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そら汰★

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「……なによ……既読になった途端に電話とかキモイんですけど」

 ため息と共に苛立ったような蒼海のハスキーボイスが鼓膜に吹き込まれる。

『なによ、じゃないでしょうが。どこに居るの? 家にも帰っていないよね?』
「んー……帰ってない。ベッドでゆっくりしたかったけど心の旅に出ていたの」
『迎えに行くから場所教えて』

 事情を説明すると呆れながらもタクシーで迎えに来ようとする蒼海を阻止する。俺の今日のバイト代だけでも足りない金額になりそうだからだ。
 それに見渡す限り寒さを凌げる店などなく、街灯がポツンと暗闇を照らしているのみ。一時間半も薄暗い駅でおとなしく待っていたらそれこそ凍えてしまう。

「お前達の家行くから待っててよ」
『……来なかったらメッセージに入れた通りのことするからね』
「はいはい……約束するよ」

 メッセージの内容を思い返し、フッと唇を上げ蒼海には見えない笑みを作り通話を切る。
 都心に向かう上り電車は終電も早くギリギリ間に合って良かったが、双子のマンションに着く前に日付は変わってしまうだろう。
 今度は眠ってしまわぬようにブラックコーヒーを数本買い、これから二人に聞きたい内容を纏めてみることにした。冬馬から受け取った贈りものは玉手箱のような代物だった。けれどこれは自分の推理に過ぎないのだ。実際に双子から事情を聞く必要がある。
 ギュッとぬるくなった缶コーヒーを握り締め、誰に言う訳でもなくポツリと呟いた。

「ははっ……逃げられなくなったな……」

 ずっと逃げていた。
 それを言ってしまったら軽蔑されると恐れていた。
 答えはすでに出ているのだ。けれど答えを返す必要も、自分の気持ちを伝える必要もないのだと。
 逃げられない……ではなく、もう逃げないでとあの頃の小さな自分が訴えていた。


 ピタリと足が止まる。遠くに長身のシルエットが二つ。すぐに双子だと認識すると、なぜか目頭が熱くなってしまう。溢れ出しそうな涙を涙袋に戻すように空を仰ぎ、ハァーっと白い息を吐き出し鼻を啜ると双子の元に駆け寄った。
 エントランスの灯りに照らされた二人の面差しが見えてくる。心配そうな面持ちはすぐに安堵したような柔らかなものに変わる。
 いつからそこで待っていたのだろうか。粉雪は止んでいたが、薄らと木々や地面を白く色付かせている。この寒空では風邪を引いてもおかしくはない。
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