王子×悪戯戯曲

そら汰★

文字の大きさ
上 下
342 / 716
幕間 Piece《悠斗side》

03

しおりを挟む

 おかしい……。
 この違和感はなんだ?


 昼休み昼食を取りながら、会いたかった柳君と話をして友達にもなれた。雅臣とは全く異なるタイプの柳君。二人が友達というのは意外としか言えない。村上君のクラスメイトで村上君ともずいぶん仲が良さそうだ。
 もちろん、柳君とこうして話ができて嬉しいが、俺の顔色をまるで窺うように、会話を合わせている……そんな感じが否めない。
 それと同時に、なぜ今までこの光景を目撃したことがないのか。三人が話す姿。白桜南高等学校に入学し、そろそろ一年になる。

 これは偶然なのか……?

 見たことがないのならきっとそう偶然なのだ……と、胸に引っ掛かるものを感じかながら、努めて冷静に柳君との距離を縮めていった。


***


 翌日、学校に行くなり朝から多勢の女の子に囲まれた。それは馴染んだ日常で、違和感なくしっくりときた。好意を持たれることに嫌になることはない。自然に足を止め笑顔を向ける自分に、女の子達がラッピングされた包みを渡してくる。
 すっかり日付の感覚が狂っている。どうやら今日は女の子の一大イベント、バレンタインデーだったようだ。目の前に差し出される可愛らしいラッピング。ぼんやりとそれを眺める自分。デジャブを何度も繰り返すような一日。


 夕方、校門を抜けしばらくすると、小さくため息を漏らした。
 おそらく自分があんなおかしな行動をしなければ、もっと事は簡単に進んだはず。お昼も食べる時間がなかった。折角柳君と友達になれたというのに、彼の姿すら今日は見ることが叶わなかった。憂鬱な気分で足取り重く、肩を落として帰宅していた。
 甘いものは嫌いではないが、多くは必要ではない。ひと口食べれば十分満足する。だから女の子達からのチョコを全て断った訳ではない。けれどこんな疲れた日には、不思議と食べたくもなるものだ。

「凄い……会えちゃった……」

 珍しくコンビニスイーツでも購入しようかと、帰り道のコンビニに目を向けると、ガラス越しに会いたかった人物の姿が目にとまった。偶然の出会いに嬉しくなり、足を進めようとして動けなくなる。
 柳君がなんとも儚げな表情で、一つの棚の前に佇んでいたからだ。潤んだ瞳から今にも零れそうな涙。躊躇うように手を伸ばし、首を横に振ると苦笑いして店の奥へと行ってしまった。
 店の前で待っていようかと思ったが、柳君が手を伸ばしたそれが気になりその場所へと向かう。

 これって……。


「ありがとう~ございました~♪」

 店員さんの元気な声にハッとする。レジのほうへと視線を向けると、柳君はお会計を済ませて出て行ってしまう。咄嗟にそれを手にし、自分も会計を済ませると、追いかけるように店をあとにした。

 幸いにも柳君の歩幅は狭く、店を出て少し離れた場所にうしろ姿を捉えた。走って追いかければいいものを、自分は一体なにをしているのだろう。これではまるでストーカーだ。
 柳君の背中を眺めるように距離を空け歩いていた。どう声を掛ければいいのか迷っているうちに、尾行みたいな真似事をしている。

 どうしよう……勢いで買っちゃったけど……。

 あんな顔で見ていたということは、なにか思い入れでもあるのだろうか。それを貰ったところで、彼はどう反応するのか。嫌われてしまうだろうか。
 コンビニ袋を広げ、先ほど入手したものと柳君のうしろ姿を交互に見つめる。そんな不審な行動をしているうちに、柳君は一軒の家の中に入っていってしまった。

 ──ウソでしょ……?
 ……これも偶然……そんなこと!

 驚きを隠せないのも無理はない。止めていた足を進め、ゴクリと唾を飲み込むと表札を確認する。そこには『YANAGI』という表札が掲げられていた。
 スッと隣の自分の家に目を向け、また柳君の家を見上げる。まさか隣同士など思ってもいなかった。信じなれない現実に、意を決してチャイムを鳴らした。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

愛する者の腕に抱かれ、獣は甘い声を上げる

すいかちゃん
BL
獣の血を受け継ぐ一族。人間のままでいるためには・・・。 第一章 「優しい兄達の腕に抱かれ、弟は初めての発情期を迎える」 一族の中でも獣の血が濃く残ってしまった颯真。一族から疎まれる存在でしかなかった弟を、兄の亜蘭と玖蘭は密かに連れ出し育てる。3人だけで暮らすなか、颯真は初めての発情期を迎える。亜蘭と玖蘭は、颯真が獣にならないようにその身体を抱き締め支配する。 2人のイケメン兄達が、とにかく弟を可愛がるという話です。 第二章「孤独に育った獣は、愛する男の腕に抱かれ甘く啼く」 獣の血が濃い護は、幼い頃から家族から離されて暮らしていた。世話係りをしていた柳沢が引退する事となり、代わりに彼の孫である誠司がやってくる。真面目で優しい誠司に、護は次第に心を開いていく。やがて、2人は恋人同士となったが・・・。 第三章「獣と化した幼馴染みに、青年は変わらぬ愛を注ぎ続ける」 幼馴染み同士の凛と夏陽。成長しても、ずっと一緒だった。凛に片思いしている事に気が付き、夏陽は思い切って告白。凛も同じ気持ちだと言ってくれた。 だが、成人式の数日前。夏陽は、凛から別れを告げられる。そして、凛の兄である靖から彼の中に獣の血が流れている事を知らされる。発情期を迎えた凛の元に向かえば、靖がいきなり夏陽を羽交い締めにする。 獣が攻めとなる話です。また、時代もかなり現代に近くなっています。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

「優秀で美青年な友人の精液を飲むと頭が良くなってイケメンになれるらしい」ので、友人にお願いしてみた。

和泉奏
BL
頭も良くて美青年な完璧男な友人から液を搾取する話。

処理中です...