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第9幕 王子と王子
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扉の前で立ち竦む俺に、おばさんが近付き手を取るとふわりと微笑みかけてくれた。その表情は少し疲れているように見える。
「瀬菜ちゃん、来てくれたのね。雅臣君も、村上君も心配掛けてごめんなさいね」
ブンブンと首を横に振り、おばさんに笑顔を向ける。おばさんのほうがきっと心配なはずだ。
ちゃんと俺は笑えているのか……。悠斗以外のことで、これ以上おばさんに心配を掛けたくはなかった。
「悠くん見た目はこんなだけど、お医者様も大丈夫だろうっておっしゃていたから」
「うん……おふくろも問題ないって言っていたよ」
「悠斗が病院運ばれたって聞いたときは、焦りましたけどね。ああ、そうだ。おばさん、これ悠斗の荷物」
「あら、わざわざありがとう。悠くんの荷物それしかなかったから」
サイドテーブルに置かれていたのは悠斗のスマホ。
「壊れてしまったかしらね?」
最近のスマホは頑丈だ。落ちても画面が割れるほどには中々ならない。割れた画面を見れば、相当な衝撃だったのではないかと予想ができる。
「お父さん、学校に話を聞きに行ってくれるみたいだけど、本当になにがあったのかしら? 喧嘩とかじゃなきゃいいのだけれど……」
「それなら、俺達もおじさんと一緒に戻ります。案内できるんで」
「柳ちゃんはどうする? ここに残る?」
村上の問いかけに、家族でもない自分が残ってもいいのだろうかと虚ろげに瞳を彷徨わせる。
「瀬菜ちゃんさえ良ければ、側に居てくれないかしら?」
「……俺、居てもいいの?」
「もちろんよ。悠くんもそのほうが嬉しいと思うし、おばさんと交代で様子見てくれたら助かるわ」
おばさんの気遣いに歯に噛みながら頷く。多澤と村上になにかあれば連絡しろと釘を刺され、悠斗のベッドの脇に置かれたパイプ椅子に腰掛ける。
おばさんは多澤達を下まで送って来ると言い、ひとり眠る悠斗をジッと見つめていた。
「悠斗……お前、なにがあったんだよ……」
悠斗の手をギュッと握る。
「すぐに戻るって言ってただろ……」
返事がないことは分かっているが、ひとり言を呟き悠斗に呼びかけてしまう。
「ッ──早く……目覚ませよ……」
いつもの微笑みで何事もなかったように『瀬菜、大丈夫だよ? 心配掛けてごめんね?』と言葉を返して欲しい。
止まっていた涙が、ジワリと目頭を熱くし静かに零れ落ちる。温かい手のぬくもりに、大怪我せずに済んで良かったと手の甲に唇を落とした。
見送りから戻ったおばさんが、肩にブランケットを掛けてくれる。時折おばさんと小声で会話をしていたが、薄暗い室内は静まり返っていた。
ただ悠斗の寝顔を見ているだけなのに、時間が緩やかに過ぎていく。けれどその時間は俺にとっては、とても長い時間に感じられた。
気が張っていたのもあるが、いつもの就寝時間を過ぎても眠りが訪れることはなかった。椅子に座り船を漕ぐおばさんに、先に仮眠を取るようにお願いした。
ベッドに腕をつき、蹲るように頭をシーツに乗せ悠斗の指先に指を絡める。目が覚めたとき、なんと言葉を掛けようかと、口元を緩ませる。そんなことを想像しているうちに、睡魔に襲われハッとする。何度もそれを繰り返していると、夜が明ける前に俺は完全に意識を手放していた。
「瀬菜ちゃん、来てくれたのね。雅臣君も、村上君も心配掛けてごめんなさいね」
ブンブンと首を横に振り、おばさんに笑顔を向ける。おばさんのほうがきっと心配なはずだ。
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「悠くん見た目はこんなだけど、お医者様も大丈夫だろうっておっしゃていたから」
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おばさんの気遣いに歯に噛みながら頷く。多澤と村上になにかあれば連絡しろと釘を刺され、悠斗のベッドの脇に置かれたパイプ椅子に腰掛ける。
おばさんは多澤達を下まで送って来ると言い、ひとり眠る悠斗をジッと見つめていた。
「悠斗……お前、なにがあったんだよ……」
悠斗の手をギュッと握る。
「すぐに戻るって言ってただろ……」
返事がないことは分かっているが、ひとり言を呟き悠斗に呼びかけてしまう。
「ッ──早く……目覚ませよ……」
いつもの微笑みで何事もなかったように『瀬菜、大丈夫だよ? 心配掛けてごめんね?』と言葉を返して欲しい。
止まっていた涙が、ジワリと目頭を熱くし静かに零れ落ちる。温かい手のぬくもりに、大怪我せずに済んで良かったと手の甲に唇を落とした。
見送りから戻ったおばさんが、肩にブランケットを掛けてくれる。時折おばさんと小声で会話をしていたが、薄暗い室内は静まり返っていた。
ただ悠斗の寝顔を見ているだけなのに、時間が緩やかに過ぎていく。けれどその時間は俺にとっては、とても長い時間に感じられた。
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ベッドに腕をつき、蹲るように頭をシーツに乗せ悠斗の指先に指を絡める。目が覚めたとき、なんと言葉を掛けようかと、口元を緩ませる。そんなことを想像しているうちに、睡魔に襲われハッとする。何度もそれを繰り返していると、夜が明ける前に俺は完全に意識を手放していた。
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