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幕間 Piece《悠斗side》
03
しおりを挟むおかしい……。
この違和感はなんだ?
昼休み昼食を取りながら、会いたかった柳君と話をして友達にもなれた。雅臣とは全く異なるタイプの柳君。二人が友達というのは意外としか言えない。村上君のクラスメイトで村上君ともずいぶん仲が良さそうだ。
もちろん、柳君とこうして話ができて嬉しいが、俺の顔色をまるで窺うように、会話を合わせている……そんな感じが否めない。
それと同時に、なぜ今までこの光景を目撃したことがないのか。三人が話す姿。白桜南高等学校に入学し、そろそろ一年になる。
これは偶然なのか……?
見たことがないのならきっとそう偶然なのだ……と、胸に引っ掛かるものを感じかながら、努めて冷静に柳君との距離を縮めていった。
***
翌日、学校に行くなり朝から多勢の女の子に囲まれた。それは馴染んだ日常で、違和感なくしっくりときた。好意を持たれることに嫌になることはない。自然に足を止め笑顔を向ける自分に、女の子達がラッピングされた包みを渡してくる。
すっかり日付の感覚が狂っている。どうやら今日は女の子の一大イベント、バレンタインデーだったようだ。目の前に差し出される可愛らしいラッピング。ぼんやりとそれを眺める自分。デジャブを何度も繰り返すような一日。
夕方、校門を抜けしばらくすると、小さくため息を漏らした。
おそらく自分があんなおかしな行動をしなければ、もっと事は簡単に進んだはず。お昼も食べる時間がなかった。折角柳君と友達になれたというのに、彼の姿すら今日は見ることが叶わなかった。憂鬱な気分で足取り重く、肩を落として帰宅していた。
甘いものは嫌いではないが、多くは必要ではない。ひと口食べれば十分満足する。だから女の子達からのチョコを全て断った訳ではない。けれどこんな疲れた日には、不思議と食べたくもなるものだ。
「凄い……会えちゃった……」
珍しくコンビニスイーツでも購入しようかと、帰り道のコンビニに目を向けると、ガラス越しに会いたかった人物の姿が目にとまった。偶然の出会いに嬉しくなり、足を進めようとして動けなくなる。
柳君がなんとも儚げな表情で、一つの棚の前に佇んでいたからだ。潤んだ瞳から今にも零れそうな涙。躊躇うように手を伸ばし、首を横に振ると苦笑いして店の奥へと行ってしまった。
店の前で待っていようかと思ったが、柳君が手を伸ばしたそれが気になりその場所へと向かう。
これって……。
「ありがとう~ございました~♪」
店員さんの元気な声にハッとする。レジのほうへと視線を向けると、柳君はお会計を済ませて出て行ってしまう。咄嗟にそれを手にし、自分も会計を済ませると、追いかけるように店をあとにした。
幸いにも柳君の歩幅は狭く、店を出て少し離れた場所にうしろ姿を捉えた。走って追いかければいいものを、自分は一体なにをしているのだろう。これではまるでストーカーだ。
柳君の背中を眺めるように距離を空け歩いていた。どう声を掛ければいいのか迷っているうちに、尾行みたいな真似事をしている。
どうしよう……勢いで買っちゃったけど……。
あんな顔で見ていたということは、なにか思い入れでもあるのだろうか。それを貰ったところで、彼はどう反応するのか。嫌われてしまうだろうか。
コンビニ袋を広げ、先ほど入手したものと柳君のうしろ姿を交互に見つめる。そんな不審な行動をしているうちに、柳君は一軒の家の中に入っていってしまった。
──ウソでしょ……?
……これも偶然……そんなこと!
驚きを隠せないのも無理はない。止めていた足を進め、ゴクリと唾を飲み込むと表札を確認する。そこには『YANAGI』という表札が掲げられていた。
スッと隣の自分の家に目を向け、また柳君の家を見上げる。まさか隣同士など思ってもいなかった。信じなれない現実に、意を決してチャイムを鳴らした。
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