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第7章 砂に落ちた砂糖は赤黒く塗れる0.1%
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行く宛もなく郁哉はネオンが煌めく夜の街を歩いていた。
冷たい夜風が頬を撫でると苛立ちも宥められていく。
ほんの些細な嘘……。
そんな小さな嘘にもかかわらず、七瀬に酷いことを言ってしまった。けれど信頼していたからこその反動だった。
尾鷹がなんであれ郁哉は構わない。理由があるにせよ、ひた隠しにする内容ではないはずだ。
(結局、那津にとって俺はただの遊び……あの人が言う通り、都合のいい玩具……)
地面が瞳に映る。
ドンッと肩に衝撃を受けよろめくと罵声を浴びる。
水玉模様が地面に染み込み、雨だ……と、見上げる空は視界が歪み見て取れない。
鼻を啜り匂いを確かめるが、雨の匂いは感じられない。
頬を伝うぬくもりに触れ、自分が泣いていることに気付く。
(……ダサ、これじゃ本当に恋人気取りじゃん)
一緒に暮らし肌を重ねることで勘違いを起こしている。
自分だけが特別なのだと……。
調子に乗っているのは郁哉自身。
勝手に裏切られたと腹を立て、思い通りにいかないことに駄々をこねる子供のようだ。
コツっと額になにかが当たる。
よろめきながら歩みを止める。
「なにしてるっ……大人しくしていろと……言っただろっ」
息を切らし焦った様子の低音が耳に届く。
肩を上下に揺らし、眉を怒りに歪める尾鷹が目の前に佇んでいる。
なぜここに居るのだろうかと他人事に、ぼんやりと尾鷹の姿を見つめる。
「帰るよ」
動きを止める郁哉に、尾鷹の手が伸びてくる。その手から逃れるように身を引くと唇が勝手に動いていた。
「帰る場所は自分で決める」
「はあ? 郁哉、いい加減にしろ」
「砂糖依存症は完治した。合宿はもう終わりにする。性欲処理したいならほかを当たってよ」
「なにを言って……」
「俺は那津の玩具じゃない。それに、恩は身体でしっかり返した」
「お前、そんなこと思っていたのか?」
尾鷹の低い声がさらに下がり、啞然としながら仄かな憤りを放っている。
「那津、言っていたよね? 友達とは思っていないって。だから平気で嘘だって……。セフレは嫌だ。俺、最初はそれでもいいと思った。那津のこと好きだった。けど、今はそれ以上に辛い。那津の側に居ると女々しくなる。もう懲りごりなんだよ」
これ以上は無理。辛くて辛くて堪らない。
尾鷹に執着していたくない。勘違いしたくない。
嫉妬したくない。我がままになりなくない。
好きに……なりたくない。
時が停止したように、尾鷹は驚愕の表情で固まっている。
人の波は障害を避けるように行き交っている。
ずいぶん落ち着いている自分に驚く。
気持ちを吐き出せば案外楽になるものだ。
「じゃあ」と小さく呟き、尾鷹の横を通り過ぎる。
「────郁哉!!」
名を呼ばれ強く引き寄せられると衝撃に身体が揺れた。
これは最後の抱擁。二度と抱き締めては貰えない。
甘くて芳ばしい……。
(……好き……大好き……)
スーッと鼻から息を吸い込むと、離れられなくなる前に尾鷹の胸の中で身を捩る。
「……離して、こんな風にごまかさないでよ」
「郁哉……待って……ッ!」
「なにも言ってくれないくせに! 那津なんて嫌いだ!」
ギュッと尾鷹の胸に抱き締められると縋り付きたくなる。けれど今はただ安心できる言葉が欲しかった。
冷たい夜風が頬を撫でると苛立ちも宥められていく。
ほんの些細な嘘……。
そんな小さな嘘にもかかわらず、七瀬に酷いことを言ってしまった。けれど信頼していたからこその反動だった。
尾鷹がなんであれ郁哉は構わない。理由があるにせよ、ひた隠しにする内容ではないはずだ。
(結局、那津にとって俺はただの遊び……あの人が言う通り、都合のいい玩具……)
地面が瞳に映る。
ドンッと肩に衝撃を受けよろめくと罵声を浴びる。
水玉模様が地面に染み込み、雨だ……と、見上げる空は視界が歪み見て取れない。
鼻を啜り匂いを確かめるが、雨の匂いは感じられない。
頬を伝うぬくもりに触れ、自分が泣いていることに気付く。
(……ダサ、これじゃ本当に恋人気取りじゃん)
一緒に暮らし肌を重ねることで勘違いを起こしている。
自分だけが特別なのだと……。
調子に乗っているのは郁哉自身。
勝手に裏切られたと腹を立て、思い通りにいかないことに駄々をこねる子供のようだ。
コツっと額になにかが当たる。
よろめきながら歩みを止める。
「なにしてるっ……大人しくしていろと……言っただろっ」
息を切らし焦った様子の低音が耳に届く。
肩を上下に揺らし、眉を怒りに歪める尾鷹が目の前に佇んでいる。
なぜここに居るのだろうかと他人事に、ぼんやりと尾鷹の姿を見つめる。
「帰るよ」
動きを止める郁哉に、尾鷹の手が伸びてくる。その手から逃れるように身を引くと唇が勝手に動いていた。
「帰る場所は自分で決める」
「はあ? 郁哉、いい加減にしろ」
「砂糖依存症は完治した。合宿はもう終わりにする。性欲処理したいならほかを当たってよ」
「なにを言って……」
「俺は那津の玩具じゃない。それに、恩は身体でしっかり返した」
「お前、そんなこと思っていたのか?」
尾鷹の低い声がさらに下がり、啞然としながら仄かな憤りを放っている。
「那津、言っていたよね? 友達とは思っていないって。だから平気で嘘だって……。セフレは嫌だ。俺、最初はそれでもいいと思った。那津のこと好きだった。けど、今はそれ以上に辛い。那津の側に居ると女々しくなる。もう懲りごりなんだよ」
これ以上は無理。辛くて辛くて堪らない。
尾鷹に執着していたくない。勘違いしたくない。
嫉妬したくない。我がままになりなくない。
好きに……なりたくない。
時が停止したように、尾鷹は驚愕の表情で固まっている。
人の波は障害を避けるように行き交っている。
ずいぶん落ち着いている自分に驚く。
気持ちを吐き出せば案外楽になるものだ。
「じゃあ」と小さく呟き、尾鷹の横を通り過ぎる。
「────郁哉!!」
名を呼ばれ強く引き寄せられると衝撃に身体が揺れた。
これは最後の抱擁。二度と抱き締めては貰えない。
甘くて芳ばしい……。
(……好き……大好き……)
スーッと鼻から息を吸い込むと、離れられなくなる前に尾鷹の胸の中で身を捩る。
「……離して、こんな風にごまかさないでよ」
「郁哉……待って……ッ!」
「なにも言ってくれないくせに! 那津なんて嫌いだ!」
ギュッと尾鷹の胸に抱き締められると縋り付きたくなる。けれど今はただ安心できる言葉が欲しかった。
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