王子×悪戯戯曲

幕間 夢の中だけでも《瀬菜side》

01

　悠斗が記憶をなくした。

　その事実は俺を奈落の底へ落とすように蝕んだ。

　どうか……神様……せめて夢の中だけでも……。



◇◇◇



「瀬菜ちゃん、悠くん今日は大事な話があるの……」

　そう悠斗のおばさんは深刻な顔で言ってきた。
　嫌な予感に心臓がドクドクと音をさせる。

「おばさん？　どうしたの……？」
「大事な話って？」

　おばさんは深呼吸を繰り返し、俺達に言い放った。

「実は……あなた達、兄弟なの！」

　悠斗と俺は顔を見合わせポカンとする。

「おばさん、嘘はダメだよ」
「そうだよ母さん、第一年齢考えたら無理でしょ？」
「そうだよ！　俺と悠斗じゃ全然似ていないし！」
「でも、本当なのよ？　ミラクルなことにポンポン産まれちゃったのよ！」
「母さん、ポンポンって……犬じゃないんだから……」

　正論をぶつけるが、おばさんは俺達に事実を伝えるのに必死だ。

「信じられないのも無理はないわ。お母さんだって……びっくりしちゃったもの！　今まで黙っていてごめんなさい！」
「でも、まぁ……兄弟なら瀬菜はすぐにでも、うちで一緒に暮らさないとね」
「いや、お前なに納得しているんだよ！　根本的におかしいだろうが！」
「瀬菜は俺と兄弟は……嫌なの？」
「嫌とかそういう問題じゃなくて……」

　急に悠斗はその謎な事実を受け入れ、おばさんの代わりに説得しだした。

「恋人は別れることもあるけど、兄弟の絆はずっと切れないよ？　それに、瀬菜と四六時中一緒に居られる」
「そんな……恋人だって、絆は……あるだろ？　ずっと一緒に……」
「無理だよ……だって瀬菜は、俺を受け入れてくれないじゃないか……」
「そんなことない！　俺はいつだってお前と心が通じ合っている！」
「なら、瀬菜は今の俺でも愛してくれるの？」

　悠斗の虹彩が俺を貫く。
　今の悠斗は記憶がない。それでも愛せるのかと問おてくる。

「……俺は……」
「二人共、もういじゃない。兄弟で恋人なら一層お買い得よ？」
「そうだよね。俺もそれでいいと思う」

　いいのか？　そんなので……。
　なんなんだ、この意味不明な展開は……。

　なにかが──歪んで……。

　うわっーー‼　落ち、落ちるッ‼


　痛みに備えると、ポスっと柔らかなスプリングに身体が跳ねる。俺は真っ白い世界に落ちていた。ぐるりと四方を見渡しても、真っ白い世界。ひとり仰向けになりながら天井を見上げると、ひょっこりと悠斗が見下ろしてきた。

「瀬菜……ここに居たんだね。ずっと探していたんだよ？　折角兄弟になったんだ。お祝いしないといけないよ？　今日はいっぱい愛し合おうね？」
「えっ？　その設定まだ続いているの？　てか、お前……‼」