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第6章 積もる砂糖は雪のよう88%

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 家に到着すると室内はすでに静まり返っていた。朝が早い分、年が明けると早々に床につくのが凩家の習慣だ。
 居間の灯りは郁哉達のために点いたままだが、チワワは眠りを妨げられたと欠伸をしながら冷たい視線を投げている。

「もう寝るから怒るなよ。あっ、そうだ那津、明日は絶対起こしてよ!」
「ああ……郁哉、今日……」

 コタツを消していると尾鷹が呼び掛けてくる。ジッと見つめるだけでなにも言わない尾鷹に、首を傾げて「ん?」と尋ねる。

「いや、おやすみ……」
「おやすみ……?」

 尾鷹はそれだけ言うと、踵を返し居間から出て行ってしまった。

(あ……起こして貰うなら部屋に誘えば良かったじゃん!)

 ひとり頭を抱え呻いていると、チワワがいい加減にしなさい邪魔よと言いたげに、冷めた瞳を細め郁哉を見ていた。


***


 郁哉と別れ客間に向うと、尾鷹は襖を開ける前に顔を顰める。静かに襖を開けると、思った通り七瀬が大の字でいびきをかいていた。

(まさに熊だな……)

 コートを脱ぎハンガーに掛けると「グガッ!」と、盛大に鼻を鳴らしいびきが止む。静かになったのは一瞬で、すぐに大きないびきが部屋中に響いていた。

(全く……どんだけ飲んだんだ)

 スウェットに着替えたはいいが、これでは眠れそうにない。
 先ほど言おうとしていたことに理由が必要だった。けれど丁度いい口実ができた。
 客間を抜け廊下を進むにつれ、郁哉に触れたいという抑えていた欲望が膨れ上がっていく。

「あら、尾鷹君。夜這いだなんて、ずいぶんお行儀が悪いこと」

 郁哉の部屋へ続く長い廊下へ足を踏み出すと、ピリリとした声が掛かる。月明かりでほんのりと照らされた穂奈美が、目を光らせながら腕を組み尾鷹を睨み付けていた。
 夜這いとは少し違うが、郁哉の部屋に行こうとしていたのは事実だ。バツが悪そうに苦笑いする尾鷹に「少しいいかしら」と、まさかの誘いを掛けてくる。

 居間のコタツの天板にコトッと湯呑が置かれる。
 嫌っている相手に律儀にお茶を出す穂奈美の心境を探るように、チラリと視線を流す。

「嫌だわ。毒なんて入れていないわよ」
「それは安心しました。遠慮なくいただきます」

 ニコリと外用の笑顔で返しお茶を啜る。

「その顔。本当に胡散臭いわね。いっくんもどうして貴方なんかに……ねぇ、実際どうなの?」
「どうとは?」
「だから……いっくんと貴方、付き合ってるのかって聞いてるの」
「なぜそんな風に?」

 尾鷹なりに郁哉に触れず、友達らしく距離を保っていたはずだ。けれど二日間の間に穂奈美なりになにかを感じたのだろう。
 強気の態度から一変、目を泳がせ躊躇いがちに俯く穂奈美の姿に姉弟なのだなと口元を緩める。

「いっくんは馬鹿みたいに真っ直ぐで嘘を付けない子よ。あんな浮ついた姿、今まで見たことないわ。去年連れてきた友達のときとは全然違うもの。けど貴方はどこか変なのよ。遊びのつもりなら早目に身を引いて頂戴」

 単なるブラコンだと思っていたが、どうやら少し違うらしい。弟に害を成す人物から今までも穂奈美なりに守ってきたのだろう。
 それは姉としての愛情だ。相手が尾鷹のような人間でないなら、男であろうとすぐに受け入れてくれたのかもしれない。
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