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第2章 砂糖と薬は紙一重±0%

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 休日の朝はいつもスロースタートの郁哉だが、今日の郁哉は違っていた。
 昨日突然押し掛けてきた尾鷹の魔の手から逃れる準備を、早くから進めていたのだ。
 交友関係が乏しい郁哉は唯一の友人、竹田と砂川の家に転がり込むことも考えたが、尾鷹に嗅ぎ付けられるような気がして敢えて避けた。
 二十四時間営業のネットカフェなら、いつでも入店でき雲隠れするには丁度いい。
 さぁ行くぞと意気込み、鼻歌交じりでアパートの階段を降り、駅方面へ足を進めると後退した。

「郁哉く~ん。どこ行くの~?」

 後退したのは、背負ったリュックサックを背後から掴まれたからだ。

「──ひッ、やっ、買い物に……」
「ふ~ん。買い物にしてはずいぶん大荷物だね? そんなに家に来るの楽しみにしていたなんて、嬉しいな♡」
「まだ用意してないっ! 昼! 昼には戻るから! またあとでな!」

 あと……などないのだが、郁哉はその場限りの嘘を言い、この場をなんとか逃れようと抵抗をみせる。
 重たいリュックサックが尾鷹に引っ張られ、ウエイトの軽い郁哉は前へと進めずにいた。

「用意なら必要ないよ。必要なのは郁哉の身一つで十分だ。ほら、こっち」
「うぉッ! 馬鹿! 離せ! 肩もげるッ!!」

 路肩に停められているセダンタイプの黒い車まで引きずられ、荷物のように中に放り投げられると、誘拐犯のような素早さで尾鷹が運転席に回り車を発進させる。
 車の前面に表示されたスタイリッシュな液晶インパネの時刻を見ると、まだ九時にもなっていない。
 郁哉は静かに溜息を吐き、自身の思考をさらに上回る尾鷹の推理に早々に諦めることにした。


 自宅から車で二十分ほど走ると、速度を落とし建物の中へと進んでいく。緩やかなスロープを下ると、薄暗い駐車場に身を硬くする。
 尾鷹の軽やかなハンドル捌きでスペースに車が停車すると「降りて」と言われるが、郁哉は困惑しながらその場に留まっていた。
 シートベルトを握り締めていると、助手席のドアが開けられ、郁哉を跨ぎベルトのロックを外される。

「車……乗ったことないの?」

 馬鹿にしたような物言いにムッと顔を歪めると、駐車場にくぐもった声が反響した。

「あるに決まってるだろ! てか、ここどこ!?」
「俺の住んでるマンション。昨日言ったでしょ。聞いていなかった? ほら、降りて」

 家で合宿……とは言われたが、詳しい話は特に聞いていない。
 説明もなにもなく、不安にならない人間がいるなら見てみたいものだ。

「……変なこと……」
「なに?」
「だから、変なことしないなら……降りる」

 身を起こした尾鷹は郁哉の目前で顔を止めると、真面目な面差しを向けてくる。

「……治療。変なことはしない。それでいい?」

 約束すると真剣な面持ちの尾鷹にドキッとすると、視線を逸しコクリと頷く。
 車を降りるとひんやりとするコンクリートの空間に、ブルッと震え身体を抱き締める。
 本当に付いていくのか? ……と、まるで本能が危険を察知しているようだった。
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