107 / 161
第7章 砂に落ちた砂糖は赤黒く塗れる0.1%
02
しおりを挟む
苦笑いで答える尾鷹に、やっぱりか……と溜息をつく。
いくら郁哉が鈍感とはいえ、眠っていても気配ぐらいは感じる。朝寒いと震えながら目を覚ますのは、尾鷹が隣に居ないからにほかならない。
家主でもない郁哉がひとりベッドを占領するなど気分がいいものではない。これでは出会った当初に逆戻りだ。けれど弱っている尾鷹にあまりうるさいことは言いたくなかった。
「那津、頼むから俺には気を使わないでよ」
「ああ、悪かった……」
気怠そうにムクリと起き上がる尾鷹は、機嫌を取るように郁哉の髪をくしゃりと撫でてくる。
「気は使っていないよ。ただ、郁哉の隣で寝ると悪戯したくなる」
「してもいいよ。それぐらいしか俺できないしさ」
「拗ねるなよ」
「拗ねてない。心配しているだけだよ。最近なんか……忙しそうだしさ……」
視線だけ上に向け尾鷹を覗う。
一瞬双眸が合うとすぐに逸らされ「透の調べ物に付き合っているんだ」と言われてしまう。
(今……ごまかした?)
何ヶ月か一緒に過ごせば、多少は相手の癖が分かるものだ。基本的に目を見て会話をする尾鷹にしては、歯切れも悪く違和感を感じる。
そんな自分にも嫌気が差す。一緒に居ればなんでも教えて貰えるなどおこがましい。
「……そっか、先生も忙しいよね。けど無理はしないでくれよ。家主が倒れたら俺、住む場所なくなっちゃうし!」
努めて明るい声でそう言いへらりと笑う。
顔は引きつっていないだろうか。不自然ではないだろうかと仮面を被る。
郁哉の明るい声に、尾鷹もいつもの調子を取り戻していく。
「馬鹿なの? 家主が倒れたってここに住むのに問題はないでしょ。透の頼みごともだいぶ片付いてきたし、少しはゆっくりできるさ」
「ならいいけど……。顔色、本当に良くないよ?」
「ああ、大丈夫。でも、心配してくれる郁哉につけ込んでお願いがある」
コクコクと頷き構える郁哉に「たまご雑炊が食べたい」と、ずいぶん可愛らしいリクエストをしてくる。
中々レアではないだろうか。尾鷹から頼みごとなど郁哉にとっては一大事。
用意するまでしっかり休むように伝えると、郁哉は腕捲くりをし気合を入れながらキッチンに立った。
その日を境に尾鷹はしっかりベッドで休むようになってくれた。時折郁哉が眠ったあとに帰宅することもあるが、前ほど遅くはなくなった。
郁哉自身も尾鷹がなにをしているか、深くは尋ねず過ごしていた。はぐらかされるのは正直しんどい。
淡々とした日常。
変わったことといえば尾鷹との距離。
七瀬が言っていた発情期が終わったのか、貪欲に求め合うことがなくなった。
一時は病気と疑い不安も尽きなかったが、急に落ち着きを見せる性欲に首を傾げてしまう。
身体の負担と尾鷹との関係を考えれば、今までがおかしかったのかもしれない。
いくら郁哉が鈍感とはいえ、眠っていても気配ぐらいは感じる。朝寒いと震えながら目を覚ますのは、尾鷹が隣に居ないからにほかならない。
家主でもない郁哉がひとりベッドを占領するなど気分がいいものではない。これでは出会った当初に逆戻りだ。けれど弱っている尾鷹にあまりうるさいことは言いたくなかった。
「那津、頼むから俺には気を使わないでよ」
「ああ、悪かった……」
気怠そうにムクリと起き上がる尾鷹は、機嫌を取るように郁哉の髪をくしゃりと撫でてくる。
「気は使っていないよ。ただ、郁哉の隣で寝ると悪戯したくなる」
「してもいいよ。それぐらいしか俺できないしさ」
「拗ねるなよ」
「拗ねてない。心配しているだけだよ。最近なんか……忙しそうだしさ……」
視線だけ上に向け尾鷹を覗う。
一瞬双眸が合うとすぐに逸らされ「透の調べ物に付き合っているんだ」と言われてしまう。
(今……ごまかした?)
