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第1章 焦げた砂糖は食べられない−100%

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 昼夜問わず歩けば肩が触れ合うほどに人が溢れ、皆足早に石畳にヒールを鳴らし行き交っている。
 朝は通勤通学でラッシュアワーを迎え、日中は営業に汗を流すサラリーマンやランチに向かうOLで溢れ、ショッピングに繰り出すマダムや観光客で賑わいを見せている。
 夜は庶民的な居酒屋や高級クラブなどが開き、昼とは違った顔を覗かせ様々な姿に装いを変える。

 眠ることを忘れてしまったように人の波が途切れることのない大都会、東京──。

 真っ直ぐに伸びる道路に面し、両サイドに所狭しと佇むビル群。上空を見上げれば、高い建物の隙間から青空がわずかに目に映る。
 なにかを堪え今にも泣きそうな面持ちで瞼をゆっくりと閉じると、上空から間口の広いショーウインドーの硝子へと視線を向ける。
 凩郁哉こがらしいくやの姿が、鏡のように磨かれたショーウインドーに淡い色を乗せ映し出されていた。

 癖のない黒髪が風に煽られ、ひと房にょきっと妖気を察知したように頭の天辺でゆらゆらと立ち上がっていた。
 惚けたように淡桃色の弾力のある唇を開け、頬を染めながらキラキラ輝く瞳を目一杯拡げるも、到底カワイイ小さな男の子には見えない。
 大学二年の二十歳。身長は百六十九センチと平均よりも少々小柄で細身だが、女性ばかりの店の前ではどうにも目立っている。

「……あっ、あのぉ~」

 控え目に横から掛かる声に、夢から覚めたようにビクッと肩を跳ねさせると、掠れた声で「……はっ、はい」と辛うじて答えた。

「並ばれています? トルテさんの最後尾……ですよね?」

 二人組の若いマダムが、爪先から頭の天辺まで視線を寄越すと、犬の尻尾のように揺れ喜んでいる郁哉の髪を眺めながらクスクス笑い確認してくる。
 アホ毛を立たせ、だらしない顔で店の中を覗いていたことに羞恥心を覚えると白い肌が一気に赤く色付いていく。
 瞳にジワジワと水分が溜まり、水気を振り払うように首を左右に動かした。

「すみません……先にどうぞ」
「でも、並ばれていたのでは?」
「あっ……いえ、そういう訳では……」

 二人のマダムは互いに顔を見合わせると、怪訝そうな顔で郁哉を追い越し列の最後尾に並んだ。


 ザ・トルテは都内で人気の焼き菓子店だ。
 フルーツやクリームをふんだんに使い、ツヤツヤとしたデコレーションケーキが有名である。
 出店してから間もないにも関わらず連日行列が絶えない。雑誌やテレビでもよく取り上げられているのも行列の原因だが、口コミだけでも評価は高い。
 一度は食べてみたい人気店からは、甘い匂いが店の外まで溢れており、郁哉は口の中に溜まっていく唾液をゴクリと飲み込んだ。
 店の中に設置されたショーケースには、遠くから眺めていても一品一品が美術品のように美しい洋菓子が並んでいる。
 もう少し外からだけでも有名店の雰囲気を堪能したかったが、居たたまれずひと息つくとショーウインドーから離れた。

「……はぁ、匂いだけでも堪んないや……」

 郁哉はチラリとうしろを振り返り、恋人との逢瀬を惜しむかのように、未練がましくその場を立ち去った。
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