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第4章 甘い砂糖には裏がある75%

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 薄い唇をにこやかに綻ばせ握手を求める大きな手に、そろりと手を差し出すと、ブンブンと肩が外れるかと思うほど揺さぶられ七瀬が豪快な挨拶をしてくる。
 熊みたいな男だ……と郁哉は思った。野性的なワイルドさが七瀬から滲み出ているからだ。

「……はじめまして。凩郁哉です。……あの、静岡まで本当に行かれたんですか?」
「そりゃ坊っちゃんの言いつけですからね。ご両親は大層喜んでいましたよ。それに、ずいぶん心配もしていたようで」
「心配……そうでしょうか」
「親ってもんはそんなもんでしょ。まぁ例外もいますがね。まぁ、坊っちゃんも意外と寂しがり屋なんで、遠慮せず一緒に居てやってくださいよ」

 パチンとウインクをする七瀬は、ちらりと尾鷹に視線を投げた。

「透、お前……喋り過ぎ」
「ハハハ……こりゃ失礼」

 肩を詰めると「お茶でも用意しますかね」と言いながら、七瀬が寝室をあとにする。

「郁哉のアパートの荷物もついでに運んで貰ったんだ。けど、郁哉が本当にここで暮らすのが嫌なら……」

 叱られた子供のように眉を下げる尾鷹に、首を横に振り言葉を遮った。

「……嫌じゃない」
「郁哉……いいの?」

 七瀬がわざわざ実家にまで行き時間を費やしてくれたのだ。それを簡単に無下にはできない。

「けど、やっぱり那津は横暴だ。勝手過ぎる。少しは相談してくれたっていいじゃないか。七瀬さんに頼まなくても、俺だって自分の両親ぐらい説得できる」
「ああ、悪かった。郁哉が自分の家に戻るって圭介達に聞いたら、居ても立ってもいられないくて……気持ちが先走ったんだ」

 おかしそうに笑いながら尾鷹はそう言った。怒ったつもりなのにクスクス笑う尾鷹に拍子抜けしてしまう。

「なんだよそれ。でも、那津が案外寂しがり屋って分ったから許すよ」
「ふふ、俺も郁哉と同じでうさぎちゃんだからね。立てる?」
「うん……」

 このままひとりベッドで過ごすかと思えば、郁哉もお茶に誘われた。七瀬という男は尾鷹とどういう関係なのかも気になるところだ。
 リビングに向かうと、ローテーブルにティーセットが用意されていた。リンゴのような爽やかな香りが漂っている。

「リラックスできるようにカモミールにしましたよ。温かいうちにどうぞ」
「どうも……いただきます」
「透は医学に詳しいんだ。郁哉の砂糖依存症のことも色々相談してる。食事のメニューも透と相談して作っていたんだよ」

 驚きながらも納得する。
 計算されたような料理の品々は、味もバランスもプロ並みのものだったからだ。

「あの、七瀬さんにも迷惑掛けていたんですね。家のことも含めてなんてお礼したら……」
「いやいや、大したことじゃないですよ。私は坊っちゃんには逆らえないんでね」
「おい、勘違いさせるような言い方はやめてよね」

 七瀬は三十五、六に見えるが、尾鷹を『坊っちゃん』と呼び、時折敬語を使うあたりどちらが主人かは明白だ。けれど二人のやり取りは主従関係があるように見えるがどこか砕けている。

「……あの、二人って……その、どういう……」

 尾鷹と七瀬は互いに顔を合わせると郁哉に視線を戻し、どこか悩ましげな顔をする。
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