何ヶ月か一緒に過ごせば、多少は相手の癖が分かるものだ。基本的に目を見て会話をする尾鷹にしては、歯切れも悪く違和感を感じる。
そんな自分にも嫌気が差す。一緒に居ればなんでも教えて貰えるなどおこがましい。
「……そっか、先生も忙しいよね。けど無理はしないでくれよ。家主が倒れたら俺、住む場所なくなっちゃうし!」
努めて明るい声でそう言いへらりと笑う。
顔は引きつっていないだろうか。不自然ではないだろうかと仮面を被る。
郁哉の明るい声に、尾鷹もいつもの調子を取り戻していく。
「馬鹿なの? 家主が倒れたってここに住むのに問題はないでしょ。透の頼みごともだいぶ片付いてきたし、少しはゆっくりできるさ」
「ならいいけど……。顔色、本当に良くないよ?」
「ああ、大丈夫。でも、心配してくれる郁哉につけ込んでお願いがある」
コクコクと頷き構える郁哉に「たまご雑炊が食べたい」と、ずいぶん可愛らしいリクエストをしてくる。
中々レアではないだろうか。尾鷹から頼みごとなど郁哉にとっては一大事。
用意するまでしっかり休むように伝えると、郁哉は腕捲くりをし気合を入れながらキッチンに立った。
その日を境に尾鷹はしっかりベッドで休むようになってくれた。時折郁哉が眠ったあとに帰宅することもあるが、前ほど遅くはなくなった。
郁哉自身も尾鷹がなにをしているか、深くは尋ねず過ごしていた。はぐらかされるのは正直しんどい。
淡々とした日常。
変わったことといえば尾鷹との距離。
七瀬が言っていた発情期が終わったのか、貪欲に求め合うことがなくなった。
一時は病気と疑い不安も尽きなかったが、急に落ち着きを見せる性欲に首を傾げてしまう。
身体の負担と尾鷹との関係を考えれば、今までがおかしかったのかもしれない。
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
あなたの魔法の秘密をすべて暴いてあげますよ
droit
恋愛
マジシャンだった貴族に婚約破棄されマジック業界からも追放されてしまった令嬢は、復讐のため貴族の商売道具だったマジックの種明かしをしまくり業界に復讐を試みるのであった
女勇者に婚約者を寝取られたけど、逆に彼女の恋人を奪ってやった
小倉みち
恋愛
ジュリアナは頭を抱えていた。
遠く離れた場所で旅をしているはずの婚約者――フランから、1通の手紙が届いたのだ。
内容は、
「自分の所属しているパーティの女勇者と一緒になることに決めた。君には申し訳ないが、俺と別れてくれ」
彼女は婚約者の信じられない行動に、呆れかえっていた。
彼女と婚約者は、数ヵ月後に結婚するはずだったのだ。
もうすでに式場の予約も式の内容も、ドレスだって注文済みである。
そのすべての費用は彼とその両親に請求するとして、ジョアンナにとって我慢ならないのは、婚約者を寝取った「女勇者」という存在だった。
彼女にも、恋人がいるはずだ。
しかも、10年以上の付き合いらしい。
ジョアンナは婚約者の手紙を握りしめたまま、その女勇者の恋人の元へと向かう。
――2人に復讐するために。
【R18】らぶえっち短編集
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)
R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。
※R18に※
※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。
※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。
※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。
※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。
今更愛を告げられましても契約結婚は終わりでしょう?
SKYTRICK
BL
冷酷無慈悲な戦争狂α×虐げられてきたΩ令息
ユリアン・マルトリッツ(18)は男爵の父に命じられ、国で最も恐れられる冷酷無慈悲な軍人、ロドリック・エデル公爵(27)と結婚することになる。若く偉大な軍人のロドリック公爵にこれまで貴族たちが結婚を申し入れなかったのは、彼に関する噂にあった。ロドリックの顔は醜悪で性癖も異常、逆らえばすぐに殺されてしまう…。
そんなロドリックが結婚を申し入れたのがユリアン・マルトリッツだった。
しかしユリアンもまた、魔性の遊び人として名高い。
それは弟のアルノーの影響で、よなよな男達を誑かす弟の汚名を着せられた兄のユリアンは、父の命令により着の身着のままで公爵邸にやってくる。
そこでロドリックに突きつけられたのは、《契約結婚》の条件だった。
一、契約期間は二年。
二、互いの生活には干渉しない——……
『俺たちの間に愛は必要ない』
ロドリックの冷たい言葉にも、ユリアンは歓喜せざるを得なかった。
なぜなら結婚の条件は、ユリアンの夢を叶えるものだったからだ。
☆感想、ブクマなどとても励みになります!
ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました
中七七三
恋愛
わたしっておかしいの?
小さいころからエッチなことが大好きだった。
そして、小学校のときに起こしてしまった事件。
「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」
その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。
エッチじゃいけないの?
でも、エッチは大好きなのに。
それでも……
わたしは、男の人と付き合えない――
だって、男の人がドン引きするぐらい
エッチだったから。
嫌われるのが怖いから。
【完結】A市男性誘拐監禁事件
若目
BL
1月某日19時頃、18歳の男性が行方不明になった。
男性は自宅から1.5㎞離れた場所に住む40歳の会社員の男に誘拐、監禁されていたのだ。
しかし、おかしな点が多々あった。
男性は逃げる機会はあったのに、まるで逃げなかったばかりか、犯人と買い物に行ったり犯人の食事を作るなどして徹底的に尽くし、逮捕時には減刑を求めた。
男性は犯人と共に過ごすうち、犯人に同情、共感するようになっていたのだ。
しかし、それは男性に限ったことでなかった…
誘拐犯×被害者のラブストーリーです。
性描写、性的な描写には※つけてます
作品内の描写には犯罪行為を推奨、賛美する意図はございません。
夜は嘘にふるえてる
小槻みしろ
現代文学
由衣には姉がいる。
病気がちで、家と病院を行ったりきたりで、なのにずっと静かに微笑んでいた。
そんな姉が、とうとう死ぬかもしれないと、由衣は母から告げられる。
由衣の16年には、望む望まないにかかわらず、ずっと姉の影が射していた。
生ぬるい感傷をもてあましながら、由衣は姉の見舞いに向かうことになる。
影を失くしても、人は生きていけるだろうか。
喪失の青春小説です。
死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜
猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。
ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。
そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。
それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。
ただし、スキルは選べず運のみが頼り。
しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。
それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・
そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる