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第5幕 噂の姫乃ちゃん
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女性ものの下着など履いていられるかと、ひとまずワンピースを着る。四苦八苦しながらチャックを上げ表へと出た。
「ほら、着たぞ。満足か」
男らしく言ったはずだが彼女達には全くそうは見えないようだ。瞳を潤ませながら口々に「生きていて良かった」と、意味不明なことを言われる始末。
「当日はパンティーもちゃんと履くのよ」
冷静に三浦さんがそう言う。
メガネの奥にある瞳が全く笑っていない。
どうやら俺が下着を変えなかったことは、すでにお見通しのようだ。
「パンツは見えないでしょ! ボクサー系履けばスカートからも出ないじゃん!」
「ダメダメ~! だって前かがみとかになったとき、男物見えたら萎えるじゃん! そんな中途半端じゃ萌えないわよ!」
「いや、俺萌え求めてねぇーし! てかなんで俺がメイドしなきゃならないんだよ!」
反論するが全く聞く気はないようだ。
「ウイッグどれにする? 地毛と同じ色合いならアミ付けなくても良さそうだよ?」
「このロングは? ふわふわでお人形さんみたいになりそう」
「当日はお化粧してツケマしてー、あとはカラコンだね。グレー系がいいかも」
「うんうん、いいね! やっぱ素材がいいと違うね~」
俺、現在ほかの男子より格段に時間をかけられ、着せ替え人形状態です。
「瀬菜っち、足もツルツル~! 剃る必要ないじゃん。はい、ソックス履いてみて~♪」
「ウイッグも完了~♪ あとはカチューシャして~♪」
「はい、立って~。エプロン着けるから」
「サイズもバッチリだね! もうちょいボリューム必要かも。パニエとフリルで盛ろう」
こんなに女子に囲まれたことは今までにないが、下半身が気になって仕方ない。
「あっ、あのさ。これミニ過ぎない? スースーするんだけど……」
「よし! 完成は当日の楽しみにしておいて♪」
俺の意見はスルーですか……?
ぐったりしつつ更衣室をあとにすると、村上が涙目で抱きつき「仲間~」と言ってきた。俺だけではなく安心するが、執事服はドコイッチャタノカナ……と、遥か彼方を見つめながら心の中で涙を流した。
「柳ちゃん、その袋なに?」
「パンツだよ。お前も貰っただろ?」
「いや、貰っていないよ?」
「………」
それ以上なにも言えない俺でした……。
自宅に帰り、悠斗に手伝ってもらいながら飾りを作っていた。けれど先ほどから俺の手先は止まったままだ。
「今日は早く帰れて良かったね」
「うん」
「瀬菜のところは今日衣装合わせだったんでしょ?」
「うん」
「執事服どうだった? 可愛いんだろうなー。あっ、でも執事より瀬菜は見習いみたいな感じになるのかもね」
「うん」
「瀬菜? どうしたの?」
「うん」
現在どうやって逃げ出そうか画策中です。
楽しそうに話しをする悠斗に、俺は空返事をしていた。
急に目の前が陰る。
「──んッ、ちょ……ゆう……ふっ……んッ」
顎を取られ悠斗が俺の唇を塞いできた。
唇が離れるとムスッとした悠斗のドアップ。
「さっきから瀬菜、ずっと上の空だよ!」
「ごめん、考え事。別に大したことじゃないけど……」
「本当に? 瀬菜がそういうときって大体なにかあるんだよね」
「ないし! で……なんだっけ?」
ごまかすように笑顔を返すと、ジーッと訝しげに見つめてくる悠斗。背中に冷や汗がたらりと伝う。
「お前ってやっぱ、かっこいいな!」
「もう、またそうやって惚けるんだから」
「またじゃない! 素直と言え」
箝口令も敷かれているのだ。恋人だからと言って簡単には話せない。それに、メイドのことを言えば悠斗がなにを仕出かすか。
コスプレからも悠斗からも逃げる方法……。
……仮病でも使うか?
