Sugar ＆ Cacao〜甘さの比率〜

第6章 積もる砂糖は雪のよう88％

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　ホッとひと息つくと、混乱しそうな思考を断ち切るように「もう一つのほうは？」と、七瀬に尋ねた。

「気になる悪い話ですね。一ヶ月ほど前に、凩君のことについて訪ねてきた人物がいたようです。対応されたお父上がどうにも怪しいと思ったらしく、追い返したそうですが……」
「特徴は？」
「はい、神経質そうな三十前後の痩せた男だったそうです。最近この辺りで詐欺が流行っているようで、そういった輩だと思ったらしいのですが。ここらでは見掛けない、高価そうなスーツの身形だったようです」

　都会から田舎に訪れる人間はどこか目立つものがある。
　名刺でもあれば調査できたが、話の情報だけでは捜索は困難だ。

「……なぜ郁哉を……俺絡みか？」
「さあ、どうでしょうね。何事もなければ良いのですが……」

　回りくどいやり方からしても、父辺りが身辺調査をしているのか。
　尾鷹のマンションを出入りしていれば、郁哉の存在を知られていてもおかしくはない。
　これまで尾鷹は特定の人物に固執することなどなかった。いずれ興味を持たれるとは思っていたが、行動が早過ぎるような気がしてならない。

「用心はしておく。けど、郁哉に付いてきて正解だった」
「そうですね。いい収穫ができました。今後を考えると、今から滅入りそうですがね……」

　頭の中に様々な憶測が駆け巡る。それはどうやらいいことばかりではないようだ。
　お猪口を傾けると唇がピリピリと沁みる。思い耽っている内に、強く噛み締めていたようだ。
　ふと郁哉に出会ったばかりのことを思い出す。
　抵抗する郁哉は尾鷹の唇を突き刺した。唇から溢れる血と郁哉の唾液が混ざると、甘い匂いが濃厚に漂い、頭を突き刺す官能的な刺激に鼓動が高鳴った。
　今は癒えた唇に触れながら尾鷹は思う。
　謎を紐解くことで、今度は郁哉の胸に穴を開けてしまうのでは……と、やり場のない感情に押し潰されそうになっていた。

（今夜は眠れそうにないな。郁哉が恋しい……ヤバ……勃ってきた……）

　股間の昂ぶりを感じると、尾鷹はチョコレートをパクパクと数粒口にし、すっかり冷えた酒でそれを流し込んだ。


＊＊＊


　頬に濡れた感触を感じ、郁哉は擽ったそうにしながら身を捩り寒さに布団の中に潜り込んだ。

「ん──あんっ……やめて……っ、アッ、そこ駄目……っ」

　朝から悩ましい艶声を上げる郁哉は、布団のぬくもりと肌を擽る体温に寝ぼけながら吐息を漏らした。
　朝が苦手な郁哉は、ここ最近尾鷹に悪戯されるように肌を愛撫され起こされるのが日課になっていた。けれどどういう訳か、今日はいつもの触り方と違うような気がする。
　眉間に皺を寄せると、重たい瞼をゆっくりと開き、家が揺れるのではと思うほどの爆音を轟かせた。

「ギヤャァァ～～～～!！」