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第6章 積もる砂糖は雪のよう88%

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 田舎料理の大皿が所狭しと並んでいる。茶色い色合いが多いのは田舎ならではだ。
 父と七瀬は既に酒盛りを始め顔を赤らめている。どうやらずいぶん前から飲んでいるようだ。
 こんなに大人数で食事をするのは久々だ。アットホームに過ごすのもたまには悪くない。けれど郁哉は少しばかり居心地が悪かった。右側に尾鷹が座り、左側に穂奈美が座っているからだ。

「那津、口に合う? お酒飲飲まないの?」
「どれも美味しいよ。酒は今日は止めておく」
「いっくん。人のことばかり気にしてないで、食べなさい。相変わらず細いんだから」

 右を向いていれば左から声が掛かる。初めて訪れた尾鷹をもてなすつもりが穂奈美には少しもないようだ。
 客人でもない郁哉のお皿に、あれこれと料理を乗せる穂奈美に、温厚な郁哉も流石に黙っていられなくなる。

「姉さん。俺もう子供じゃないんだから」
「お姉ちゃんの中では、いっくんはいつまで経っても可愛い子供よ」
「はあ? マジうざい。大体さ那津に対してさっきから失礼なんだよ!」
「なによ……那津那津って……」

 どっちらが子供だ。頬を膨らませ不貞腐る穂奈美に、母が笑いながらフォローを入れる。母親からしたら姉弟喧嘩などお手のものだ。

「お姉ちゃんは尾鷹君に郁ちゃんを取られたみたいで、拗ねてるの。いい歳して困った子だよ。悪いねぇ~尾鷹君。あんまりにもいい男だら? 男の郁ちゃんでも、間違って惚れちまうかもしれないもんね~」

 そう母が呟くと、郁哉は箸で掴んでいた里芋をつるんと落とした。
 おこぼれにあり付けたと、ソマリがコタツ布団の上を転がる里芋を咥えて走り去るのを、母が「こらっ! ソマリ!」と叫びながら追い掛けている。
 ほのぼのとした日常に見えるも、郁哉は顔を赤くさせながらひとり焦り、そんな郁哉を見ながら頬を緩ませる尾鷹を穂奈美が睨み付けていた。


***


 風呂から上がり暫く郁哉と過ごしていた尾鷹だが、あまり遅くまで騒ぐのも迷惑だと、早々に案内された客間で休む。
 今まで過ごしてきた日常とは掛け離れた一日に、どこか温かいものを感じ心地良さに浸っていた。
 夕食前に借りてきた郁哉のアルバムを見ながら、敷布団の上で胡座をかき眺めていると「坊っちゃん。私です。入りますよ」と、襖の向こう側から声が掛かる。
 短く「ああ」とだけ答えると、静かに襖がスライドされ七瀬がお盆を手にし入ってくる。

「熱燗です。少し付き合ってください」
「お前相当飲んだだろ? まだ飲むのか?」
「いやはや、凩君のお父上と穂奈美さんは強いですね」

 そう言いながらお猪口に日本酒を注いでいく。

「飲むなんて言っていないぞ」
「それは坊っちゃんのご自由に。まぁ、飲みたくなりますよ。なんせ久々に抱き枕がない訳ですし。なんなら私を枕にします?」

 ニヤリとする七瀬にムッとするが、それはあながち間違っておらず余計に腹が立つ。

「熊なんぞ抱いていられるか」

 七瀬と同室など眠れそうにない。郁哉のアルバムで気を紛らわせようとするほどだ。
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