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第4章 甘い砂糖には裏がある75%

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 気不味い空気がどういう訳か室内に漂っている。そんな沈黙に我慢できなかったのか、竹田が声を抑えて呟いた。

「……マジで来た」
「呼び出したのはそっちでしょ」

 無表情を幾分か緩める尾鷹は溜息を吐き出すと、竹田から砂川へと顔を向けた。
 恐ろしいほど綺麗に整った微笑みを貼り付けて……。

「智義、席変わって」
「えーなんでよ。折角郁哉と戯れてたのに。俺の抱き枕だ! 郁哉の隣に座れた者のオプションだ。尾鷹は普段独占してるじゃんよ~。今日ぐらい貸せよなぁ~」

 ぬいぐるみを抱きしめるように砂川は郁哉をぎゅーと締め付けてくる。子供扱いしてきた癖にどちらが子供だと呆れるものの、郁哉は気がきではなかった。

「ふ~ん……貸せ……ね」

 これはよろしくない。なにを怒っているのか知らないが、尾鷹から放たれる不機嫌なオーラに、郁哉はご要望通りに砂川を引き剥がし席を変わるように促しておいた。
 話の流れから竹田が呼び出したようだが、服装を見る限りどこかに出掛けていたのだろう。急の呼び出しに腹を立てているのかもしれない。

「……出掛けてたんだよね?」
「ああ、用事は済んだけど」
「そっか。なんか飲む? あっ、でも車だとお酒は駄目だね」
「置いてきた。なににしようかな」

 メニューを差し出すと郁哉の腰がビクッと跳ねる。
 尾鷹が腰に手を回し、メニューを郁哉に持たせたまま覗き込んでいるからだ。
 咎めるように睨むと「隣に座ったらオプション付くんでしょ?」と、普段見せない笑顔に恐怖を感じ頬を引きつらせた。

 追加のオーダーはすぐに通りお酒が揃うと乾杯をした。
 一時は重い空気だった室内も、砂川の酔が落ち着くと普段通り和やかなものになっていた。

「けど、尾鷹が来るなんてな~。最近じゃ郁哉と一緒で誘っても顔見せなかった癖にな~」
「来るつもりはなかったよ。たまには郁哉だって、ほかの人と飯ぐらい食べに行きたいだろうし」
「ハハハ……悪い悪い。郁哉が随分悩んでるから、同居人にもその辺理解して貰ったほうがいいかと思ってさ」
「ちょっ、ちょっと! 別に俺、悩んでないし!」
「良く言うぜ……危なっかしくて、ひとりで帰せないだろ。だから尾鷹に無事に帰れるか分からん……って連絡入れたんだ」
「危ないって……小学生かよ! とにかく心配されなくても平気だよ」

 竹田の余計なお世話に抗議の声を上げると、グイッとお酒を煽り空にさせ話を断ち切りごまかしながらメニューを開く。
 尾鷹に悩みを聞かれる訳にはいかないのだ。けれど尾鷹は追及を緩めない。

「郁哉、顔赤いよ。来て正解だったかも。ねえ、悩みって?」
「だからなんでもないって。てか、那津近い……」
「ふ~ん。智義とはベッタリだったのに? 俺はダメなんだ」
「そういう訳じゃ……それより砂川がシャンプーの銘柄教えてくれって」
「はぁ? どうでもいい」
「なんでだよ。別に減るもんじゃないじゃん」

 スッと髪を一房取られ遊ばれる。サラサラと黒い髪が頬に掛かると、整えるように耳に掛けられる。
 そんな姿を凝視していた竹田が、ゴクリと唾を飲み込むと郁哉には良く分からないことを言い出し始めた。
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