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第3章 砂糖を湯煎で溶かしたら55%
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「今日なにしていたの?」
「……大学行って、ランチを竹田と砂川で食べてから帰ってきた。ご飯作ったり復習したり色々。そうだ那津、携帯番号とか教えてよ。連絡取れないと不便なんだ」
「ああ、あとで教えるつもりだった」
「そっか……なら良かった。あっ、あとさ、お腹減ってない?」
「俺の分も作ってくれたの?」
「うん……まあ、那津みたいに綺麗にはできなかったけど」
「それは楽しみ」
ふわっと髪に吐息が触れる。
尾鷹は先ほどとは打って変わって機嫌良さげに笑っており安堵するが、このなんとも不思議な状況に郁哉は狼狽えていた。
(……凄い落ち着かない……広い風呂の意味ないじゃん)
尾鷹が不在のときはソワソワし気掛かりになる。それなのにいざこうして一緒に居ると動悸が激しくなる。
耳の近くから聴こえてくる尾鷹の声に、なぜか妙に緊張し郁哉は身体を強張らせていた。
「那津は? 実家のトラブルって言ってたけど……お姉さんか妹さん? 母親ってのもあるか。ずいぶん親密なんだな」
女の匂いイコール他人と決め付けていた。女性とは恋人や友人だけでなく、家族という存在も含まれるものだ。
ひとりでイライラしたものの、密着し話をていると、自分が勝手に勘違いをしているような気がしてきた。けれど返ってきた言葉は、郁哉の想像を遥かに超えていた。
「俺に血の繋がった女性はいないよ。母は俺が六つのときに他界した。兄弟は異母兄だけ。父には義兄と年の近い若い奥さんがいるけどね」
初めて聞いた尾鷹の家族構成に、郁哉は驚きと共に困惑してしまう。
まさかそんなに複雑な家庭環境だとは、思ってもいなかったのだ。
「…………あっ、その……ごめん」
聞いてはいけないことを聞いてしまったと後悔するが、尾鷹は特に気にする様子もなく淡々としている。
「ああ、可哀想とかなしね。まぁ……一般的な家庭とはかけ離れてるけど、結構好きにさせて貰ってるし。それより気になるの?」
「えっ……なにが?」
「女の匂いが誰かってこと」
ドキッとする。
その鼓動は肯定に対してのものだ。知りたいのは真実で想像ではない。
郁哉は回答に困っていた。そうだと言えば、まるで見えない女に嫉妬でもしているようだからだ。肯定とも否定とも取れない動作をすると、尾鷹に背後からクスッと笑われてしまう。
「愛人だよ」
お湯に浸かっているのに身体が冷えたように固まる郁哉に、楽しそうに尾鷹は笑い涙まで浮かべている。
徐々に怒りが込み上げ、尾鷹の胸をお湯と一緒に叩いていた。
尾鷹の手癖の悪さなど今に始まったことではないのは分かっているつもりでも、郁哉はフルフルと震えながら怒りを発していた。
自分も遊ばれている人間のひとりに過ぎない。一度だけセックスをし、一度抜き合い時折キスをする。
たまたま手近に居るだけで、触れられることはあるが単なる居候なのだ。
それでも……言わずにはいられない。
「酷い! やっぱあんた最低だ!」
「ああ、そうだよ。俺は酷くて最低な男だ」
「……大学行って、ランチを竹田と砂川で食べてから帰ってきた。ご飯作ったり復習したり色々。そうだ那津、携帯番号とか教えてよ。連絡取れないと不便なんだ」
「ああ、あとで教えるつもりだった」
「そっか……なら良かった。あっ、あとさ、お腹減ってない?」
「俺の分も作ってくれたの?」
「うん……まあ、那津みたいに綺麗にはできなかったけど」
「それは楽しみ」
ふわっと髪に吐息が触れる。
尾鷹は先ほどとは打って変わって機嫌良さげに笑っており安堵するが、このなんとも不思議な状況に郁哉は狼狽えていた。
(……凄い落ち着かない……広い風呂の意味ないじゃん)
尾鷹が不在のときはソワソワし気掛かりになる。それなのにいざこうして一緒に居ると動悸が激しくなる。
耳の近くから聴こえてくる尾鷹の声に、なぜか妙に緊張し郁哉は身体を強張らせていた。
「那津は? 実家のトラブルって言ってたけど……お姉さんか妹さん? 母親ってのもあるか。ずいぶん親密なんだな」
女の匂いイコール他人と決め付けていた。女性とは恋人や友人だけでなく、家族という存在も含まれるものだ。
ひとりでイライラしたものの、密着し話をていると、自分が勝手に勘違いをしているような気がしてきた。けれど返ってきた言葉は、郁哉の想像を遥かに超えていた。
「俺に血の繋がった女性はいないよ。母は俺が六つのときに他界した。兄弟は異母兄だけ。父には義兄と年の近い若い奥さんがいるけどね」
初めて聞いた尾鷹の家族構成に、郁哉は驚きと共に困惑してしまう。
まさかそんなに複雑な家庭環境だとは、思ってもいなかったのだ。
「…………あっ、その……ごめん」
聞いてはいけないことを聞いてしまったと後悔するが、尾鷹は特に気にする様子もなく淡々としている。
「ああ、可哀想とかなしね。まぁ……一般的な家庭とはかけ離れてるけど、結構好きにさせて貰ってるし。それより気になるの?」
「えっ……なにが?」
「女の匂いが誰かってこと」
ドキッとする。
その鼓動は肯定に対してのものだ。知りたいのは真実で想像ではない。
郁哉は回答に困っていた。そうだと言えば、まるで見えない女に嫉妬でもしているようだからだ。肯定とも否定とも取れない動作をすると、尾鷹に背後からクスッと笑われてしまう。
「愛人だよ」
お湯に浸かっているのに身体が冷えたように固まる郁哉に、楽しそうに尾鷹は笑い涙まで浮かべている。
徐々に怒りが込み上げ、尾鷹の胸をお湯と一緒に叩いていた。
尾鷹の手癖の悪さなど今に始まったことではないのは分かっているつもりでも、郁哉はフルフルと震えながら怒りを発していた。
自分も遊ばれている人間のひとりに過ぎない。一度だけセックスをし、一度抜き合い時折キスをする。
たまたま手近に居るだけで、触れられることはあるが単なる居候なのだ。
それでも……言わずにはいられない。
「酷い! やっぱあんた最低だ!」
「ああ、そうだよ。俺は酷くて最低な男だ」
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