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第4章 甘い砂糖には裏がある75%
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心の中で叫んでいると、尖った低音の聞き慣れた声が響いてきた。
強く掴まれていた肩が急に軽くなる。
「はい、ストップ。お前ひとの家でなにをやっているんだ。その辺にしておけ。余計なことはするなと伝えていたはずだ」
「──いっ、イタタターーッ! ぼっ、坊っちゃんっ! 抜けちまうッ!」
束ねられた髪を見るからに痛そうに後方へと引かれる七瀬は、大きな身体には似合わない涙目で頭を抱えている。
調子に乗るなと頭をペシッとひと叩きする尾鷹が、凍えるようなオーラを醸し出し不機嫌そうに佇んでいた。
「だから会わせたくなかったんだ。たく……見境なく興奮しやがって。イカれたヤブ医者が。ほら、郁哉に謝れ」
「いや……その……凩君、申し訳ない。怖がらせてしまいました……つい興奮してしまって……」
「透は悪気はないし優秀なのは確かなんだ。けど、たまにこうなるから気を付けて」
良くあることなのか尾鷹は驚いた様子もなく郁哉に苦笑いすると、七瀬の後頭部を押さえ頭を再度下げさせた。
「う、うん……平気。先生に相談してホッとしたから。まぁ……那津が言うイカれてるっていうのも納得だけど……」
大きな身体でペコペコと頭を下げる七瀬の姿がおかしくて、ついつい笑ってしまう。
郁哉の笑顔に安心したのか七瀬は苦笑いで「以後気を付けます」と、面目ない様子で謝罪していた。
「そもそもですね、坊っちゃんが悪いんですよ」
「はあ?」
「なぜ凩君の細かい状況を教えてくれなかったんです? 聞いていたことと違うじゃありませんか! 心配だったのでしょ!」
「だから透を連れてきたんだろ」
「なら、是非体液も提供してくださいよ!」
「それは却下。郁哉は明け方までたっぷり出し尽くした。取り敢えず今日採血した血液で問題ないか調べろ。優秀なお前なら造作もないだろ? 以上、お前は今すぐ自分のラボで結果を出してこい」
玄関のほうへ指先を向けると、問答無用で七瀬に出ていけと伝える。
これ以上は尾鷹の機嫌を損ねると思ったのか「分かりましたよ」と、頭を掻きながら渋々と七瀬は玄関へと向かう。
「あのッ! 七瀬先生……今日は色々ありがとうございました」
ペコリとお辞儀をする郁哉に、優しい笑顔を向けると「いえ、なにかあればまた呼んでください」と肩を竦めていた。
変わっているが優しい人だった。会話をしたのは数時間だが、楽しくて自分を見つめ直すことができた。
扉を見つめながらクスッと笑う郁哉に、尾鷹はどこか不機嫌そうにしている。
「郁哉は野生の熊みたいなおじさんが好み?」
「はあ? 好みって?」
「別に……ただ、凄く優しい笑顔だから。そういう顔、俺にはあまり見せないでしょ」
「……そんなことないよ」
ドキドキしてしまう。七瀬が居なくなった途端に知ったばかりの感情がぶり返し顔を火照らせていく。
「ふ~ん。赤い顔して良く言うよ」
「だから……そういうのじゃないってば……」
尾鷹から視線を逸らし、小さな声で「那津の馬鹿」と呟きながら、胸の内に吹き荒れる春の嵐をそっと隠す郁哉だった。
強く掴まれていた肩が急に軽くなる。
「はい、ストップ。お前ひとの家でなにをやっているんだ。その辺にしておけ。余計なことはするなと伝えていたはずだ」
「──いっ、イタタターーッ! ぼっ、坊っちゃんっ! 抜けちまうッ!」
束ねられた髪を見るからに痛そうに後方へと引かれる七瀬は、大きな身体には似合わない涙目で頭を抱えている。
調子に乗るなと頭をペシッとひと叩きする尾鷹が、凍えるようなオーラを醸し出し不機嫌そうに佇んでいた。
「だから会わせたくなかったんだ。たく……見境なく興奮しやがって。イカれたヤブ医者が。ほら、郁哉に謝れ」
「いや……その……凩君、申し訳ない。怖がらせてしまいました……つい興奮してしまって……」
「透は悪気はないし優秀なのは確かなんだ。けど、たまにこうなるから気を付けて」
良くあることなのか尾鷹は驚いた様子もなく郁哉に苦笑いすると、七瀬の後頭部を押さえ頭を再度下げさせた。
「う、うん……平気。先生に相談してホッとしたから。まぁ……那津が言うイカれてるっていうのも納得だけど……」
大きな身体でペコペコと頭を下げる七瀬の姿がおかしくて、ついつい笑ってしまう。
郁哉の笑顔に安心したのか七瀬は苦笑いで「以後気を付けます」と、面目ない様子で謝罪していた。
「そもそもですね、坊っちゃんが悪いんですよ」
「はあ?」
「なぜ凩君の細かい状況を教えてくれなかったんです? 聞いていたことと違うじゃありませんか! 心配だったのでしょ!」
「だから透を連れてきたんだろ」
「なら、是非体液も提供してくださいよ!」
「それは却下。郁哉は明け方までたっぷり出し尽くした。取り敢えず今日採血した血液で問題ないか調べろ。優秀なお前なら造作もないだろ? 以上、お前は今すぐ自分のラボで結果を出してこい」
玄関のほうへ指先を向けると、問答無用で七瀬に出ていけと伝える。
これ以上は尾鷹の機嫌を損ねると思ったのか「分かりましたよ」と、頭を掻きながら渋々と七瀬は玄関へと向かう。
「あのッ! 七瀬先生……今日は色々ありがとうございました」
ペコリとお辞儀をする郁哉に、優しい笑顔を向けると「いえ、なにかあればまた呼んでください」と肩を竦めていた。
変わっているが優しい人だった。会話をしたのは数時間だが、楽しくて自分を見つめ直すことができた。
扉を見つめながらクスッと笑う郁哉に、尾鷹はどこか不機嫌そうにしている。
「郁哉は野生の熊みたいなおじさんが好み?」
「はあ? 好みって?」
「別に……ただ、凄く優しい笑顔だから。そういう顔、俺にはあまり見せないでしょ」
「……そんなことないよ」
ドキドキしてしまう。七瀬が居なくなった途端に知ったばかりの感情がぶり返し顔を火照らせていく。
「ふ~ん。赤い顔して良く言うよ」
「だから……そういうのじゃないってば……」
尾鷹から視線を逸らし、小さな声で「那津の馬鹿」と呟きながら、胸の内に吹き荒れる春の嵐をそっと隠す郁哉だった。
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