王子×悪戯戯曲

そら汰★

文字の大きさ
上 下
28 / 716
第2幕 逃亡劇の果てに

07

しおりを挟む
 俺の気持ちなどどうでも良さうに言う悠斗に、頭が沸騰し怒声を吐き出す。

「それだけだって⁉︎ 俺はショックだったんだぞ‼︎ 手伝いだって口実で本当は俺のことが面倒──っ」

 言い終わる前にガバッと抱きしめられ「良かった……」と呟く悠斗は、俺を強く抱きしめながらポツリポツリと話し始めた。

「誰が見たか知らないけど。夕涼みの手伝いで、足挫いた子がいたんだ。俺が怪我させたみたい。だから家まで送って行った。途中でその子、歩けなくなって公園のベンチで休んでいた。そしたらいきなりキスされて……。たぶん、それ見られたんだと思う。だから彼女じゃない」

 俺の想像とは全く異なることを言われるが、昂った感情では怒りが収まらない。それに俺の機嫌を取るために、適当なことを言っているのかもしれない。

「──ッ、嘘だ‼︎」
「嘘ついてどうするの? 瀬菜は俺の話より、他人の噂を信じるの?」
「うっ、それは……」

 親友だと言っておきながら、自分は悠斗の言葉をなぜ素直に受け止めようとしないのだろう。

「……悠斗が嘘つくとは思えない。でも、辻だって嘘は言っていない。見た事実を話してくれただけだ。話を聞いたとき、内緒にされたことに腹が立った。それに悠斗に彼女ができたら、俺はもう悠斗に甘えられない……そう思うとさ、なんか……離れなきゃって……」

 悠斗の俺を抱きしめる力が強まる。

「それはダメ……甘えてよ」
「でも、いずれは……」

 俺達、別々に過ごしていくだろ?
 そう言いたくても言葉が喉に詰まる。

「……キスした子さ、胸のでかい可愛い子なんだろ?」
「うん、胸は大きいけど、瀬菜のほうが可愛い。キスしたくなかった」
「なんだよそれ……そんなに嫌そうに言うなよ」
「嫌だよ……吐きそうになったし」

 完全否定する悠斗の言葉になぜだかスーッと、俺の苛立ちが消えていく。久々に感じる悠斗のぬくもりが心地良くて、俺も悠斗の背中に自然と腕を回していた。

「もし、仮に彼女……は、まぁ、できないけど。ほかの出来事で今までと違うことが起きたら、瀬菜には一番に伝える。……だから、もうなにも言わないで逃げたりしないで?」

 背中に回していた手のひらで悠斗の背中を宥めるように叩くと、悠斗は腕の力を緩めて顔を上げる。その面持ちは今にも泣きそうで、無視したことを反省させられた。

「悠斗……ごめん」

 俺が謝罪の言葉を呟くと、ふにゃりと微笑み俺の肩口に顔を埋めてきた。

「あーあ、瀬菜のせいでこの三日間地獄だった」
「うん、悪かった」
「嫌われたと思って、夜も眠れなかった」
「だから、ごめんってば」
「看病していただけなのに、彼女とか言い掛かりつけられるし、無視されるし」
「それも、ごめん……なさい……」
「やっと瀬菜見つけたと思ったら、手は振り払われるは凄く冷たいし怒ってるし」
「あ──っ! もう、分かったよ! なんでもいうこと聞くから、許してくださいっ‼︎」

 俺が放った言葉に、パッと顔を上げ嬉しそうにしたかと思えば、目を細めニタッと悪そうな笑顔に変わっていく。

「本当に、本当になんでも?」

 あれ……ヤバイまずった? と思う俺に、悠斗は衝撃的なことを言ってくる。

「今日から三日間、瀬菜は俺の奴隷ね♡ いっぱい言うこと聞いて、いっぱい慰めてね♡」
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

愛する者の腕に抱かれ、獣は甘い声を上げる

すいかちゃん
BL
獣の血を受け継ぐ一族。人間のままでいるためには・・・。 第一章 「優しい兄達の腕に抱かれ、弟は初めての発情期を迎える」 一族の中でも獣の血が濃く残ってしまった颯真。一族から疎まれる存在でしかなかった弟を、兄の亜蘭と玖蘭は密かに連れ出し育てる。3人だけで暮らすなか、颯真は初めての発情期を迎える。亜蘭と玖蘭は、颯真が獣にならないようにその身体を抱き締め支配する。 2人のイケメン兄達が、とにかく弟を可愛がるという話です。 第二章「孤独に育った獣は、愛する男の腕に抱かれ甘く啼く」 獣の血が濃い護は、幼い頃から家族から離されて暮らしていた。世話係りをしていた柳沢が引退する事となり、代わりに彼の孫である誠司がやってくる。真面目で優しい誠司に、護は次第に心を開いていく。やがて、2人は恋人同士となったが・・・。 第三章「獣と化した幼馴染みに、青年は変わらぬ愛を注ぎ続ける」 幼馴染み同士の凛と夏陽。成長しても、ずっと一緒だった。凛に片思いしている事に気が付き、夏陽は思い切って告白。凛も同じ気持ちだと言ってくれた。 だが、成人式の数日前。夏陽は、凛から別れを告げられる。そして、凛の兄である靖から彼の中に獣の血が流れている事を知らされる。発情期を迎えた凛の元に向かえば、靖がいきなり夏陽を羽交い締めにする。 獣が攻めとなる話です。また、時代もかなり現代に近くなっています。

処理中です...