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第3章 砂糖を湯煎で溶かしたら55%
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誰か報告したかなど明白だ。
うしろで控えているであろう和泉に、所詮は父の飼い犬だと割り切るが、父に詮索をされれば面倒事になり兼ねない。
感情を押し殺す尾鷹に、探るような眼光を向ける父はふと目尻を緩め父親らしい顔付きになる。
「お前は母親に似て掴めんな」
「父さんに似ずに残念です」
「良く言う。まぁいい。それより呼んだのには頼みたいことがあってな。これから成田に向かってくれ」
「成田ですか? しかし時間的にも俺では役不足だと……」
「なに、難しいことではない。子供でもできる簡単なことだ。本来なら自分で行きたいところだが、なにせ女房の機嫌を取らねばならん。流石に連れて行く訳にはいかないのでな。頼んだぞ」
スッと差し出された写真に納得するが、成田に向かわされるほど尾鷹は暇ではない。子供でもできるお使いとは皮肉にもほどがある。
頭を下げながら「機嫌を損ねるかもしれませんが、ご了承ください」と言い残し立ち上がると、障子が開き、廊下に控えていた和泉に冷めた視線を無言で投げつける。
シルバーフレームの眼鏡をサッと下に向け、薄い肩が子犬のようにビクビクと震えている。蒼白に歪む和泉の姿に心中で舌打ちすると、重い脚をひきずり早々に屋敷をあとにした。
***
講義を終えた郁哉は、カフェテラスでぼんやりと過ごしていた。
朝の一件から終始消沈しているのだ。
竹田と砂川の話にも上の空で、心ここにあらずの様子。
「郁哉、お前大丈夫か?」
「んー? たぶんねー」
「こりゃ駄目だな。そういやさ、尾鷹のところで居候してるんだって? あいつ相当郁哉が気に入ったんだなー」
「砂川とさ尾鷹に家に招待してくれって頼んだら、あいつなんて言ったと思う?」
「さぁーねぇー」
「スイーツ男子限定。可愛くもない男は入れないよ……だってさ。これって郁哉に相当入れ込んでるだろ」
「へぇーそうなんだぁー」
「竹田……郁哉また聞いていないぞ? ひょっとして尾鷹に追い出されたとか?」
「まさかそりゃないだろ。冗談はやめとけよ」
目を丸くし一点を見つめる郁哉に、竹田と砂川は引きつった頬を無理矢理笑顔にさせる。
なにを仕出かしたと詰め寄られ、ナニをしたことは話せないが「朝怒らせたかも……別に追い出されてないけど、たぶん俺が悪い」と当たり障りなく白状した。
「メールか電話でもして謝っておけばいいだろ」
「知らないんだよね……」
「知らないって居候までしてて?」
教えて貰っていなかったと気付いたのは、メールで先に謝ろうとスマホを握ったあとだった。
毎日顔を合わせ一緒に居る時間が長いせいもあり、連絡先のやり取りを失念していたのだ。
竹田と砂川が知っているかもと期待したが、二人も聞いてなかったと空振りに終り落胆する。
「まぁ、帰ってきたら謝るよ。そんな訳で俺今日はパスね」
「今日はって今日も! だろ?」
「確かに! まぁ、なにかあったら連絡しろよ」
「うん。あんがと」
気晴らしにサークルにどうかと誘われたが、一応治療中の身だ。
尾鷹がいつ戻るか不明だが、一秒でも早く会えればとマンションへ帰ることにした。
うしろで控えているであろう和泉に、所詮は父の飼い犬だと割り切るが、父に詮索をされれば面倒事になり兼ねない。
感情を押し殺す尾鷹に、探るような眼光を向ける父はふと目尻を緩め父親らしい顔付きになる。
「お前は母親に似て掴めんな」
「父さんに似ずに残念です」
「良く言う。まぁいい。それより呼んだのには頼みたいことがあってな。これから成田に向かってくれ」
「成田ですか? しかし時間的にも俺では役不足だと……」
「なに、難しいことではない。子供でもできる簡単なことだ。本来なら自分で行きたいところだが、なにせ女房の機嫌を取らねばならん。流石に連れて行く訳にはいかないのでな。頼んだぞ」
スッと差し出された写真に納得するが、成田に向かわされるほど尾鷹は暇ではない。子供でもできるお使いとは皮肉にもほどがある。
頭を下げながら「機嫌を損ねるかもしれませんが、ご了承ください」と言い残し立ち上がると、障子が開き、廊下に控えていた和泉に冷めた視線を無言で投げつける。
シルバーフレームの眼鏡をサッと下に向け、薄い肩が子犬のようにビクビクと震えている。蒼白に歪む和泉の姿に心中で舌打ちすると、重い脚をひきずり早々に屋敷をあとにした。
***
講義を終えた郁哉は、カフェテラスでぼんやりと過ごしていた。
朝の一件から終始消沈しているのだ。
竹田と砂川の話にも上の空で、心ここにあらずの様子。
「郁哉、お前大丈夫か?」
「んー? たぶんねー」
「こりゃ駄目だな。そういやさ、尾鷹のところで居候してるんだって? あいつ相当郁哉が気に入ったんだなー」
「砂川とさ尾鷹に家に招待してくれって頼んだら、あいつなんて言ったと思う?」
「さぁーねぇー」
「スイーツ男子限定。可愛くもない男は入れないよ……だってさ。これって郁哉に相当入れ込んでるだろ」
「へぇーそうなんだぁー」
「竹田……郁哉また聞いていないぞ? ひょっとして尾鷹に追い出されたとか?」
「まさかそりゃないだろ。冗談はやめとけよ」
目を丸くし一点を見つめる郁哉に、竹田と砂川は引きつった頬を無理矢理笑顔にさせる。
なにを仕出かしたと詰め寄られ、ナニをしたことは話せないが「朝怒らせたかも……別に追い出されてないけど、たぶん俺が悪い」と当たり障りなく白状した。
「メールか電話でもして謝っておけばいいだろ」
「知らないんだよね……」
「知らないって居候までしてて?」
教えて貰っていなかったと気付いたのは、メールで先に謝ろうとスマホを握ったあとだった。
毎日顔を合わせ一緒に居る時間が長いせいもあり、連絡先のやり取りを失念していたのだ。
竹田と砂川が知っているかもと期待したが、二人も聞いてなかったと空振りに終り落胆する。
「まぁ、帰ってきたら謝るよ。そんな訳で俺今日はパスね」
「今日はって今日も! だろ?」
「確かに! まぁ、なにかあったら連絡しろよ」
「うん。あんがと」
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