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第1章 焦げた砂糖は食べられない−100%
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都内某所の居酒屋は大部屋を貸し切りカオス状態だ。ざっと見たところ、五十人以上いるのではないだろうか。休み明けとあって普段見かけない顔ぶれもある。
糖質制限中の郁哉にとって、目の前に並ぶ料理の品々は誘惑という名の毒薬にしか見えない。
(だから参加したくなかったんだ。糖質オフ的な酒って……)
通常であれば甘いアルコールを好んで飲む郁哉だが、仕方なしにお茶ベースの焼酎をチョイスする。おつまみにしても枝豆や豆腐などまるで爺臭い品揃えだ。
「お前それ……どうしちゃったの。ダイエットとか必要ないだろ」
隣から呆れた様子で砂川が枝豆をひょいっと摘み、不思議そうに郁哉に視線を投げる。
「うっ……ダイエットじゃないけどさ。ちょっと休み中暴食だったから糖質制限してんの」
「あー分かった! あれだろ! スイーツ男子気取って毎日三食ケーキ三昧みたいな!」
「いくら郁哉が甘いもの好きでも毎日三食はねぇだろ~。そこまでいったら病気だぞ」
竹田と砂川は郁哉の行動をまるで見ていたかのように、冗談交じりに話を積んでいく。
悟りを開いた双眸で遠くを見つめる無言の郁哉に肯定と受け取った二人は、ギョッとした顔で引きつり笑いを浮かべている。
「…………マジかよ」
「あーーまぁ、なんだ……ほら、人参スティックでも食え。うちのばぁちゃんも糖尿でさ、どうしても甘いもん食いたいとき食ってたから」
竹田が苦笑い気味に人参スティックを郁哉の口元に差し出してくる。
躊躇いながらパクリとひと口噛りゆっくり咀嚼すると、郁哉は瞳に涙を溜めぷるぷると震えだした。
「……うぅ……美味い……」
「おっ、おお! そりゃ良かった! でも、あんま食い過ぎるなよ? 胡瓜と大根スティックも食え」
「しかし甘いもん食ってない郁哉とか想像できねぇよな~。なんだって毎日三食も」
「……ん。やけ食い」
(人参ってこんなに甘かったんだな~。幸せだ~)
カリカリ、ポリポリとうさぎのように貪る郁哉は、会話そっちのけで人参スティックに夢中だ。
そのせいで気付いていなかった。
背後から郁哉を見下ろしている男の存在を──。
左側に座る砂川に肩を組まれ、励ますようにポンポンと右肩を叩かれる。
右側に座る竹田はうしろ側に背を反らせて「あっ、やっと来た。遅かったじゃん」と誰かに声を掛けていた。
「ああ、悪い遅れた」
一瞬ビクッと郁哉は身体を反射的に跳ねさせ、右肩に置かれた手を放心状態で見つめた。肩に掛かる体温の高い大きな手は、砂川のものとばかり思っていた。
その砂川は笑顔で一つ間を空けた場所から、前のめりで右手にビールジョッキを掲げ「なに飲む?」と伺っている。
(……この手は誰の手だ?)
右肩に置かれた手から視線を上げようとすると、グイッと引き寄せられ耳元に吐息交じりの低音が響いた。
「うさぎちゃん見ーつけた」
雑談で賑わう室内で、郁哉にしか聞き取れない小さな呟き。
たったひと言だけでも郁哉の心臓を鷲掴みにし、突き刺すには十分な囁き声だった。
糖質制限中の郁哉にとって、目の前に並ぶ料理の品々は誘惑という名の毒薬にしか見えない。
(だから参加したくなかったんだ。糖質オフ的な酒って……)
通常であれば甘いアルコールを好んで飲む郁哉だが、仕方なしにお茶ベースの焼酎をチョイスする。おつまみにしても枝豆や豆腐などまるで爺臭い品揃えだ。
「お前それ……どうしちゃったの。ダイエットとか必要ないだろ」
隣から呆れた様子で砂川が枝豆をひょいっと摘み、不思議そうに郁哉に視線を投げる。
「うっ……ダイエットじゃないけどさ。ちょっと休み中暴食だったから糖質制限してんの」
「あー分かった! あれだろ! スイーツ男子気取って毎日三食ケーキ三昧みたいな!」
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竹田と砂川は郁哉の行動をまるで見ていたかのように、冗談交じりに話を積んでいく。
悟りを開いた双眸で遠くを見つめる無言の郁哉に肯定と受け取った二人は、ギョッとした顔で引きつり笑いを浮かべている。
「…………マジかよ」
「あーーまぁ、なんだ……ほら、人参スティックでも食え。うちのばぁちゃんも糖尿でさ、どうしても甘いもん食いたいとき食ってたから」
竹田が苦笑い気味に人参スティックを郁哉の口元に差し出してくる。
躊躇いながらパクリとひと口噛りゆっくり咀嚼すると、郁哉は瞳に涙を溜めぷるぷると震えだした。
「……うぅ……美味い……」
「おっ、おお! そりゃ良かった! でも、あんま食い過ぎるなよ? 胡瓜と大根スティックも食え」
「しかし甘いもん食ってない郁哉とか想像できねぇよな~。なんだって毎日三食も」
「……ん。やけ食い」
(人参ってこんなに甘かったんだな~。幸せだ~)
カリカリ、ポリポリとうさぎのように貪る郁哉は、会話そっちのけで人参スティックに夢中だ。
そのせいで気付いていなかった。
背後から郁哉を見下ろしている男の存在を──。
左側に座る砂川に肩を組まれ、励ますようにポンポンと右肩を叩かれる。
右側に座る竹田はうしろ側に背を反らせて「あっ、やっと来た。遅かったじゃん」と誰かに声を掛けていた。
「ああ、悪い遅れた」
一瞬ビクッと郁哉は身体を反射的に跳ねさせ、右肩に置かれた手を放心状態で見つめた。肩に掛かる体温の高い大きな手は、砂川のものとばかり思っていた。
その砂川は笑顔で一つ間を空けた場所から、前のめりで右手にビールジョッキを掲げ「なに飲む?」と伺っている。
(……この手は誰の手だ?)
右肩に置かれた手から視線を上げようとすると、グイッと引き寄せられ耳元に吐息交じりの低音が響いた。
「うさぎちゃん見ーつけた」
雑談で賑わう室内で、郁哉にしか聞き取れない小さな呟き。
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