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第5章 砂糖の美味しい食し方85%

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「それなら俺、前からしたかったことあるよ?」
「ん? 教えて?」
「那津とスイーツ店巡りしたい」
「ああ、それはいいね。俺も郁哉とずっとしたいと思っていたことだよ。待っていた甲斐があったかな」

 互いに顔を合わせクスクスと笑う。
 二人のしたいことが重なるとより特別なものになる。

「決まりだね」
「うん!」

 食事の片付けを先に済ませると、ソファーに移りまったりとワインを飲んだ。先ほど決まったスイーツ巡りの候補を互いに出し合う。
 やはり尾鷹はスイーツ店を良く知っている。郁哉も相当だが尾鷹もかなりの強者だ。

「凄いなー。那津っていつからスイーツ男子なの?」
「んーそうだね……物心付いたとき……からかな。母に初めて買って貰ったご褒美のチョコレートを食べたときから、甘いものを良く食べるようになったんだ。あの瞬間は今でも忘れられない」

 懐かしむように瞳を細め微笑む尾鷹は、どこか淋しげな哀愁を漂わせている。
 小さな尾鷹はどんな風に甘いものを食べていたのか。幼い尾鷹を脳裏に浮かべ口元を緩めると、郁哉はすぐに笑みをなくした。
 早くに母親を亡くし寂しさを埋めるように、甘いもので幸せを集める尾鷹の姿をイメージしてしまったからだ。
 小さな頃に尾鷹と出会っていたら、笑いながら一緒に食べられたのに……と、いまさらどうしようもできない歯がゆさを覚える。

「よっぽど美味しいチョコレートだったんだな」
「そのときは世界で一番美味しいと思っていたよ」
「へぇ~どんなのだった?」
「それがどこにでも売ってる板チョコなんだ。おかしいでしょ」
「ううん……おかしくない! 那津の気持ち、俺ちょっと分かるかも。初めてのことって衝撃的で妙に記憶に残るし、特別になるっていうか……」

 初めてはいつだって特別なこと。
 その特別を尾鷹から郁哉は沢山教わった。
 キスの初体験。セックス初体験。初めての同居。初めての恋心。どれも記憶に新しくどれも衝撃的だった。
 最初は酷い遊び人だと思っていたはずが、まさか恋愛感情に発展するとは思ってもいなかった。
 苦い記憶も甘い記憶となり、鮮明な彩りに今では上書きされている。

「ああ、まぁ成長すると口も超えるし、あのとき以上のものを求めようとしちゃうけど」
「確かに……人間って貪欲だよな」

 口元を緩めながら尾鷹は頷く。甘いものとはほど遠いルックスの裏には、甘さとかけ離れた苦味を伴っているように思える。
 沈みそうな気持ちを切り換えると、郁哉は明るい声色で話し掛けた。

「けどいいよなぁ~。東京は人気店も一杯あるし羨ましい」
「そんなしょっちゅう食べていた訳じゃないよ」
「でも俺よりは食べてる! 狡い!」
「ふふっ、郁哉だって東京に来てからは、あちこち行ったんでしょ?」
「そりゃ行くよ。地元じゃ街のケーキ屋さんぐらいだもん。誕生日とクリスマスにしか食べられない贅沢品だしさ。こっちに来てからは、週に一度のご褒美。けど、やっぱりひとりだと寂しかったなぁ」

 今まで足を運んだ有名店のスイーツは、どれも確かに美味しいものだった。けれどひとりは味気ない。
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