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第7章 砂に落ちた砂糖は赤黒く塗れる0.1%
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カランカラン──と、軽やかな鈴音を鳴らしながら重厚な木目調の扉を開ける。薄暗い店内はムードのある音楽が静かに流れ、仄かに煙草の香りが漂っている。
早い時間帯なのか店内の客はまばらで、狭いこともあり目当ての人物はすぐに郁哉の目に留まった。
「先生、お呼び立てしてすみません……」
「いえいえ、別嬪さんの呼び出しに、年甲斐もなく舞い上がってしまいましたよ。迷いませんでしたか? さっ、どうぞ座って」
にこやかな顔でカウンター席を進める七瀬の隣に腰掛ける。
一時間ほど前に七瀬に連絡を入れ、待ち合わせにこのお店を指定された。
バーなど訪れたことのない郁哉だが、込み入った話をするには丁度いい雰囲気のお店だった。
「むさ苦しい場所で驚きましたかね?」
「いえ、そんなこと……」
「むさ苦しくて悪かったわね! 七ちゃんにしてはずいぶんと可愛らしい子ね? 初めまして、ママ兼オーナーの燿よ。ボクちゃんのお名前は?」
どうやら七瀬の馴染みの店らしい。
カウンター越しに視線を向けると、長い栗色の髪を結い上げ、淡いブルーのドレスが似合うスラリとした長身の綺麗な女性が笑顔で迎えてくれる。酒焼けしているのか声は微かに掠れているが、それが却って色気を助長していた。
「……初めまして。凩です」
「や~ね。こういうときは下の名前を言うものよ?」
「あっ、すみません……郁哉です」
「うふふ、いっくんね。なにか飲む?」
「えっと……カシスオレンジをお願いします」
ふっくらとした厚みのある唇を綻ばせ「飲み物まで可愛らしいのね」と言いわれてしまう。
場馴れしていないことを早々に見抜かれ恥じらう郁哉だが、燿の言葉使いに姉の穂奈美と話している気分にさせられる。そう思うと自然と緊張が緩んでいった。
「それで、今日はどうしたんです?」
七瀬の声にハッとすると、確認したいことが多過ぎてなにから聞けばいいのか言葉に詰まる。
「あ、あの……今日、那津はそちらに行かれましたか?」
「ええ、坊っちゃんなら昼頃お見えになりましたよ」
「そうですか……」
カウンターにコースターとグラスを置かれる。
赤と橙色のカクテルは、まるで分断された郁哉の心境のようだ。
境目をぼんやりと眺めそれ以上言葉を続けようとしない郁哉に、七瀬はチラリと視線を投げ「身体のことではないみたいですね」と、表情からなにかを察してくれた様子だ。
「遠慮しないで。なにか気になることが?」
「……は、はい……今日、マンション前で知らない男性から、毎日チョコを食べているのかと言われたんです。それと……先生がそのチョコを用意しているって……。どういうことか俺には全く判らなくて……」
「それで私を……まぁ、そうなりますかね」
早い時間帯なのか店内の客はまばらで、狭いこともあり目当ての人物はすぐに郁哉の目に留まった。
「先生、お呼び立てしてすみません……」
「いえいえ、別嬪さんの呼び出しに、年甲斐もなく舞い上がってしまいましたよ。迷いませんでしたか? さっ、どうぞ座って」
にこやかな顔でカウンター席を進める七瀬の隣に腰掛ける。
一時間ほど前に七瀬に連絡を入れ、待ち合わせにこのお店を指定された。
バーなど訪れたことのない郁哉だが、込み入った話をするには丁度いい雰囲気のお店だった。
「むさ苦しい場所で驚きましたかね?」
「いえ、そんなこと……」
「むさ苦しくて悪かったわね! 七ちゃんにしてはずいぶんと可愛らしい子ね? 初めまして、ママ兼オーナーの燿よ。ボクちゃんのお名前は?」
どうやら七瀬の馴染みの店らしい。
カウンター越しに視線を向けると、長い栗色の髪を結い上げ、淡いブルーのドレスが似合うスラリとした長身の綺麗な女性が笑顔で迎えてくれる。酒焼けしているのか声は微かに掠れているが、それが却って色気を助長していた。
「……初めまして。凩です」
「や~ね。こういうときは下の名前を言うものよ?」
「あっ、すみません……郁哉です」
「うふふ、いっくんね。なにか飲む?」
「えっと……カシスオレンジをお願いします」
ふっくらとした厚みのある唇を綻ばせ「飲み物まで可愛らしいのね」と言いわれてしまう。
場馴れしていないことを早々に見抜かれ恥じらう郁哉だが、燿の言葉使いに姉の穂奈美と話している気分にさせられる。そう思うと自然と緊張が緩んでいった。
「それで、今日はどうしたんです?」
七瀬の声にハッとすると、確認したいことが多過ぎてなにから聞けばいいのか言葉に詰まる。
「あ、あの……今日、那津はそちらに行かれましたか?」
「ええ、坊っちゃんなら昼頃お見えになりましたよ」
「そうですか……」
カウンターにコースターとグラスを置かれる。
赤と橙色のカクテルは、まるで分断された郁哉の心境のようだ。
境目をぼんやりと眺めそれ以上言葉を続けようとしない郁哉に、七瀬はチラリと視線を投げ「身体のことではないみたいですね」と、表情からなにかを察してくれた様子だ。
「遠慮しないで。なにか気になることが?」
「……は、はい……今日、マンション前で知らない男性から、毎日チョコを食べているのかと言われたんです。それと……先生がそのチョコを用意しているって……。どういうことか俺には全く判らなくて……」
「それで私を……まぁ、そうなりますかね」
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