王子×悪戯戯曲

そら汰★

文字の大きさ
上 下
314 / 716
第9幕 王子と王子

25

しおりを挟む
「まだ具合悪い?」
「もう大丈夫……けどお水もう少し貰っていい?」

 ゆっくりと起き上がる悠斗に、コップを渡すとコクコクと飲み干しフーッと息を吐く。赤みが刺した顔色にひとまず安心する。

「病院行く?」
「ううん……月曜日に検診があるし、今は問題ないから」

 そうは言うものの、心配は心配。悠斗が体調を崩すことは小さい頃は別にして、今まであまりなかった。もしまた同じような症状が出たら、大丈夫と言われても引きずって病院に行こうと思った。
 コップを片そうと立ち上がろうとすると、悠斗に腕を取られ、やはり具合が良くないのではと不安になってしまう。

「柳君……柳君と……僕は……イヤ……ああ、そう指は大丈夫?」
「えっ? あーー! 忘れていた‼」
「まだ血出ているよ? 結構切ったんじゃない?」
「そうじゃなくて! シャツ‼ 脱いで‼」
「えっ……その……ずいぶん積極的だね? 先に絆創膏貼らないと……」
「あ、そっか……」

 冷水で指に付いた血を流すと、悠斗がガーゼで拭きとり消毒をしてから、絆創膏を貼ってくれる。傷を見る限りそこまで深くはなさそうだ。

「立花君、シャツ脱いで? 俺の血が付いちゃって……洗うから」
「本当だ。これぐらいあとでも平気だよ」
「イヤ、その……背中にも……ホラー映画みたいだから。なにかほかに着るの出すからちょっと待っていて!」


 悠斗にトレーナーを渡し着替えてもらう。

「わー……これは恐怖だな……」
「だから言ったじゃん! ホラーでしょ?」
「うん。殺人事件に遭遇したみたい」
「これ洗って明日にでも返すね?」

 先に浸け置きをしておこうと、シャツを広げていると悠斗は思わぬことを言ってきた。

「……ねぇ、今日泊まってもいい?」
「へっ?」
「あと……もう一回……」

 フワリと抱きしめられてしまう。
 咄嗟のことに目を丸めるが、どこか様子がおかしい。

「──不安……なんだ……自分でも良く分からないけど……こんなの初めてで……」

 震える悠斗が今にも泣きそうな声で呟く。悠斗がなに対して不安を感じているのか、俺には分からなかったが、今の悠斗をひとりにしてはいけないのではと直感する。

「……立花君……俺、なにもできないけどさ、好きなだけ居てくれていいよ?」
「ありがとう……柳君。優しいね……」

 耳元で囁く悠斗からゆっくり離れる。

「えへへ……なら明日アイス奢ってね?」
「寒いのにアイスなの?」
「そうだよ? 寒いって言いながら食べるのが贅沢!」
「風引いちゃいそう。けどもし風邪引いたら僕が看病するね?」
「さっきも言ったけど、俺丈夫だから。ここ数年風邪なんて引いたことないし! それはそうと……どうしよっか?」
「ん?」
「安静にしながらだと……やっぱ、DVD鑑賞かな?」

 キョトンとする悠斗を二階の部屋へと誘うと、なに観る? と確認する。とはいえ俺が持っている映画はほとんどホラー映画だ。そんな中、夏に観たホラー映画を悠斗はチョイスした。

 これを選ぶとは……本能なのか?

 一緒に居ると過去を辿られているのは、まるで自分のような気がしてしまう。今日一日でどれだけ辿っただろうか。流れる映像を観ながら、当時のことを思い出す。
 悠斗がさり気無く買って来てくれたドリンクとポップコーン。ドキドキとしながら怖いもの見たさで、次はどうなるんだとストーリーを楽しんだ。映画が終わると二人でどのシーンが怖かったと、興奮しながら話をした。遠いようで近い過去。

「まだ一年も経ってない……」
「うん……そうだよね……恐怖は半減かな……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」 突然、降って湧いた結婚の話。 しかも、父親の工場と引き替えに。 「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」 突きつけられる契約書という名の婚姻届。 父親の工場を救えるのは自分ひとり。 「わかりました。 あなたと結婚します」 はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!? 若園朋香、26歳 ごくごく普通の、町工場の社長の娘 × 押部尚一郎、36歳 日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司 さらに 自分もグループ会社のひとつの社長 さらに ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡 そして 極度の溺愛体質?? ****** 表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】 【続編も8/17完結しました。】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785 ↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

処理中です...