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第1章 焦げた砂糖は食べられない−100%
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辛うじて男の腕に乗るジェラートの固まりが、体温で溶け出しボトボトと地面に落ちていく。コーンの部分は見るも無残に粉々になり、男のシャツと腕の間にバラバラと散っていた。
郁哉は咄嗟に男が腕を振り払わないように、グッと手首を掴み男の胸に押し付けた。ベトベトの掌が男の腕をさらに汚していく。
「ちょっと! 貴方なにしてんのよ!!」
「……あーいいから、お前もう今日は帰れ」
「えーー! そんなぁ~……折角その気になってくれたのにぃ~。もぉー最悪ぅー」
郁哉を避難しながら不満そうでどこか甘えた女の声が聞こえてきたが、郁哉はそれどころではない。刻一刻と大切なものの命が削られているのだ。
地団駄を踏むヒールの音が数度聞こえると、カツカツと怒ったような音を立たせ遠ざかっていく。
(このままじゃ駄目だ!)
男の腕に郁哉は顔を寄せペロリと舐め取っていく。
カカオマスのほろ苦さと砂糖の絶妙なバランス。オレンジの渋みと酸味。チョコレートとオレンジが溶け合い、それぞれの素材が調和されていく。
(うぅ……凄い美味い……並ぶだけの価値があるな。コーンはきっとサクサクで香ばしかったんだろうなぁ……)
夢中でペロペロと冷えた氷菓を口腔へと運んでいく。
そんな郁哉の行動を男が黙って見ている訳がない。
「おい、お前……いい加減に──!!」
腕にむしゃぶりつく郁哉の頭をグイッと上げると、驚いた様子で郁哉の相貌を凝視してくる。
郁哉も驚いていた。
見上げた男──尾鷹那津の顔立ちが、あまりにも整っていたからだ。
尾鷹はスッと目を細めると、先ほどまで郁哉がペロペロと舐めていた自身の腕を持ち上げた。肘の下辺りまで回った氷菓が幾筋も糸模様を描き垂れている。
その細い線を辿るようにチロチロと赤い舌が卑猥に蠢いている。形のいい唇を舐めとると、舌と液体が男の口腔へと消えていった。
「美味いな」
惚ける郁哉は尾鷹の声音にハッとすると、みるみるうちに顔を真っ赤に染めた。
「──あの、ご、ごめんなさい! そういうつもりじゃなくて!」
「ああ……けどベトベトだ」
恥ずかしさに赤くした顔が、今度は真っ青に色冷めていく。
尾鷹の服はシャツだけに留まらず、黒い細身のパンツにも茶色い氷菓が跳ね潰れたコーンのカスが散らばっていた。
ハンカチで拭ってどうにかなるものでもなく、見ず知らずの人の腕を断りもなく舐めるなど、変態に思われてもおかしくはない。
泣きそうな声を上げながら、郁哉は何度もペコペコと頭を下げた。
「あっ、あの俺、なんてことを……クリーニング代お支払いします。その、ごめんなさい……」
「別に……それより、そっちも酷いけど」
「うわぁ~本当だ……これじゃ電車にも乗れないですよね? 時間ありますか?」
「連れは帰したし問題ないけど?」
「なら、そこ入りましょ。俺払うんで!」
そう言うと郁哉は尾鷹の腕を掴みホテルへと駆け込んだ。ホテルはホテルだがラブホテル。郁哉にとっては人生で初めて訪れた未知の領域だった。
郁哉は咄嗟に男が腕を振り払わないように、グッと手首を掴み男の胸に押し付けた。ベトベトの掌が男の腕をさらに汚していく。
「ちょっと! 貴方なにしてんのよ!!」
「……あーいいから、お前もう今日は帰れ」
「えーー! そんなぁ~……折角その気になってくれたのにぃ~。もぉー最悪ぅー」
郁哉を避難しながら不満そうでどこか甘えた女の声が聞こえてきたが、郁哉はそれどころではない。刻一刻と大切なものの命が削られているのだ。
地団駄を踏むヒールの音が数度聞こえると、カツカツと怒ったような音を立たせ遠ざかっていく。
(このままじゃ駄目だ!)
男の腕に郁哉は顔を寄せペロリと舐め取っていく。
カカオマスのほろ苦さと砂糖の絶妙なバランス。オレンジの渋みと酸味。チョコレートとオレンジが溶け合い、それぞれの素材が調和されていく。
(うぅ……凄い美味い……並ぶだけの価値があるな。コーンはきっとサクサクで香ばしかったんだろうなぁ……)
夢中でペロペロと冷えた氷菓を口腔へと運んでいく。
そんな郁哉の行動を男が黙って見ている訳がない。
「おい、お前……いい加減に──!!」
腕にむしゃぶりつく郁哉の頭をグイッと上げると、驚いた様子で郁哉の相貌を凝視してくる。
郁哉も驚いていた。
見上げた男──尾鷹那津の顔立ちが、あまりにも整っていたからだ。
尾鷹はスッと目を細めると、先ほどまで郁哉がペロペロと舐めていた自身の腕を持ち上げた。肘の下辺りまで回った氷菓が幾筋も糸模様を描き垂れている。
その細い線を辿るようにチロチロと赤い舌が卑猥に蠢いている。形のいい唇を舐めとると、舌と液体が男の口腔へと消えていった。
「美味いな」
惚ける郁哉は尾鷹の声音にハッとすると、みるみるうちに顔を真っ赤に染めた。
「──あの、ご、ごめんなさい! そういうつもりじゃなくて!」
「ああ……けどベトベトだ」
恥ずかしさに赤くした顔が、今度は真っ青に色冷めていく。
尾鷹の服はシャツだけに留まらず、黒い細身のパンツにも茶色い氷菓が跳ね潰れたコーンのカスが散らばっていた。
ハンカチで拭ってどうにかなるものでもなく、見ず知らずの人の腕を断りもなく舐めるなど、変態に思われてもおかしくはない。
泣きそうな声を上げながら、郁哉は何度もペコペコと頭を下げた。
「あっ、あの俺、なんてことを……クリーニング代お支払いします。その、ごめんなさい……」
「別に……それより、そっちも酷いけど」
「うわぁ~本当だ……これじゃ電車にも乗れないですよね? 時間ありますか?」
「連れは帰したし問題ないけど?」
「なら、そこ入りましょ。俺払うんで!」
そう言うと郁哉は尾鷹の腕を掴みホテルへと駆け込んだ。ホテルはホテルだがラブホテル。郁哉にとっては人生で初めて訪れた未知の領域だった。
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