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第6章 積もる砂糖は雪のよう88%
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その悲鳴とも言える奇声に、一番驚いていたのは犬のソマリだ。郁哉の声にビクッと小さな身体を跳ねさせ、ぷるぷる震えながら「キャンキャン」と、朝から頭に響く高音で怒ったように吠え立てている。
「なっ、なにしてるんだよッ! 勝手に部屋に入って来るなって、昨日も言ったじゃんッ!」
「いっくん、おはよう♡ 今日も世界で一番可愛いわね♡ でも、そこ駄目……だなんて、朝からずいぶん悩ましい声だわ。お姉ちゃん勃起しちゃう♡ でも誰と間違えたのかしら。そういうことする相手でも居るの? さぁ、怒らないから白状なさい」
掛け布団を抱え込み壁際に逃げる郁哉。そんな郁哉に対し、聖母のような微笑みを携え郁哉の抗議の声ガン無視で淡々と問い掛けてくる姉。
穂奈美は背筋を伸ばし、まるでこれからお茶を点てるかのような勢いで郁哉の枕元に正座をしていた。
「姉さん! 女の子が勃起とか言っちゃ駄目でしょ! そ、そもそも弟の寝込みを襲うなんて、どうかしているよ!」
「はぁ……昔はお姉ちゃん大好きって、なんでも教えてくれたのに……いっくんのいけず。けど残念ね。お姉ちゃんじないわよ。ソマリがいっくんのマシュマロほっぺを、ペロペロ美味しそうに舐めていたのを、そりゃ羨ましそうに見ていたのは謝るわ。けど、いっくんはどうしてそんな捻くれちゃったのかしら。きっと都会に穢されたのね……オヨヨヨヨ……」
オイオイと泣き真似をする穂奈美に、頬を引きつらせ呆れてしまう。色々突っ込みどころ満載だが、まともに付き合っていたら日が暮れてしまう。
どうやら郁哉の肌を舐めていたのは、犬のソマリだったようだ。穂奈美ではなかったと安心するも、朝から心臓に良くはない。
寝惚けて変なことを口走ってしまわなかったか焦りながら、努めて冷静を装うと話題を穂奈美へと故意に移していく。
「姉さんこそ俺の心配ばかりしてないで、自分のこと心配したら? たまにはいい人でも連れてきたらどうなの」
「うっ……お姉ちゃんはいいのよ。それより朝ご飯できたわよ」
自分のことになると穂奈美は逃げるのだ。長年培った郁哉なりの攻防に成功すると「早くいらっしゃい」と言い残し、ソマリを連れ部屋を出ていった。
時計を見るとまだ七時にもなっていない。田舎の朝は早いのだ。
今朝は特に冷え込んでいる。窓ガラスが白く結露しているのを見ると外の寒さが嫌でも想像できる。布団で温まっていた身体も、廊下を歩いているだけで悴みそうだ。
居間に向かうと父親が新聞を広げ、郁哉に冷たい視線を寄越す。朝の挨拶を短く言うと、父親は溜息を吐きながら呟いた。
「郁、おみゃあまだ寝ていたのか。尾鷹君はとっくに起きて母さんの手伝いをしているぞ」
少しは見習えと言いたげに父親は台所へと視線を向ける。バツが悪そうに郁哉は顔も洗わず居間を抜け台所へと足を進めた。
「……おはよう」
「ああ郁哉、おはよ。凄い悲鳴が聞こえたけど……大丈夫?」
「なっ、なにしてるんだよッ! 勝手に部屋に入って来るなって、昨日も言ったじゃんッ!」
「いっくん、おはよう♡ 今日も世界で一番可愛いわね♡ でも、そこ駄目……だなんて、朝からずいぶん悩ましい声だわ。お姉ちゃん勃起しちゃう♡ でも誰と間違えたのかしら。そういうことする相手でも居るの? さぁ、怒らないから白状なさい」
掛け布団を抱え込み壁際に逃げる郁哉。そんな郁哉に対し、聖母のような微笑みを携え郁哉の抗議の声ガン無視で淡々と問い掛けてくる姉。
穂奈美は背筋を伸ばし、まるでこれからお茶を点てるかのような勢いで郁哉の枕元に正座をしていた。
「姉さん! 女の子が勃起とか言っちゃ駄目でしょ! そ、そもそも弟の寝込みを襲うなんて、どうかしているよ!」
「はぁ……昔はお姉ちゃん大好きって、なんでも教えてくれたのに……いっくんのいけず。けど残念ね。お姉ちゃんじないわよ。ソマリがいっくんのマシュマロほっぺを、ペロペロ美味しそうに舐めていたのを、そりゃ羨ましそうに見ていたのは謝るわ。けど、いっくんはどうしてそんな捻くれちゃったのかしら。きっと都会に穢されたのね……オヨヨヨヨ……」
オイオイと泣き真似をする穂奈美に、頬を引きつらせ呆れてしまう。色々突っ込みどころ満載だが、まともに付き合っていたら日が暮れてしまう。
どうやら郁哉の肌を舐めていたのは、犬のソマリだったようだ。穂奈美ではなかったと安心するも、朝から心臓に良くはない。
寝惚けて変なことを口走ってしまわなかったか焦りながら、努めて冷静を装うと話題を穂奈美へと故意に移していく。
「姉さんこそ俺の心配ばかりしてないで、自分のこと心配したら? たまにはいい人でも連れてきたらどうなの」
「うっ……お姉ちゃんはいいのよ。それより朝ご飯できたわよ」
自分のことになると穂奈美は逃げるのだ。長年培った郁哉なりの攻防に成功すると「早くいらっしゃい」と言い残し、ソマリを連れ部屋を出ていった。
時計を見るとまだ七時にもなっていない。田舎の朝は早いのだ。
今朝は特に冷え込んでいる。窓ガラスが白く結露しているのを見ると外の寒さが嫌でも想像できる。布団で温まっていた身体も、廊下を歩いているだけで悴みそうだ。
居間に向かうと父親が新聞を広げ、郁哉に冷たい視線を寄越す。朝の挨拶を短く言うと、父親は溜息を吐きながら呟いた。
「郁、おみゃあまだ寝ていたのか。尾鷹君はとっくに起きて母さんの手伝いをしているぞ」
少しは見習えと言いたげに父親は台所へと視線を向ける。バツが悪そうに郁哉は顔も洗わず居間を抜け台所へと足を進めた。
「……おはよう」
「ああ郁哉、おはよ。凄い悲鳴が聞こえたけど……大丈夫?」
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