仲良くなって欲しくはないのか。それとも取られたくはないからなのか。つい嫉妬心が芽生えてしまいそうになる。
「そういえば村上君と僕って、いつ友達になったっけ?」
「ああ、それはほら! 柳ちゃんの、皮剥きぃッ──アレ? なんだっけ~~ははは……多澤経由かな?」
「柳君? カワムキイ? それなんなの? 雅臣? ……そうだっけ?」
「俺ももう忘れちゃったよ。夏頃だったのは覚えてる。まぁほら、仲良くなる切っ掛けなんて、意外と些細なことじゃん?」
「うん、まぁ……そうだけど……」
退院してから柳君に会った日、違和感と一緒に思い出そうとしていたことがほかにもあった。村上君との馴れ初めや、生徒会に入った理由。ほかにも沢山疑問に思うことがあった。
最近、噛み合わないことが多く、病院で言われた可能性の話を身を持って実感していた。
記憶の欠落。
自分はなにか重要な鍵を落としている。
パズルのピースのように埋まらない部分が、時間が経つにつれて徐々に広がっているような気がしていた。
***
生活する度に気持ちの悪さが増していく。それと同時に柳君と過ごす時間も増え、精神的に均等が取れていた。近くにいるだけで心が満たされている。
今日は無理矢理お願いして、買い物に付き合ってもらうことになっていた。柳君に少し甘え過ぎかとも思ったが、一緒に居たくて堪らないのだ。
事故で壊れてしまったひび割れたスマホは、修理に出したが修復不能。データの復旧もできない有様。日常生活でスマホがないからといって支障はないが、柳君とこうして出掛ける切っ掛けにはなった。
約束の時間に隣に向かうと、慌てさせてしまったのかコートを羽織り、シャツを着崩した柳君が飛び出して来た。その姿にやはりスマホは必要なのかもしれないと思いながら、左の肩口に目が釘付けになる。一瞬理解ができず、頭にカーッと血が上り怒りに支配された。
キスマーク……いや……歯型……。
誰がこんな痕をつけたんだ!
うっ血した白い肌は艶かしく、見ているのが嫌で堪らない。これ以上見ていたら、自分は柳君に酷い言葉を言ってしまいそうだ。
吸い込まれるように勝手に伸びていく指先を、遮られてピタリと止まる。俺の視線から逃れるように、柳君がボタンを自ら閉めていた。
頬を染める柳君の憂い顔。ぐっと唇を戒め、それ以上の追及を諦めた。傷つくことを恐れている自分自身を、心の中で嘲笑ってやった。
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