王子×悪戯戯曲

そら汰★

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第9幕 王子と王子

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 眉を寄せる悠斗に胸が詰まる。
 その姿に咄嗟にチョコを受け取ってしまった。

「なら、遠慮なく……ありがとう」
「へへっ……どういたしまして。それじゃ、また学校でね」

 チョコだけを渡し早々に帰ろうとする悠斗。チョコを渡すためだけに、家に訪れたのだろうか。『また』と言われ、『またね』と言えない自分がいる。

「あ、あの! 立花君! 家上がってく⁉」
「えっ……」
「うちの親ほとんど居ないし、良かったら……なんだけど」
「い、いいの⁉」

 あ……しまった……なにやっているんだよ俺!
 自分からボロ出そうとしているじゃないか!
 はぁ……いまさら帰れとか言えねぇ……。

「嬉しいな♪ もっと柳君と話したいなって思っていたんだ」
「そっ、そっか……なにもないけど……どうぞ……」
「うん。お邪魔します」
「あっ、先に上──!」

 いつもの癖が早速出てしまう。

「ん?」
「ううん。俺の部屋二階なんだ。こっち……」

 危うく先に部屋に上がっていてと言いそうになり、軌道修正を掛ける。ドキドキしながら、部屋へ案内すると案の定驚く悠斗。

「わー……凄い……ベッド大きいね」
「そうなんだ。俺もそう思うけど貰いものなんだ」
「へぇ~、でも寝相悪くても落ちないで済むね!」
「うん。寝心地良過ぎて朝起きられないで困っているよ」
「朝は苦手?」
「うん……凄く苦手。そんなことより、適当に座っていてよ! 俺、お茶淹れて来るから」

 気持ちを落ち着かせるためキッチンへと向かう。
 悠斗に対して初めてを説明するのがなんとも不思議で、けれどスラスラと出てくる言葉に俺自身戸惑っていた。言葉を発する度、まるで嘘をついているような気がしてならない。事実もあるが、その度に胸の中に違和感が広がっていく。
 ヤカンを火に掛けながらグツグツと沸騰する音を聞き、切ない気持ちも茹だるように沸き上がる。

「お待たせ。大したものじゃ御座いませんが……」
「ふふっ……いただきます。柳君って面白いね」
「どこが? 普通だよ?」
「コロコロ表情が変わるから見ていて飽きない。短期間でいっぱい色々見れたもん」

 悠斗……今目の前に居る俺は、嘘だよ?
 偽りの自分を見せているに過ぎない……。
 それでもお前は俺を友達だと言うのか?

「──ぎくん、柳君? 大丈夫? ボーッとしているけど」
「……えっ? わあっ‼ あつ──ッ‼」
「大丈夫⁉ 早く冷やさないと! 火傷しちゃう!」
「平気だよ……そこまで温度高くないし」
「ダメだよ! 見せて? ほら、赤くなって……いる……よ?」

 顔を上げると目の前に悠斗のドアップ。あまりの近さに目を広げ固まってしまう。しばらく見つめ合うと歯車が動き出したように、お互いに慌てふためく。

「あ、えっと、あのっ! 俺、冷やして来るね!」

 冬の冷たい水道水で、お茶を掛けてしまった指先を冷やしながら火照った顔を一緒に冷やしていく。冷水がジンジンと皮膚を撫で、痛みに顔を歪め瞳を潤ませていた。
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