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第6章 積もる砂糖は雪のよう88%

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「那津は手冷たいよ?」
「冬は苦手だ……郁哉に温めて貰う」

 さらりとそう言われ高い体温がさらに上昇する。思わせ振りの尾鷹の冗談にもいい加減慣れたと思っていた郁哉だが、中々そうもいかないようだ。
 もう一つ最近発見したことがある。
 尾鷹は極度の寒がりらしく、気温が下がるにつれ周りなど気にせずひっつき虫になるようだ。元々スキンシップの激しい尾鷹だが、家ならまだしも外となると流石に郁哉も狼狽える。
 そんな尾鷹が寒さを我慢し迎えに来るなど予想もしていなかった。

「俺は湯たんぽなの?」
「そう。エコだよね」
「それはそうと、先生帰っちゃった? 年末で忙しい時期なのに、悪いことしたな……」
「透なら家に居る。忙しいものか。好き勝手してるんだから。小言がうるさくて逃げて来たんだ」

 それでか……と納得する。
 車で迎えに行くと申し出たのも、こうして駅まで迎えに来たのも、七瀬にチクチクなにかを言われたせいなのだ。
 今日は七瀬が郁哉の定期検診で来ることになっていた。
 郁哉の帰宅時間がずいぶん遅れ、時間を持て余した七瀬に遊ばれたのだろう。
 ちゃっかり郁哉の掌をカイロ代わりに握り締めポケットに仕舞い込むと、肩を並べて家路に向かう。駅からマンションまでの道のりは郁哉の歩幅で十五分。手足の長い尾鷹なら十分も掛からないだろうか。
 歩く速度がいつもと変わらないのは、尾鷹が郁哉に合わせてくれているからだ。普段は横暴な態度の尾鷹だが、こういうところは紳士的である。

「先生になにを言われたの?」
「んー、内緒」
「え~、いいよ先生に聞くから」
「聞いたら冬休み中、郁哉を監禁してヤりまくる」
「う……それ、那津ならやりそう」
「有言実行でしょ」

 澄ました顔で恐ろしいことを言い出す尾鷹に、喜ぶ自分は相当変態なのだと改めて郁哉は思う。
 馬鹿な思いを自粛するように方向転換させた。

「那津は冬休み予定ある?」
「特に。郁哉とヤりまくるぐらい」
「なぜそっちにいく。真面目に聞いてるのに……馬鹿……」
「そうなの? 物欲しそうだったから。郁哉の予定は?」

 ニヤリと口角を上げる尾鷹に、ふいっと顔を背け不貞腐る。

「……実家に帰らせて貰います」

 ……と、先ほど考えていたこととは百八十度異なる回答をして後悔する。挑発に乗ってポロリと零した言葉をいまさら巻き戻すことはできない。

「ふ~ん。静岡だよね?」
「うん。年に最低一度は夏か冬に帰ってるからさ。今年の夏は帰らなかったんだ」
「なら帰らないとね。温泉近くにある?」
「あるよ。結構有名じゃないかな」
「ふ~ん……」

 どうでも良さそうに返事をする尾鷹に内心ガクリと凹むものの、今年は年明けにでも帰って早目に戻ろうかと、頭の中で予定を立てる。
 とんぼ返りをする郁哉に、もう帰るのかと言いたげな母の寂しそうな顔が浮かんでくる。けれどなににしても最近は、尾鷹の予定に合わせてしまう乙女な郁哉なのだ。

(好きになったほうが負けだな……)

 なにを一番に優先するかは人それぞれだ。
 恋を知ったばかりの郁哉では、それを上手くコントロールするのは至難の業だった。
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