王子×悪戯戯曲

そら汰★

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第3幕 溢れる疑惑

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 悠斗は俺に近付くと、目線の位置に身体を屈めてきた。躊躇いながら手を伸ばし頬に触れる。ビクッと震え顔を背ける俺に、辛そうな表情をしながら、泣き腫らした目元を撫で微笑みかけてくる。

「瀬菜……ごめんね。こんなに目が腫れちゃうほど辛い思いさせて……もう少しだけ俺に時間をちょうだい? あとでちゃんと話す……ちゃんと謝るから……嫌いにならないで?」

 そう言う悠斗の声は震えていた。

「……悠斗……俺、お前のこと好きだけど……納得できなきゃ……お前とは一緒に居られない」

 こんなに心が折れるのはもう沢山だ……。
 強い視線でそう訴え意思表示をする。
 悠斗は深い息を吐くと、俺を抱きしめギュッと力を込めた。

「なら俺は瀬菜が納得するまで、みっともなくても説得し続ける。俺は瀬菜じゃなきゃダメなんだ」

 悠斗の言葉に胸が苦しくなる。離れたくないのは俺も同じだ。それならなぜ今すぐ真実を教えてくれないのか。俺のことよりもそれは重要なことなのか。
 悠斗の身体を引き剥がし立ち上がる。横から伸びてきた腕を避け、悠斗から距離をとる。

「瀬菜君は意外と頑固だね。まぁ、そんなところも可愛いけど。今は僕がひとりじめ~。さぁ、行こう~」

 祐一さんがそう言い腕を組んでくる。
 うしろから悠斗が佐伯さんを呼び止める声がしたが、祐一さんに促され先に駐車場へと向かった。


 祐一さんは俺と後部座席に座ろうとする。そんな祐一さんを佐伯さんは俺から引き剥がすと「祐一は助手席」と押し込まれ、不服そうにしている。
 俺は悠斗と少し距離を取り後部座席に座ると、悠斗が逆に距離を詰めて来る。プイッと顔を逸らし動き出した車の窓から外を眺めていると、悠斗に腕を引かれ反動で膝の上に倒れ込んでしまう。

「──ちょっ! 悠斗!」
「動かないで……冷やすだけだから……お願い……」

 悠斗の切実な声に俺は怒りを鎮め大人しくした。
 瞼の上にアイマスクを掛けられ、その上からハンカチを巻いた氷嚢を置かれる。冷たくて泣き腫らした目に染み渡る。どうやら佐伯さんにお願いして用意してくれたようだ。

「冷た過ぎたら教えて? これで少しは腫れがなくなると思うから」
「……うん」

 なにも見えない中で、悠斗のぬくもりを感じる。優しい手付きで何度も頭を撫でられ、凍えていた心が溶けていく。あんなに悲しい気持ちになっていたのに、些細な気遣いが嬉しくてたまらない。
 一緒には居られないと自ら言ったものの、果たして自分が悠斗から離れられるのか……答えは否。どんな理由であろうと、結局最後は許してしまうのだろう。



 車に揺られしばらくすると緩やかに停車した。
 アイマスクを着けていたので、どこなのかさっぱり見当がつかない。

「悠斗君ここ……ゆっ──!」
「祐一……少し黙れ……」

 祐一さんの押さえ込まれたようなくぐもった声が聞こえる。

「二人共先にいいですか?」
「分かった。ほら祐一……」

 パタン、パタンとドアが閉まる音がし、外の音が車内に入り込むが、すぐに密閉された音に変わる。着いたのならとアイマスクを取ろうとすると悠斗に遮られてしまう。

「……なに? 着いたんだろ?」
「ん? まだだよ……もう少しこのまま待っていて?」

 また扉が開く音がすると、空中にふわりと身体が浮上した。見えない中でなにが起こっているのだろう。唯一気配を感じる悠斗に嫌でもしがみ付いてしまう。
 パタンとまた扉が閉じる音が聞こえ、ピピっとロック音がするのはきっと車に鍵を掛けたからだ。外の空気を感じていると一変して空気は途絶え、冷んやりした建物の中らしき空気に変わる。段差を何度も上がっているような感覚がする。揺れが収まり立ち止まった悠斗の胸の中から、静かに床の上に身体を降ろされる。

「瀬菜……アイマスク取るけど、眩しいかもしれないから……ゆっくり目を開けて?」
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