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第5章 砂糖の美味しい食し方85%

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 今まで家で飲むことはなく、尾鷹とお酒を飲むのはこれで三度目になる。
 尾鷹はお酒がそれほど好きではないと思っていた郁哉だが、ペースからしてどうやらイケる口のようだ。

「けど、急に飲もうだなんてどうしたんだ?」
「お祝いかな」
「なんの?」
「もちろん郁哉の。砂糖依存症完治おめでとう。よく頑張ったね」

 尾鷹の言葉に郁哉は間抜けな顔でキョトンとしていた。

「予定より一週間早いけど、先週の採血の結果を見る限り問題なかったよ。けど、いきなり糖質増やすのは身体に負担が掛かるから、様子見ながらかな。定期的に検査して貰えるように、透には話を付けておいた」

 予想外のことに郁哉は暫く呆けていると、あとから感情の波が襲ってきた。症状を発症してすぐの頃は、地獄のような日々と戦っていた。
 尾鷹との出会いは最悪なものだった。
 最初こそ疑いの目を向けていた郁哉だが、こうして出会わなければ今頃廃人になっていたかもしれない。健康体で笑っていられるのは、緻密に計算されたサポートがあったらからこそだ。
 様々な体験と感情の波に視界がぶれ涙が溢れそうになる。グッと嗚咽を飲み込むと、尾鷹にペコリと頭を下げた。

「那津……ありがとう。那津のお陰だよ」

 フルフルと肩を震わせながら、掠れた声で感謝の気持ちを口にする。

「俺ひとりじゃ、絶対克服できなかった」
「挫折する人も多いこと知ってる? 中毒になると依存して中々抜け出せないんだ。病院に通っていても我慢できずにこっそり口にする人もいる。俺は少し手助けしただけ。郁哉は凄く頑張っていた。間近で見てきた俺が言うんだから自信持って」

 自分はなにもしていないと、郁哉を褒め称える尾鷹の優しい低音。そんな優しいことを言われると、我慢していた涙が勝手に溢れてしまう。

(やっぱ、俺……那津が好きだ)

 涙を拭いながら尾鷹にふわりと笑い掛ける。

「えへへ……那津になにかお礼したい。して欲しいことある?」
「特に……ないけど」

 照れたように頬を染める尾鷹は、ふいっと郁哉から視線を逸しワインを勢い良く飲み干していた。

「それじゃ俺の気が済まない。俺がこんなこと言うの、今後ないかもしれないじゃん」
「ああ、確かに……そうだね。なら郁哉がしたいと思うこと」

 頭が混乱しそうな返答に首を傾げると、尾鷹はクスッと笑いながら立ち上がり、新しいワインボトルを開けていた。
 グラスを取り替え開けたばかりのワインを注ぎながら「なにかないの?」と聞いてくる。

「自分のしたいとこじゃ意味なくね?」
「そう? 自分が用意する、相手が用意するって『用意』することは同じだけど、意味は違うでしょ。郁哉が考えてくれたら、例え俺がしたいことじゃなくても特別になると思うんだ。相手のこと考えて試行錯誤してくれたんだって。それって嬉しくない?」

 スッとグラスを差し出され受け取ると、カチンッと縁を当て澄んだ音を響かせる。

(誰かを想って……か)

 なにをしたら相手は喜ぶか。なにをしたら楽しんでくれるのか。想いが相手に伝われば、それ以上のお礼はない。
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