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第9幕 王子と王子
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ローテーブルの上に広げられた、パステルブルーのアルバムが目に映る。それは覚えのあるものだった。悠斗の誕生日に俺が贈ったものだが……おばさんに頼んで隠してもらっていたはずだ。
「参考書を片そうとしたら、見覚えなかったからなんとなく手にしたんだ。DVDを再生してアルバムを捲ると、自分の成長していく写真と一枚一枚に添えられたメッセージ。所々に柳君に似た子が写っていて疑問が生まれた」
おばさんはわざと棚に戻した?
黙っていれば問題ないでしょと……。
今頃ひとりでクスクス笑っているのだろうか。
「一体誰から貰ったのか……最後のページを捲ったとき、愛情たっぷりのメッセージ。それからハッピーバースディの曲に合わせて流れ込んで来る誕生日会の記憶と一年ごとの記憶。瀬菜が一生懸命作ってくれたから……やっぱり魔法だよね?」
ふわりと悠斗は微笑む。
もし、これを隠していなければ、もっと早く解決していたのだろうか。
「それじゃ……隠したの意味なかったのか?」
「どうかな? 今思うと、柳君と友達になってからのことも必要だった気もする。現実と合致しないことで、少しずつ記憶が呼び起こされていたのかも」
「そっか……あの時間は無駄じゃなかったんだ……」
「うん。記憶がないときのことも、ちゃんと覚えているよ? 今振り返ると、なんとも不思議な感じだけどね」
初めて会ったと装い、一から始めた友達付き合い。
辛くてシンドくて潰れそうになった。
でも、そんな日々の積み重ねで回復できたなら、つい数時間前までの俺も救われる。
「あとは環樹先輩の悪戯かな。メールが来て……ほらこれ」
先輩のメッセージには、文化祭でしたメイドの姿と、今着ている女子高生姿の俺の画像。『どっちの子が好み?』という内容に、先輩の自撮り写真。ブルーマリーヌのマフラーを巻いているものだった。『姫乃ちゃんに貰った~♪ これから告白タイム! ドキドキ♡』と浮かれた様子で……。
「記憶を取り戻せたと安心していた矢先にこれだもん。混乱する頭には丁度いい再確認にはなったけど……。瀬菜のところに行きたくても、中々身体が言うこと聞かなくて凄く焦った。もし先輩と瀬菜が付き合うことになったら……考えたくはないけど、一ヶ月も瀬菜を忘れていた俺には、なにも言えないなって……悔しかった」
悠斗は唇を噛み締め、自分自身に憤りを感じているようだ。悠斗が悪い訳ではない。不幸な事故がたまたま重なったのだ。それに俺も悠斗を責める立場ではない。
「俺もね、先輩にキスされて、悠斗との絆が途切れたみたいだった。……ちょっと、諦めそうになったんだ。悠斗が思い出さなかったら、俺ひとりで生きていく自信がなくて……先輩の好きにすればいいって……投げやりになっていたんだ」
俺の言葉を聞いた悠斗は、とても辛そうにしていた。
「瀬菜にそんなこと思わせるなんて、やっぱり俺は最低だ……」
「でも、悠斗は来てくれた。ピンチのときは、いつも助けてくれるんだ」
へらりと笑うと、悠斗は顔を上げ少し涙ぐみながら、俺を見つめてくる。
事故があったあの日、「すぐ戻る」と言っていた悠斗に言えなかった言葉。
「悠斗……おかえり」
「うん……ただいま……瀬菜」
ふわりと溶けるような優しい微笑みで、すべてが戻ったことを伝えてくれた。
「参考書を片そうとしたら、見覚えなかったからなんとなく手にしたんだ。DVDを再生してアルバムを捲ると、自分の成長していく写真と一枚一枚に添えられたメッセージ。所々に柳君に似た子が写っていて疑問が生まれた」
おばさんはわざと棚に戻した?
黙っていれば問題ないでしょと……。
今頃ひとりでクスクス笑っているのだろうか。
「一体誰から貰ったのか……最後のページを捲ったとき、愛情たっぷりのメッセージ。それからハッピーバースディの曲に合わせて流れ込んで来る誕生日会の記憶と一年ごとの記憶。瀬菜が一生懸命作ってくれたから……やっぱり魔法だよね?」
ふわりと悠斗は微笑む。
もし、これを隠していなければ、もっと早く解決していたのだろうか。
「それじゃ……隠したの意味なかったのか?」
「どうかな? 今思うと、柳君と友達になってからのことも必要だった気もする。現実と合致しないことで、少しずつ記憶が呼び起こされていたのかも」
「そっか……あの時間は無駄じゃなかったんだ……」
「うん。記憶がないときのことも、ちゃんと覚えているよ? 今振り返ると、なんとも不思議な感じだけどね」
初めて会ったと装い、一から始めた友達付き合い。
辛くてシンドくて潰れそうになった。
でも、そんな日々の積み重ねで回復できたなら、つい数時間前までの俺も救われる。
「あとは環樹先輩の悪戯かな。メールが来て……ほらこれ」
先輩のメッセージには、文化祭でしたメイドの姿と、今着ている女子高生姿の俺の画像。『どっちの子が好み?』という内容に、先輩の自撮り写真。ブルーマリーヌのマフラーを巻いているものだった。『姫乃ちゃんに貰った~♪ これから告白タイム! ドキドキ♡』と浮かれた様子で……。
「記憶を取り戻せたと安心していた矢先にこれだもん。混乱する頭には丁度いい再確認にはなったけど……。瀬菜のところに行きたくても、中々身体が言うこと聞かなくて凄く焦った。もし先輩と瀬菜が付き合うことになったら……考えたくはないけど、一ヶ月も瀬菜を忘れていた俺には、なにも言えないなって……悔しかった」
悠斗は唇を噛み締め、自分自身に憤りを感じているようだ。悠斗が悪い訳ではない。不幸な事故がたまたま重なったのだ。それに俺も悠斗を責める立場ではない。
「俺もね、先輩にキスされて、悠斗との絆が途切れたみたいだった。……ちょっと、諦めそうになったんだ。悠斗が思い出さなかったら、俺ひとりで生きていく自信がなくて……先輩の好きにすればいいって……投げやりになっていたんだ」
俺の言葉を聞いた悠斗は、とても辛そうにしていた。
「瀬菜にそんなこと思わせるなんて、やっぱり俺は最低だ……」
「でも、悠斗は来てくれた。ピンチのときは、いつも助けてくれるんだ」
へらりと笑うと、悠斗は顔を上げ少し涙ぐみながら、俺を見つめてくる。
事故があったあの日、「すぐ戻る」と言っていた悠斗に言えなかった言葉。
「悠斗……おかえり」
「うん……ただいま……瀬菜」
ふわりと溶けるような優しい微笑みで、すべてが戻ったことを伝えてくれた。
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