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第9幕 王子と王子
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四の五の言わずにいいから来いと、多澤に学校の外へと連れ出された。しばらく歩くと、学校から少し離れた場所にある小さな病院に到着した。そこは精神疾患を主としている病院。
病室の前で入れと言われ、まさか悠斗が……と思いながら中へ入ると、風に揺れるカーテンの向うで、ベッドに腰掛けぼんやりと外の景色を眺めている女の子が居た。
なぜ俺がここへ連れて来られたのか分からない。俺の隣に立つ多澤と少女を何度も交互に見てしまう。セミロングの細身の女の子。少しやつれた様子で覇気がない。
どこかで……見たことあるような……。
「先輩、約束通り連れて来ましたよ。全部、話してくれますよね?」
先輩と呼ばれた女の子は、チラリと俺を見るとまた俯いてしまう。その姿を見てハッとする。
「悠斗を呼び出した人……だよね?」
「おお瀬菜、お前にしてはいい推理だな」
「推理じゃなくて事実を思い出したんだ!」
多澤は俺の反論には興味をみせず、女の子へと声を投げ掛けた。その表情は真面目なもので、俺もそれ以上は口を挟まず静かに見守っていた。
「悠斗は先日事故にあった。目撃情報によると女子生徒を庇って落ちた。ただ、その前に少し揉めている様子も目撃されている。けど、落下した原因の真相はまだ分かっていない。それはなぜか……記憶が曖昧な悠斗。精神を患っていると嘘をつき通しているあなたの証言がないからだ。このまま黙りを決め込んで逃げるつもりですか? 悠斗はあなたを訴えることだってできたんですよ。それをお優しい悠斗が事故だったと取り下げた。真実を言う責任があなたにはある」
多澤はそう言うと、女の子は大きくため息を吐き出し、ポツリポツリと話し始めた。
「私が精神的に参っているのは本当よ。嘘じゃないわ。つい数日前までは、自分がなにを言っているのかも訳が分からなかったもの。あなたもしつこいわよね。今から言うことだって、私でさえ真実か分からない。それでもいいなら、約束通り話してあげる」
女の子は俺達より一つ学年が上の二年生。
先輩は掛け布団を握りしめ仄かに震えながら言った。
「……庇うなんてそんな綺麗なことじゃないわ。あれは立花君自らの意思で飛び降りたのよ。私が悪い訳じゃない……。そう、揉めてなんかいない……私が一方的に挑発しただけよ。それがまさかこんなことになるんて……落ちるなんて……頭がイかれているのは彼よ……私じゃない……悪いのは私じゃない……私は悪くない……」
ガタガタと震える先輩は自分は悪くないと繰り返し、曖昧ながらもそのときの状況を説明した。それが事実ならなぜ周囲に隠す必要があるのだろうか……。疑問が頭の中に浮かび、俺は思わず呟いていた。
「庇ってじゃない? 挑発って……どういうこと?」
俺の声を聞いた先輩は、震える身体をピタリと停止させ、ギョロリとした双眸でなぜか俺を睨んできた。その攻撃的な視線に俺は怯み一歩うしろへ後退した。睨まれただけでは動じることもないが、その視線には殺気も感じたのだ。
「文化祭のとき、あなた襲われたでしょ」
そのひと言に俺の鼓動が跳ね上がる。
多澤も同じように驚愕し、俺を庇うように一歩前へと出た。
「──なんで……知って……」
「あれは一部の生徒会メンバーと理事会しか知らない内容だ。なにも関係ない先輩が知ってる訳ない。どこで聞いたんだ」
先輩はニタリと笑みを見せると、すぐに無表情に変わりまた俯き続きを言った。
病室の前で入れと言われ、まさか悠斗が……と思いながら中へ入ると、風に揺れるカーテンの向うで、ベッドに腰掛けぼんやりと外の景色を眺めている女の子が居た。
なぜ俺がここへ連れて来られたのか分からない。俺の隣に立つ多澤と少女を何度も交互に見てしまう。セミロングの細身の女の子。少しやつれた様子で覇気がない。
どこかで……見たことあるような……。
「先輩、約束通り連れて来ましたよ。全部、話してくれますよね?」
先輩と呼ばれた女の子は、チラリと俺を見るとまた俯いてしまう。その姿を見てハッとする。
「悠斗を呼び出した人……だよね?」
「おお瀬菜、お前にしてはいい推理だな」
「推理じゃなくて事実を思い出したんだ!」
多澤は俺の反論には興味をみせず、女の子へと声を投げ掛けた。その表情は真面目なもので、俺もそれ以上は口を挟まず静かに見守っていた。
「悠斗は先日事故にあった。目撃情報によると女子生徒を庇って落ちた。ただ、その前に少し揉めている様子も目撃されている。けど、落下した原因の真相はまだ分かっていない。それはなぜか……記憶が曖昧な悠斗。精神を患っていると嘘をつき通しているあなたの証言がないからだ。このまま黙りを決め込んで逃げるつもりですか? 悠斗はあなたを訴えることだってできたんですよ。それをお優しい悠斗が事故だったと取り下げた。真実を言う責任があなたにはある」
多澤はそう言うと、女の子は大きくため息を吐き出し、ポツリポツリと話し始めた。
「私が精神的に参っているのは本当よ。嘘じゃないわ。つい数日前までは、自分がなにを言っているのかも訳が分からなかったもの。あなたもしつこいわよね。今から言うことだって、私でさえ真実か分からない。それでもいいなら、約束通り話してあげる」
女の子は俺達より一つ学年が上の二年生。
先輩は掛け布団を握りしめ仄かに震えながら言った。
「……庇うなんてそんな綺麗なことじゃないわ。あれは立花君自らの意思で飛び降りたのよ。私が悪い訳じゃない……。そう、揉めてなんかいない……私が一方的に挑発しただけよ。それがまさかこんなことになるんて……落ちるなんて……頭がイかれているのは彼よ……私じゃない……悪いのは私じゃない……私は悪くない……」
ガタガタと震える先輩は自分は悪くないと繰り返し、曖昧ながらもそのときの状況を説明した。それが事実ならなぜ周囲に隠す必要があるのだろうか……。疑問が頭の中に浮かび、俺は思わず呟いていた。
「庇ってじゃない? 挑発って……どういうこと?」
俺の声を聞いた先輩は、震える身体をピタリと停止させ、ギョロリとした双眸でなぜか俺を睨んできた。その攻撃的な視線に俺は怯み一歩うしろへ後退した。睨まれただけでは動じることもないが、その視線には殺気も感じたのだ。
「文化祭のとき、あなた襲われたでしょ」
そのひと言に俺の鼓動が跳ね上がる。
多澤も同じように驚愕し、俺を庇うように一歩前へと出た。
「──なんで……知って……」
「あれは一部の生徒会メンバーと理事会しか知らない内容だ。なにも関係ない先輩が知ってる訳ない。どこで聞いたんだ」
先輩はニタリと笑みを見せると、すぐに無表情に変わりまた俯き続きを言った。
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