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第6章 積もる砂糖は雪のよう88%

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 先ほどまでなにも言わず笑っていた尾鷹が、一枚の写真をじっと見つめ笑みをなくしていた。
 何枚も貼られた写真。「どれのこと?」と聞くと、「これ」と指差し郁哉に視線を寄越す。覗き込み写真の下に書かれたラベルに目を向ける。
 何年も前のものだ。ボールペンで書かれた文字は薄くなり、少し読み辛い。目を凝らしながら記憶を辿るが、小さい頃であまり記憶がない。

「たぶん五歳か六歳かな? 交通事故に遭ったみたいで、入院してたときに撮ったんじゃん?」
「みたいって他人事だね。覚えていないの?」
「うん。だって俺、最近のことでも忘れるしさ。那津みたいに記憶力ないもん。母さんから昔は~って聞くけど、本当に俺なのか疑うよ。傷とかも残っていないし、母さん大袈裟だしさ」

 写真の中の郁哉はベッドに座りテーブルに乗ったプリンを、無表情に黙々と食べている。どこか虚ろで覇気がない。
 シャッターチャンスを狙えなかったのか、写真はその一枚だけだった。

「そう。でもこの郁哉ちょっと雰囲気が違う」
「そうかな? 知らない場所で緊張していたんだと思うけど」

 交互に見られるが、昔の自分と今の自分では比べたところで面影があるかないか程度だ。
 そのあとも気になる写真がある度に質問され、思い出せる限りで説明した。全て見終わった頃には、空は明るさをなくし部屋の中も薄暗くなっていた。

「分かったことがある」
「なにが?」
「郁哉は常にお菓子を手にしているってこと」
「あ~確かに!」

 ケラケラ笑い合っていると、襖がパスッと音を鳴らし開け放たれ、弾むような大きな声が同時に部屋中に響いた。

「いっくん~♪ お姉ちゃんだけど~」

 入口には姉の穂奈美が腰に手を当て佇んでいた。
 昔からこれが嫌だった。ノックもできず急に開く襖はプライベートもなにもあったものではない。父や祖父は開ける前にひと声掛けるが、女性陣は声も掛けずにテリトリーに殴り込みだ。
 口を尖らせながら穂奈美に「いきなり開けないでよ」と言うと、尾鷹に視線を向けムッと顔を顰めている。

「あら。やましいことでもしていた言い草ね。不潔だわ」
「はあ? どんな想像してるの……。なにか用?」
「折角帰ってきたんだから、部屋に籠もっていないの! 全く七瀬先生だっていらっしゃるのに、二人で居たら危ないでしょ!」

 二十歳の人間に危ないとは謎過ぎる……と、郁哉は呆れてしまう。
 そんな郁哉を置き去りに、尾鷹と穂奈美が無言で視線を合わせている。二人はテレパシーでもあるのだろうか。
 先に動いたのは尾鷹だった。立ち上がると「お姉さんの言う通りだ。居間に戻ろう」と郁哉を促してくる。
 穂奈美はその言葉に満足したのか「そろそろお夕飯よ」と言い残し、その場をあとにした。

「郁哉、このアルバム借りてていい?」
「あっ、うん……でもそれどうするの?」
「眠る前に見る。部屋別だろうし、暇つぶしにね」
「そっか、部屋別……。あのさ、姉さん……態度悪くてごめん。きっと機嫌が悪いんだ」
「ああ、郁哉が可愛くて堪らないんでしょ。気にしていないよ」
「う、うん……」
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