楽しみにしていた文化祭が俺の黒歴史の一つに加わるのかと思うと、今からため息が止まらない。
物思いに耽る俺の代わりに、悠斗が飾りをポンポンと仕上げていく。だから俺は気付かなかった……。いつもと違う俺の様子に、悠斗が目を光らせていたということを──。
「ほら、着たぞ。満足か」
男らしく言ったはずだが彼女達には全くそうは見えないようだ。瞳を潤ませながら口々に「生きていて良かった」と、意味不明なことを言われる始末。
「当日はパンティーもちゃんと履くのよ」
冷静に三浦さんがそう言う。
メガネの奥にある瞳が全く笑っていない。
どうやら俺が下着を変えなかったことは、すでにお見通しのようだ。
「パンツは見えないでしょ! ボクサー系履けばスカートからも出ないじゃん!」
「ダメダメ~! だって前かがみとかになったとき、男物見えたら萎えるじゃん! そんな中途半端じゃ萌えないわよ!」
「いや、俺萌え求めてねぇーし! てかなんで俺がメイドしなきゃならないんだよ!」
反論するが全く聞く気はないようだ。
「ウイッグどれにする? 地毛と同じ色合いならアミ付けなくても良さそうだよ?」
「このロングは? ふわふわでお人形さんみたいになりそう」
「当日はお化粧してツケマしてー、あとはカラコンだね。グレー系がいいかも」
「うんうん、いいね! やっぱ素材がいいと違うね~」
俺、現在ほかの男子より格段に時間をかけられ、着せ替え人形状態です。
「瀬菜っち、足もツルツル~! 剃る必要ないじゃん。はい、ソックス履いてみて~♪」
「ウイッグも完了~♪ あとはカチューシャして~♪」
「はい、立って~。エプロン着けるから」
「サイズもバッチリだね! もうちょいボリューム必要かも。パニエとフリルで盛ろう」
こんなに女子に囲まれたことは今までにないが、下半身が気になって仕方ない。
「あっ、あのさ。これミニ過ぎない? スースーするんだけど……」
「よし! 完成は当日の楽しみにしておいて♪」
俺の意見はスルーですか……?
ぐったりしつつ更衣室をあとにすると、村上が涙目で抱きつき「仲間~」と言ってきた。俺だけではなく安心するが、執事服はドコイッチャタノカナ……と、遥か彼方を見つめながら心の中で涙を流した。
「柳ちゃん、その袋なに?」
「パンツだよ。お前も貰っただろ?」
「いや、貰っていないよ?」
「………」
それ以上なにも言えない俺でした……。
自宅に帰り、悠斗に手伝ってもらいながら飾りを作っていた。けれど先ほどから俺の手先は止まったままだ。
「今日は早く帰れて良かったね」
「うん」
「瀬菜のところは今日衣装合わせだったんでしょ?」
「うん」
「執事服どうだった? 可愛いんだろうなー。あっ、でも執事より瀬菜は見習いみたいな感じになるのかもね」
「うん」
「瀬菜? どうしたの?」
「うん」
現在どうやって逃げ出そうか画策中です。
楽しそうに話しをする悠斗に、俺は空返事をしていた。
急に目の前が陰る。
「──んッ、ちょ……ゆう……ふっ……んッ」
顎を取られ悠斗が俺の唇を塞いできた。
唇が離れるとムスッとした悠斗のドアップ。
「さっきから瀬菜、ずっと上の空だよ!」
「ごめん、考え事。別に大したことじゃないけど……」
「本当に? 瀬菜がそういうときって大体なにかあるんだよね」
「ないし! で……なんだっけ?」
ごまかすように笑顔を返すと、ジーッと訝しげに見つめてくる悠斗。背中に冷や汗がたらりと伝う。
「お前ってやっぱ、かっこいいな!」
「もう、またそうやって惚けるんだから」
「またじゃない! 素直と言え」
箝口令も敷かれているのだ。恋人だからと言って簡単には話せない。それに、メイドのことを言えば悠斗がなにを仕出かすか。
コスプレからも悠斗からも逃げる方法……。
……仮病でも使うか?
楽しみにしていた文化祭が俺の黒歴史の一つに加わるのかと思うと、今からため息が止まらない。
物思いに耽る俺の代わりに、悠斗が飾りをポンポンと仕上げていく。だから俺は気付かなかった……。いつもと違う俺の様子に、悠斗が目を光らせていたということを──。
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