王子×悪戯戯曲

そら汰★

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第9幕 王子と王子

09

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 俺の言葉に二人は呆然と固まって息を飲んでいる。

「それって……みんなのこと忘れているってこと?」
「たぶん……俺だけ……」
「嘘だろ⁉ 悠斗に限ってそんなことある訳ない‼」
「柳ちゃんの勘違いとかじゃないの? だって王子だよ⁉」
「きっと悠斗のブラックジョークだぜ」

 焦る二人にヒュッと息が跳ね上がる。

「──ッ、なんだよ……そんなの──ッ、俺だって信じたくないよ‼ でも本当のことだから仕方ないだろ‼」

 一気にそう捲し立てると、二人がグッと息を飲み言葉をなくす。気不味い空気が流れるが多澤はすぐに謝罪をしてきた。

「悪い瀬菜……お前が一番の当事者なのに、無責任な発言だった」
「そう、だよね……柳ちゃんごめん……」
「……いや、俺こそ……怒鳴ってごめん……」

 三人で俯いていると、多澤が場を和ませるように言う。

「なぁ……瀬菜。夕方、悠斗に会いに行かないか?」
「もう一度顔見たらきっと! あと昔話とかしたら思い出すかもしれないよね!」
「……そのことだけどさ。俺……悠斗に会わないほうがいいと思っているんだ」
「はぁ?」
「ちょ、ちょっとなんでよ柳ちゃん!」

 チャイムが鳴り響き、時計を見ればすっかりホームルームの時間が迫っていた。

「ああくそッ! 瀬菜、続きは昼休みだ! 逃げんじゃねぇぞ! 村上! 屋上までそいつ引っ張って来いよ!」
「了解‼」
 
 必死な多澤に逃げないよ馬鹿……とボソリと呟き、先生の話もソコソコに午前中を上の空で過ごした。



「ほい。柳ちゃんの分」
「ありがとう……」

 昼休み屋上で村上が買って来てくれた、菓子パンとイチゴ牛乳を受け取り、ブスッとしている多澤を目の前に、封を開けてモシャモシャと食べ始める。

「おい、お前を見ていると、大問題だと思えねぇんだけど」
「問題だろ? 凄く落ち込んでいる。でも昨日の夜からなにも食べていないんだ……嫌でも腹は減る」
「食べられなくなるよりはいいじゃない」
「そうだけどよ……それで? 朝の続きだ。会わないほうがいいってなんでだよ」

 食べるのをやめ、病院で担当医が話していたことを伝えた。

「先生から聞いた話ではさ、解離性健忘じゃないかって。心のストレスとかで発症するんだって。俺のこと忘れているのは、俺に対してなにかしらストレスを感じていたんだと思う。それってさ、無理矢理思い出させるの……良くない気がして……」

 自分なりに考えた結論。なにが起こるか分からないからこそ慎重になりたい。そう考えるのは、おかしなことではないはずだ。

「……それは、悠斗を思ってだよな」
「そうだよ! それじゃ、柳ちゃんの気持ちはどうなっちゃうの?」
「今はさ、俺のことより悠斗が安心して暮らせる環境が、一番大事なことだろ?」
「でもよ、全く会わないで生活するなんて無理だぞ? お前だって今の悠斗を見る度に、冷静で居られないだろうが!」
「うん……だから俺からは会わない。悠斗が俺に近付けば普通にする」
「普通って……恋人同士だったことも内緒にするの?」
「内緒。だからお前らも悠斗には言わないで欲しいんだ」

 そう締めくくると、多澤と村上は複雑な面持ちで口を閉ざした。
 それから多澤は躊躇い気味に言った。

「もし……もしもだぞ? 悠斗がこのままずっと思い出さなかったら?」
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