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第8章 想いに×砂糖は清らかであれ5%
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刺されたはずの傷口は内出血の痣と、手術痕が薄っすらと残るもののほぼ完治していた。あと数日もすれば、刺されたことなど分からないほどに……。
「どういうことだ……まさか……郁哉を使ったのか?!」
「はい、勝手ながら……血液を少々」
七瀬の言葉にサァーっと血の気が引いていく。それからすぐにフツフツと茹だりそうな怒りが込み上げ、真っ赤に顔を染めながら怒声を室内に響かせた。
「なにをしている……お前っ! なにをしたのか分かっているのか!! 郁哉まで化け物にしたんだぞッ!」
七瀬の胸ぐらを掴み声を荒げると、七瀬は落ち着いた様子で尾鷹に答えた。
「ええ、十分承知してます。これは私と彼が望んだことです。貴方を失うぐらいなら、例え違法な行為でも手を尽くします。それは凩君も同じです。彼はすぐに受け入れ、自分を犠牲にしても貴方を助けたいと必死でした。坊っちゃんのお気持ちも分かりますが、彼の想いはもっと清らかで真っ直ぐでしたよ。化け物ってのは、単に異形で一般とは掛け離れたものではないと、私は思いますがね」
真っ直ぐに瞳を見ながらそういう七瀬の真摯な言葉に、尾鷹は苦虫を噛み潰したような形相で、顔を背け俯いた。
「……全部……話したのか……」
「いえ、大まかにだけ」
震える指先で七瀬の白衣をぐしゃりと握り締めると、突き離すように胸を押し返した。
「坊っちゃん、凩君の想いはしっかり届いたはずです。そろそろ本気でオク病も卒業してはいかがです? 彼はずっと待っていますよ。貴方からの声を、貴方自身から伝えられることを。彼は坊っちゃんのように、弱い人間じゃありませんよ」
見習ったらどうだと遠回しに言う七瀬は、項垂れる尾鷹の肩を叩き「もう少し休まれてください」と言い部屋を出ていった。
ただ郁哉には普通に過ごして欲しかった。
自分と同じような思いはさせたくはなかった。
はにかむような表情で微笑む郁哉が脳裏に浮かぶ。あの笑顔を壊してしまったのは自分自身だ。
郁哉を離したくないと自身で招いた傲慢と執着。けれどいまさら引き返すことなどできない。
ふわりとそよ風が頬を撫でる。
冬だというのにどこか温かい。
……しゃんとなさいッ!──。
ピクリと小さく肩を跳ねさせると、頭の中に背中を叩く声が響いたような気がした。
指先に力を込め掌を握り締めると尾鷹は顔を上げた。
カーテンの揺れが静かに治まると、漣のように荒ぶっていた気持ちが嘘のように凪いでいく。
「……こんな奇跡みたいな運命あるかよ」
目頭が熱くなるのを感じると、振り切るように自身の両頬を叩き叱咤する。
点滴に繋がれた腕に刺さった針を抜き取り、上掛けを剥ぎベッドから抜け出ると、力強く前へと踏み出した。
その表情は揺るぎのない、決意を固めた者がする顔付きだった。
「どういうことだ……まさか……郁哉を使ったのか?!」
「はい、勝手ながら……血液を少々」
七瀬の言葉にサァーっと血の気が引いていく。それからすぐにフツフツと茹だりそうな怒りが込み上げ、真っ赤に顔を染めながら怒声を室内に響かせた。
「なにをしている……お前っ! なにをしたのか分かっているのか!! 郁哉まで化け物にしたんだぞッ!」
七瀬の胸ぐらを掴み声を荒げると、七瀬は落ち着いた様子で尾鷹に答えた。
「ええ、十分承知してます。これは私と彼が望んだことです。貴方を失うぐらいなら、例え違法な行為でも手を尽くします。それは凩君も同じです。彼はすぐに受け入れ、自分を犠牲にしても貴方を助けたいと必死でした。坊っちゃんのお気持ちも分かりますが、彼の想いはもっと清らかで真っ直ぐでしたよ。化け物ってのは、単に異形で一般とは掛け離れたものではないと、私は思いますがね」
真っ直ぐに瞳を見ながらそういう七瀬の真摯な言葉に、尾鷹は苦虫を噛み潰したような形相で、顔を背け俯いた。
「……全部……話したのか……」
「いえ、大まかにだけ」
震える指先で七瀬の白衣をぐしゃりと握り締めると、突き離すように胸を押し返した。
「坊っちゃん、凩君の想いはしっかり届いたはずです。そろそろ本気でオク病も卒業してはいかがです? 彼はずっと待っていますよ。貴方からの声を、貴方自身から伝えられることを。彼は坊っちゃんのように、弱い人間じゃありませんよ」
見習ったらどうだと遠回しに言う七瀬は、項垂れる尾鷹の肩を叩き「もう少し休まれてください」と言い部屋を出ていった。
ただ郁哉には普通に過ごして欲しかった。
自分と同じような思いはさせたくはなかった。
はにかむような表情で微笑む郁哉が脳裏に浮かぶ。あの笑顔を壊してしまったのは自分自身だ。
郁哉を離したくないと自身で招いた傲慢と執着。けれどいまさら引き返すことなどできない。
ふわりとそよ風が頬を撫でる。
冬だというのにどこか温かい。
……しゃんとなさいッ!──。
ピクリと小さく肩を跳ねさせると、頭の中に背中を叩く声が響いたような気がした。
指先に力を込め掌を握り締めると尾鷹は顔を上げた。
カーテンの揺れが静かに治まると、漣のように荒ぶっていた気持ちが嘘のように凪いでいく。
「……こんな奇跡みたいな運命あるかよ」
目頭が熱くなるのを感じると、振り切るように自身の両頬を叩き叱咤する。
点滴に繋がれた腕に刺さった針を抜き取り、上掛けを剥ぎベッドから抜け出ると、力強く前へと踏み出した。
その表情は揺るぎのない、決意を固めた者がする顔付きだった。
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