上 下
111 / 161
第7章 砂に落ちた砂糖は赤黒く塗れる0.1%

06

しおりを挟む
 カランと氷が溶けグラスを鳴らすと、赤と橙色の液体がグラデーションに混ざり合っていく。
 隣に座る七瀬はグラスを手にし、琥珀色の液体を黙念しながら揺らしていた。

「……その男性というのは、細身でシルバーフレームの眼鏡をを掛けた、神経質そうな人物でしたか?」

 七瀬は郁哉の説明なしに渦中の人物像を口にする。七瀬の推理に驚きながらもコクリと頷く。

「先生のお知り合いですか?」
「まぁ、顔見知り程度ですかね……。凩君が会った男は、和泉希俐いずみきりという人物かと」
「その……和泉さんは何者ですか?」
「坊っちゃんのお父上の秘書です。六年ほど前から坊っちゃんのお世話を……まぁ、世話と言えば聞こえはいいですがね。早い話、監視役ですよ」
「……監視……なぜそんな……」
「坊っちゃんの家庭環境はご存知ですか?」
「家族構成だけ……少し……」

 複雑だとは言っていたが、実の父親から監視までされているとは思ってもいなかった。

「お父上は堅物な御仁でして。坊っちゃんは今ではああですが、昔はやんちゃな時期があったんです。見兼ねたお父上は、和泉を監視と報告役にあてがったのですが……近頃どうにも暴走気味でして、三ヶ月ほど前に坊っちゃんから役目を絶たれたんです」

 身元が判明し安堵するが、郁哉に対するあの態度は好ましいものではない。

「先生、あの人は那津に、なんていうか……好意でも……」
「……ほかにもなにか言われましたか?」

 コクリと頷き大まかな経緯を話す。
 尾鷹のことが好きだからこそ分かる。あの目は恋敵でも見るような嫉妬を含ませたものだった。

(那津は……あの人とも身体の関係を……)

 ズキンッと胸に刺さる痛みに、ドロリとした黒い感情が心臓を握り潰す。
 過去の尾鷹と今の尾鷹。なにも知らない自分。

「……それは酷い。確かに彼は、坊っちゃんに心酔している傾向があります。要は醜い嫉妬でしょうね」
「あんなゴミみたいに見られたのは初めてです。俺、なにも言い返せなかった。凄く悔しいです……」

 頬を膨らませ怒りを露にする郁哉に、七瀬は笑い声を上げる。

「そんなに笑わないでくださいよ!」
「いやぁ……失礼。凩君が怒る姿は新鮮でして」
「それと先生! あのチョコは一体なんなんですか!」

 郁哉がそう言うと、七瀬は明らかに目を泳がせ笑い声を治めていった。

「あーその、はい、チョコレートのことは謝罪します……」
「──えっ?」

 有名店のチョコレートのはずだ。七瀬がなぜ謝罪を口にするのか郁哉には分からなかった。
 驚きを隠せずにいると七瀬は躊躇いながら答えた。

「そのぉ……、坊っちゃんが精力大勢なのは、すでにご存知かと思いますが、少々過ぎるんですよ。それを抑えるために、チョコを毎日食べるよう私から指示を出しています」
「チョコで精力を抑えられるんですか!?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの魔法の秘密をすべて暴いてあげますよ

droit
恋愛
マジシャンだった貴族に婚約破棄されマジック業界からも追放されてしまった令嬢は、復讐のため貴族の商売道具だったマジックの種明かしをしまくり業界に復讐を試みるのであった

女勇者に婚約者を寝取られたけど、逆に彼女の恋人を奪ってやった

小倉みち
恋愛
 ジュリアナは頭を抱えていた。  遠く離れた場所で旅をしているはずの婚約者――フランから、1通の手紙が届いたのだ。  内容は、 「自分の所属しているパーティの女勇者と一緒になることに決めた。君には申し訳ないが、俺と別れてくれ」  彼女は婚約者の信じられない行動に、呆れかえっていた。  彼女と婚約者は、数ヵ月後に結婚するはずだったのだ。  もうすでに式場の予約も式の内容も、ドレスだって注文済みである。  そのすべての費用は彼とその両親に請求するとして、ジョアンナにとって我慢ならないのは、婚約者を寝取った「女勇者」という存在だった。  彼女にも、恋人がいるはずだ。  しかも、10年以上の付き合いらしい。  ジョアンナは婚約者の手紙を握りしめたまま、その女勇者の恋人の元へと向かう。  ――2人に復讐するために。

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

今更愛を告げられましても契約結婚は終わりでしょう?

SKYTRICK
BL
冷酷無慈悲な戦争狂α×虐げられてきたΩ令息 ユリアン・マルトリッツ(18)は男爵の父に命じられ、国で最も恐れられる冷酷無慈悲な軍人、ロドリック・エデル公爵(27)と結婚することになる。若く偉大な軍人のロドリック公爵にこれまで貴族たちが結婚を申し入れなかったのは、彼に関する噂にあった。ロドリックの顔は醜悪で性癖も異常、逆らえばすぐに殺されてしまう…。 そんなロドリックが結婚を申し入れたのがユリアン・マルトリッツだった。 しかしユリアンもまた、魔性の遊び人として名高い。 それは弟のアルノーの影響で、よなよな男達を誑かす弟の汚名を着せられた兄のユリアンは、父の命令により着の身着のままで公爵邸にやってくる。 そこでロドリックに突きつけられたのは、《契約結婚》の条件だった。 一、契約期間は二年。 二、互いの生活には干渉しない——…… 『俺たちの間に愛は必要ない』 ロドリックの冷たい言葉にも、ユリアンは歓喜せざるを得なかった。 なぜなら結婚の条件は、ユリアンの夢を叶えるものだったからだ。 ☆感想、ブクマなどとても励みになります!

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

【完結】A市男性誘拐監禁事件

若目
BL
1月某日19時頃、18歳の男性が行方不明になった。 男性は自宅から1.5㎞離れた場所に住む40歳の会社員の男に誘拐、監禁されていたのだ。 しかし、おかしな点が多々あった。 男性は逃げる機会はあったのに、まるで逃げなかったばかりか、犯人と買い物に行ったり犯人の食事を作るなどして徹底的に尽くし、逮捕時には減刑を求めた。 男性は犯人と共に過ごすうち、犯人に同情、共感するようになっていたのだ。 しかし、それは男性に限ったことでなかった… 誘拐犯×被害者のラブストーリーです。 性描写、性的な描写には※つけてます 作品内の描写には犯罪行為を推奨、賛美する意図はございません。

夜は嘘にふるえてる

小槻みしろ
現代文学
由衣には姉がいる。 病気がちで、家と病院を行ったりきたりで、なのにずっと静かに微笑んでいた。 そんな姉が、とうとう死ぬかもしれないと、由衣は母から告げられる。 由衣の16年には、望む望まないにかかわらず、ずっと姉の影が射していた。 生ぬるい感傷をもてあましながら、由衣は姉の見舞いに向かうことになる。 影を失くしても、人は生きていけるだろうか。 喪失の青春小説です。

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

処理中です...