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第3章 砂糖を湯煎で溶かしたら55%

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 書き綴ってきたレシピがやっと役に立つ。
 気分転換に料理に挑戦しようと冷蔵庫を開け、作れそうなレシピをチョイスした。

(那津も食べるかな? 食べてくれたらいいな……)

 料理はスムーズにできあがった。尾鷹が細かく指導をしてくれたお陰だ。
 形は少し歪だが、味はなんとか再現できたと自我自賛する。

(……食事ってひとりだと、こんなに侘びしかったっけ)

 いつもは目の前に尾鷹が座り、他愛もない会話をし笑ったり膨れたりしていた。
 以前にもこうしてひとりで食事を取ることはあったが、尾鷹に冷たい態度を取られたせいで余計に寂しさを感じるのかもしれない。
 部屋を見渡すと、尾鷹の家が酷く広いことを改めて実感させられる。ひとりでここに住んでいる尾鷹は今まで寂しくはなかったのだろうかと……。

 ブンブンと首を横に振り、今日一日中尾鷹のことばかり考えている自分に苦笑いしてしまう。
 食器を片付けついでに簡単な掃除を済ませると、日課のレシピ作成は今日はないのだとまた寂しさを覚える。

(俺……那津依存症になっちゃった?)

 ブクブクとお湯を波立たせ、浴槽に浸かり上手いこと言ったかもと無理矢理気持ちを上昇させる。
 風呂から上がり今日の講義の復習をし、時計を見るとすでに零時を回っていた。

(今日遅くなるってさ……。なぁ那津……今日は昨日になっちゃったぞ……)

 コロンとソファーに寝転び、観たい訳でもないニュース番組をぼんやり眺める。
 郁哉は考える。
 普段アパートで自分は一体なにをして過ごしていたのか──と。

(ここに居られるのもあと僅かだよな……。なんでかな……泣きそう……)

 瞼を落とし零れそうになる涙を閉じ込めると、ガヤガヤと雑音にしか聞こえないテレビの音声で、ひとりでいる訳ではないのだと錯覚させごまかした。


***


 黒いセダンが一台、静まり返った夜道を進んでいく。
 オフィス街の歩道にはひと気もなく、数台の車両が行き交い閑散としている。
 尾鷹は液晶インパネの時計を見ると重い溜息を吐き出した。
 時刻は深夜二時になろうとしている。
 成田へ向かうまでに一時間弱掛かり、依頼された人物を探すのにまた一時間ほど要した。その後東京へ戻るのに事故渋滞に嵌まり、行きの倍以上時間が潰れた。

 父に頼まれた人物は女優のように美しい若い女だった。
 年齢は三十前後だが、経験豊かで今までにかなりの数の男を手玉に取ってきたのが窺えた。
 尾鷹を見るなり唇を蠱惑的に綻ばせ、当たり前のように腕に絡みついてきた。
 尾鷹をホストのように扱う女の買い物に連れ回され、車でも食事をするときでも、尾鷹にしなだれ気を引こうとする女を宥めた。
 ホテルまで送り届けると、尾鷹に誘いを掛けキスを強請ってくる始末だ。
 尾鷹のシャツのボタンを外し、露出の高いはだけたワンピースから覗く豊満な胸を押し付け自身の魅力を撒き散らす女に、朝まで付き合わされる覚悟もした。
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