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第9章 キラキラ砂糖は奇跡の輝き90%
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大きな大人。知らない大人。
靴も脱がずに突然部屋に現れた男達は、悲鳴を上げる母親を取り囲んでいた。那津は母親を守るため、伸ばされるいくつもの手に噛み付き抵抗した。
「なにを手こずっている」
ほかの大人達とは違う空気を纏った男がひとり現れると、那津に視線を向けニヤリと笑った。
「ほぉ、これは驚いた。逃げ出したのは、このちびのせいか」
「……母さんは僕が守る!」
「それは面白い。ずいぶん威勢がいいな。それに、いい目をしている」
睨み付ける那津の双眸に劣らず男の眼光は鋭かった。
怯みそうになる気持ちを母を守りたい一心で対抗した。けれど小さな那津など大人に敵うはずもない。
猫を弄ぶように、首根っこを取られ母親と共に連れていかれた。
そこは大きな純和風のお屋敷だった。
母親はかぐや姫になったのかもしれない。
ホッとするのも束の間、その日から母親の悲鳴のような叫び声を聞くことになった。
聞こえてくるのは獣のような呻き声。苦しそうでいてどこか切なげな声。甘い香りは、那津が閉じ込められていた部屋にまで途切れることなく漂っていた。
那津が部屋から出されたのは数日経った頃だった。
母親の姿に目を潤ませながら飛び付いた。
「母さんっ!」
「那津……ごめんね……ひとりにさせて……寂しい思いをさせて……」
「僕、平気……これからは一緒にいられる?」
少しやつれた母親は涙を流しながら微笑み頷いた。
「冬音さん、そろそろ」
「ええ……。那津、静かにしているのよ」
コクリと頷き母親に抱えられながら、那津は男に視線を向けた。母親を気遣う男に自分と近しいものを感じる。
(この人がきっと母さんの本当の王子様……)
お屋敷を出てから竜治という男と、母親の三人での生活が始まった。
どこかは分からなかったが、自然が多い町だった。小さな一軒家は三人で暮らすには十分な広さで、なに不自由なく過ごせるお城になった。
竜治は那津を本当の息子のように可愛がってくれた。自分を父親と思ってくれと言ってくれた。
初めて得た父親という存在。父がいて母がいる。
二つ揃うと、こんなにも満たされるのだと、自分が愛情に飢えていたことを実感し隠れて涙をそっと流した。
どこにでもいる幸せな家族。なにより母親の笑顔が那津には嬉しかった。
それから二ヶ月ほど経ち、季節は夏を迎えていた。
蝉が煩いほどに鳴き、暑い日差しを受けながら那津は毎日のように外を駆け回っていた。
新しい生活に馴染み出し、年相応に友達もできた。前のように父親のことで嫌なことも言われたくなった。自分達の昔のことなど誰も知らない町は、那津の心から苦い鎖を解き放ってくれた。
誕生日には初めての丸い大きなイチゴのショートケーキに興奮した。六歳の夏は那津にとって最高に幸せな瞬間となった。
靴も脱がずに突然部屋に現れた男達は、悲鳴を上げる母親を取り囲んでいた。那津は母親を守るため、伸ばされるいくつもの手に噛み付き抵抗した。
「なにを手こずっている」
ほかの大人達とは違う空気を纏った男がひとり現れると、那津に視線を向けニヤリと笑った。
「ほぉ、これは驚いた。逃げ出したのは、このちびのせいか」
「……母さんは僕が守る!」
「それは面白い。ずいぶん威勢がいいな。それに、いい目をしている」
睨み付ける那津の双眸に劣らず男の眼光は鋭かった。
怯みそうになる気持ちを母を守りたい一心で対抗した。けれど小さな那津など大人に敵うはずもない。
猫を弄ぶように、首根っこを取られ母親と共に連れていかれた。
そこは大きな純和風のお屋敷だった。
母親はかぐや姫になったのかもしれない。
ホッとするのも束の間、その日から母親の悲鳴のような叫び声を聞くことになった。
聞こえてくるのは獣のような呻き声。苦しそうでいてどこか切なげな声。甘い香りは、那津が閉じ込められていた部屋にまで途切れることなく漂っていた。
那津が部屋から出されたのは数日経った頃だった。
母親の姿に目を潤ませながら飛び付いた。
「母さんっ!」
「那津……ごめんね……ひとりにさせて……寂しい思いをさせて……」
「僕、平気……これからは一緒にいられる?」
少しやつれた母親は涙を流しながら微笑み頷いた。
「冬音さん、そろそろ」
「ええ……。那津、静かにしているのよ」
コクリと頷き母親に抱えられながら、那津は男に視線を向けた。母親を気遣う男に自分と近しいものを感じる。
(この人がきっと母さんの本当の王子様……)
お屋敷を出てから竜治という男と、母親の三人での生活が始まった。
どこかは分からなかったが、自然が多い町だった。小さな一軒家は三人で暮らすには十分な広さで、なに不自由なく過ごせるお城になった。
竜治は那津を本当の息子のように可愛がってくれた。自分を父親と思ってくれと言ってくれた。
初めて得た父親という存在。父がいて母がいる。
二つ揃うと、こんなにも満たされるのだと、自分が愛情に飢えていたことを実感し隠れて涙をそっと流した。
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それから二ヶ月ほど経ち、季節は夏を迎えていた。
蝉が煩いほどに鳴き、暑い日差しを受けながら那津は毎日のように外を駆け回っていた。
新しい生活に馴染み出し、年相応に友達もできた。前のように父親のことで嫌なことも言われたくなった。自分達の昔のことなど誰も知らない町は、那津の心から苦い鎖を解き放ってくれた。
誕生日には初めての丸い大きなイチゴのショートケーキに興奮した。六歳の夏は那津にとって最高に幸せな瞬間となった。
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