73 / 161
第5章 砂糖の美味しい食し方85%
07
しおりを挟む
今まで家で飲むことはなく、尾鷹とお酒を飲むのはこれで三度目になる。
尾鷹はお酒がそれほど好きではないと思っていた郁哉だが、ペースからしてどうやらイケる口のようだ。
「けど、急に飲もうだなんてどうしたんだ?」
「お祝いかな」
「なんの?」
「もちろん郁哉の。砂糖依存症完治おめでとう。よく頑張ったね」
尾鷹の言葉に郁哉は間抜けな顔でキョトンとしていた。
「予定より一週間早いけど、先週の採血の結果を見る限り問題なかったよ。けど、いきなり糖質増やすのは身体に負担が掛かるから、様子見ながらかな。定期的に検査して貰えるように、透には話を付けておいた」
予想外のことに郁哉は暫く呆けていると、あとから感情の波が襲ってきた。症状を発症してすぐの頃は、地獄のような日々と戦っていた。
尾鷹との出会いは最悪なものだった。
最初こそ疑いの目を向けていた郁哉だが、こうして出会わなければ今頃廃人になっていたかもしれない。健康体で笑っていられるのは、緻密に計算されたサポートがあったらからこそだ。
様々な体験と感情の波に視界がぶれ涙が溢れそうになる。グッと嗚咽を飲み込むと、尾鷹にペコリと頭を下げた。
「那津……ありがとう。那津のお陰だよ」
フルフルと肩を震わせながら、掠れた声で感謝の気持ちを口にする。
「俺ひとりじゃ、絶対克服できなかった」
「挫折する人も多いこと知ってる? 中毒になると依存して中々抜け出せないんだ。病院に通っていても我慢できずにこっそり口にする人もいる。俺は少し手助けしただけ。郁哉は凄く頑張っていた。間近で見てきた俺が言うんだから自信持って」
自分はなにもしていないと、郁哉を褒め称える尾鷹の優しい低音。そんな優しいことを言われると、我慢していた涙が勝手に溢れてしまう。
(やっぱ、俺……那津が好きだ)
涙を拭いながら尾鷹にふわりと笑い掛ける。
「えへへ……那津になにかお礼したい。して欲しいことある?」
「特に……ないけど」
照れたように頬を染める尾鷹は、ふいっと郁哉から視線を逸しワインを勢い良く飲み干していた。
「それじゃ俺の気が済まない。俺がこんなこと言うの、今後ないかもしれないじゃん」
「ああ、確かに……そうだね。なら郁哉がしたいと思うこと」
頭が混乱しそうな返答に首を傾げると、尾鷹はクスッと笑いながら立ち上がり、新しいワインボトルを開けていた。
グラスを取り替え開けたばかりのワインを注ぎながら「なにかないの?」と聞いてくる。
「自分のしたいとこじゃ意味なくね?」
「そう? 自分が用意する、相手が用意するって『用意』することは同じだけど、意味は違うでしょ。郁哉が考えてくれたら、例え俺がしたいことじゃなくても特別になると思うんだ。相手のこと考えて試行錯誤してくれたんだって。それって嬉しくない?」
スッとグラスを差し出され受け取ると、カチンッと縁を当て澄んだ音を響かせる。
(誰かを想って……か)
なにをしたら相手は喜ぶか。なにをしたら楽しんでくれるのか。想いが相手に伝われば、それ以上のお礼はない。
尾鷹はお酒がそれほど好きではないと思っていた郁哉だが、ペースからしてどうやらイケる口のようだ。
「けど、急に飲もうだなんてどうしたんだ?」
「お祝いかな」
「なんの?」
「もちろん郁哉の。砂糖依存症完治おめでとう。よく頑張ったね」
尾鷹の言葉に郁哉は間抜けな顔でキョトンとしていた。
「予定より一週間早いけど、先週の採血の結果を見る限り問題なかったよ。けど、いきなり糖質増やすのは身体に負担が掛かるから、様子見ながらかな。定期的に検査して貰えるように、透には話を付けておいた」
予想外のことに郁哉は暫く呆けていると、あとから感情の波が襲ってきた。症状を発症してすぐの頃は、地獄のような日々と戦っていた。
尾鷹との出会いは最悪なものだった。
最初こそ疑いの目を向けていた郁哉だが、こうして出会わなければ今頃廃人になっていたかもしれない。健康体で笑っていられるのは、緻密に計算されたサポートがあったらからこそだ。
様々な体験と感情の波に視界がぶれ涙が溢れそうになる。グッと嗚咽を飲み込むと、尾鷹にペコリと頭を下げた。
「那津……ありがとう。那津のお陰だよ」
フルフルと肩を震わせながら、掠れた声で感謝の気持ちを口にする。
「俺ひとりじゃ、絶対克服できなかった」
「挫折する人も多いこと知ってる? 中毒になると依存して中々抜け出せないんだ。病院に通っていても我慢できずにこっそり口にする人もいる。俺は少し手助けしただけ。郁哉は凄く頑張っていた。間近で見てきた俺が言うんだから自信持って」
自分はなにもしていないと、郁哉を褒め称える尾鷹の優しい低音。そんな優しいことを言われると、我慢していた涙が勝手に溢れてしまう。
(やっぱ、俺……那津が好きだ)
涙を拭いながら尾鷹にふわりと笑い掛ける。
「えへへ……那津になにかお礼したい。して欲しいことある?」
「特に……ないけど」
照れたように頬を染める尾鷹は、ふいっと郁哉から視線を逸しワインを勢い良く飲み干していた。
「それじゃ俺の気が済まない。俺がこんなこと言うの、今後ないかもしれないじゃん」
「ああ、確かに……そうだね。なら郁哉がしたいと思うこと」
頭が混乱しそうな返答に首を傾げると、尾鷹はクスッと笑いながら立ち上がり、新しいワインボトルを開けていた。
グラスを取り替え開けたばかりのワインを注ぎながら「なにかないの?」と聞いてくる。
「自分のしたいとこじゃ意味なくね?」
「そう? 自分が用意する、相手が用意するって『用意』することは同じだけど、意味は違うでしょ。郁哉が考えてくれたら、例え俺がしたいことじゃなくても特別になると思うんだ。相手のこと考えて試行錯誤してくれたんだって。それって嬉しくない?」
スッとグラスを差し出され受け取ると、カチンッと縁を当て澄んだ音を響かせる。
(誰かを想って……か)
なにをしたら相手は喜ぶか。なにをしたら楽しんでくれるのか。想いが相手に伝われば、それ以上のお礼はない。
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる