王子×悪戯戯曲

そら汰★

文字の大きさ
上 下
132 / 716
第4幕 盛り沢山な夏休み

25

しおりを挟む

 や、やばい……。
 俺ってなんでいつもみんなの予想を裏切らなんだろ……。

 はい、迷子です──。
 むしろ俺って凄くね⁇

 こうなったのはとても簡単だった。花火もクライマックスを迎え、連続で大輪の花を豪快に打ち上げられると山彦のように大きな音を空に残して光が溶けていった。あちこちで拍手が湧き起こり歓声が上がると、空には撮影と思える報道のヘリコプターが何台も飛び交っていた。
 みんなで駅に早目に向かおうと階段を降り歩いていると、言い合いをするカップルに目を奪われた。最初は口喧嘩だなと思っていたが、女性が男性に思い切りビンタをする姿に思わず足を止めてしまった。そのあとに起こった追撃に俺は青ざめた。
 女性はこともあろうに、男性の股間を思い切り下から蹴り上げたのだ。男としてそこはやめてあげて欲しいところだ。痛そうだなと悠斗に伝えようとすると、知っている顔は周りにはなかった。

 取り敢えずメールをしてみるが、予想通り送信ができない。電話も同じようにコールできず、ツーツーと繰り返すばかり。
 そっと息を吐き、指定された待ち合わせ場所に向かおうとすると、腕をキツく掴まれ路地に引きずり込まれてしまう。

「──ふぅぅッ‼」

 叫ぼうとすると口を手で覆われ、急なことに驚いた俺はジタバタとする。

「シッ……静かにして……」

 そう小さく囁かれ相手の顔を睨み上げる。

 お、お前──ッ‼
 ナニしてんのっ‼

 シーっと唇に人差し指をあて黙ってと要求してくる。
 その視線はどうやら大通りを窺っている様子だ。

「ああんっ‼ もう、どこ行っちゃったのよぉ‼」
「さっきあっちに行った気がするぅ~~」
「こんなところで会えるなんて、超ラッキーだったのにぃ!」
「フラグ立ったって興奮したのにねぇ~。……あっ、あれ違くない⁉」
「えっ、どこどこ⁉ 追うわよ‼ 立花くーんっっ♡」

 暗い路地から見える大通りには、二人の女の子が悠斗を探す姿があった。カラカラと下駄の音を響かせながら遠のいていく。そんな姿に安堵し、悠斗と二人で止めていた息を吐き出す。

「お前、なにやってんの……」
「それはこっちのセリフだよ。急に居なくなっているし」
「ははは……予想を裏切らないと褒めてくれ。それよりなんだったんだ?」
「ああ、ほらあの子……夕涼みのときの子」
「あぁ~~、胸のデカイ悠斗にキスした子か」
「うわぁー、瀬菜の言葉で思い出しちゃった。気持ち悪い……ちょっと瀬菜……」

 悠斗は俺の顎を持ち上げてくる。

「へっ? うっ、ちょッ──ンッ、ふっ──ぅぅぅっ‼」

 くちゅくちゅっと、暗闇に静かに奏でられる水音。壁に腕をついた悠斗に挟み込まれた俺は、なすがままに顎を取られ唇を奪われていた。濃厚なキスがしばらく続き、身体の力が抜け壁に背中を預けながら悠斗に追い詰められてしまう。

「ふぅぅ、ン、んんっ、あふっ……」
「ンッ……ん……ん」

 悠斗は俺の口腔を貪ると、ゆっくりと唇を離し囁く。

「……クスッ、これですっきりした」
「すっきりって……こんなところでするなよ」
「だって、上書きしたかったし。でも良かった。追い掛けられたとはいえ、瀬菜に合流できたし。本当に神隠しみたいに消えるんだもん」
「あの子ファイターだな。相当悠斗が好きなんだろ。俺もみんなが居なくて焦った。ちょっと股間が痛くて……。村上と多澤は? きっと待ってね?」
「大丈夫。先に帰ってもらった。待ち合わせ場所も人凄くて、待っているの無理そうだったし」
「そっか、なら安心だな」

 次に会ったときに多澤には嫌味を言われそうだ。
 俺達も帰ろうと言おうとすると、悠斗が思い出したように言う。

「そうだ……神隠しって言えば。さっき神社あったとこ……出るらしいよ?」
「──えっ‼ なにそのミラクルファンタジー‼ 出るの⁉ 出ちゃうの⁉」

 興奮する俺に、悠斗は残念そうな表情を見せる。

「……いや、そこ普通怖がるところでしょ。けど、瀬菜が出ちゃうとか言うとなんか……えっちいね」
「……馬鹿なの?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

不透明な君と。

papiko
BL
Dom/Subユニバースのお話。 Dom(美人、細い、色素薄め、一人称:僕、168cm) 柚岡璃華(ユズオカ リカ) × Sub(細マッチョ、眼鏡、口悪い、一人称:俺、180cm) 暈來希(ヒカサ ライキ) Subと診断されたがランクが高すぎて誰のcommandも効かず、周りからはNeutralまたは見た目からDomだと思われていた暈來希。 小柄で美人な容姿、色素の薄い外見からSubだと思われやすい高ランクのDom、柚岡璃華。 この二人が出会いパートナーになるまでのお話。 完結済み、5日間に分けて投稿。

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。

アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。 捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!! 承諾してしまった真名に 「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

雨晴れアジサイボーイ&ガール

ハリエンジュ
恋愛
晴れのように天真爛漫な少女・朝霧陽菜(あさぎり ひな)と、雨の日に傘を差さない不思議な癖を持つ気難しい少年・平坂春也(ひらさか はるや)の恋の話。 153cmの春也と、185cmの陽菜の32(サニー)cm・逆身長差ラブな短編。

処理中です...