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山小屋の前に降り立ったリリアはどっと疲れを感じる。
懐かしさと安心感が気を緩めたからだ。
「一日も経ってないのに、色んな事が起こりすぎたわね」
花弁のドレスは幾分減り、残っていたものもはらはらと全てが落ちる。
今のリリアは下着姿だが、精霊達にとっては何が服で何が下着かはあまり区別がついていないらしいので考えないことにした。
替えの衣服はこれまたボロボロだったがないよりましだ。
使い古した雑巾のような服を二枚、洗い繕いなんとかやってきた。
(畑の作物が育てばいずれ新しいものをと思っていたけれど、近いうちになんとかなりそうね)
正直なところありがたい話だった。
(エレス達に食べてもらう為の食材が尽きかけていたのが一番心配だったけれど、分けてもらえるなら嬉しいわ)
「疲れただろうリリア」
エレスがリリアの頬に手を添えると清潔な気配が身体を伝う。
自分の腕や足を確認すると泥は落ち、水浴びした後みたいに綺麗になっていた。
精霊王をお風呂代わりに使っているなんて、この国の誰が想像しているだろうか。
「ありがとうエレス。すっきりしたし、気分もかなり良くなったわ」
彼女が素直な気持ちを伝えると精霊王はとびきり嬉しそうに微笑む。
村からの贈り物は次の日には届けられた。
村長とブライアン、そして村のまとめ役たちが顔をそろえて恭しく荷台を弾いてきたのだ。
リリアが小屋に持ってきたような小さく見すぼらしいものではなく、祭事用に飾り立てられた立派な車である。
村長たちはまず小屋のボロさを見て口を開け、そして気まずそうにしていた。
見かねてブライアンがここの過ごしやすさを軽く説明する。
「用が無いなら疾く戻れ、と王が言ってるよ」
何もない空間から熱を伴って火の大精霊フォティアが現れた。
精霊王はこの程度で、村人達に口を開くつもりもないのだという事を言外に伝える。
「勿論礼はするさ。とっておきのね。風の大精霊アエラスの送迎だ」
「はーい」
「えっ」
リリアはここで嫌な予感がした。
しかし止める間もなく風が立ち上る。
「えっとー、村はすぐ近くで怪我させないようにだからー、えい!」
あっという間にブライアン以外の村人たちは浮き上がり、村の方に飛ばされていった。
「ちょ、ちょっと! せっかく色々持ってきてもらったのに」
「だいじょうぶだよー! 慣れたらけっこー気持ちいいし! 絶対怪我はしてないから!」
村長は確か御年六十である。リリアには慣れる以前の問題な気がしていた。
「私たちの居場所を哀れんだからねえ。何様だって話なんだよ。反省はしてもらわないと」
「だからブライアンを残したのね」
確かに彼らの態度は大精霊達に対して不敬であった。
ブライアンとの差異を作り自分で気づきやすくしたのも慈悲だろう。
次同じ事をしたらその時はどうなるのか、と。
「全然気づかなかったわ。だめね」
リリアはそんな態度には慣れっこであった。むしろ今までよりよほどましなので注意できなかったのだ。
「いや、精霊に対してじゃなくてリリアに失礼だからだろ」
「そうなの?」
「精霊様方が感情的になるなんて、リリア絡みでしかないと思う」
リリアは未だによく分かっていないようだ。
村への説明、リリアの説得。残った問題はまだまだ山積みで先が思いやられる、とブライアンは肩を落とす。
「そういえばキャロルは見つかったのかしら」
「……いや。両親は村にいるのがキャロルはまだ見つかっていない。あの花精霊祭のどさくさに紛れてどこかへ行ったらしい。酒場の金もいくらか持って行ったようだから」
「昨日の今日とはいえ遠くに行っている可能性もあるのね」
キャロルの行方は純粋に心配だった。
リリアに罰しようという気持ちはなかったが、その情けを賭けられる事もキャロルには我慢ならないのかもしれない。
正体を隠していた時は一時でも優しさに触れ、もしかしたら仲良くなれるのかもしれないと思っただけに行方不明である現状はリリアには気が重かった。
懐かしさと安心感が気を緩めたからだ。
「一日も経ってないのに、色んな事が起こりすぎたわね」
花弁のドレスは幾分減り、残っていたものもはらはらと全てが落ちる。
今のリリアは下着姿だが、精霊達にとっては何が服で何が下着かはあまり区別がついていないらしいので考えないことにした。
替えの衣服はこれまたボロボロだったがないよりましだ。
使い古した雑巾のような服を二枚、洗い繕いなんとかやってきた。
(畑の作物が育てばいずれ新しいものをと思っていたけれど、近いうちになんとかなりそうね)
正直なところありがたい話だった。
(エレス達に食べてもらう為の食材が尽きかけていたのが一番心配だったけれど、分けてもらえるなら嬉しいわ)
「疲れただろうリリア」
エレスがリリアの頬に手を添えると清潔な気配が身体を伝う。
自分の腕や足を確認すると泥は落ち、水浴びした後みたいに綺麗になっていた。
精霊王をお風呂代わりに使っているなんて、この国の誰が想像しているだろうか。
「ありがとうエレス。すっきりしたし、気分もかなり良くなったわ」
彼女が素直な気持ちを伝えると精霊王はとびきり嬉しそうに微笑む。
村からの贈り物は次の日には届けられた。
村長とブライアン、そして村のまとめ役たちが顔をそろえて恭しく荷台を弾いてきたのだ。
リリアが小屋に持ってきたような小さく見すぼらしいものではなく、祭事用に飾り立てられた立派な車である。
村長たちはまず小屋のボロさを見て口を開け、そして気まずそうにしていた。
見かねてブライアンがここの過ごしやすさを軽く説明する。
「用が無いなら疾く戻れ、と王が言ってるよ」
何もない空間から熱を伴って火の大精霊フォティアが現れた。
精霊王はこの程度で、村人達に口を開くつもりもないのだという事を言外に伝える。
「勿論礼はするさ。とっておきのね。風の大精霊アエラスの送迎だ」
「はーい」
「えっ」
リリアはここで嫌な予感がした。
しかし止める間もなく風が立ち上る。
「えっとー、村はすぐ近くで怪我させないようにだからー、えい!」
あっという間にブライアン以外の村人たちは浮き上がり、村の方に飛ばされていった。
「ちょ、ちょっと! せっかく色々持ってきてもらったのに」
「だいじょうぶだよー! 慣れたらけっこー気持ちいいし! 絶対怪我はしてないから!」
村長は確か御年六十である。リリアには慣れる以前の問題な気がしていた。
「私たちの居場所を哀れんだからねえ。何様だって話なんだよ。反省はしてもらわないと」
「だからブライアンを残したのね」
確かに彼らの態度は大精霊達に対して不敬であった。
ブライアンとの差異を作り自分で気づきやすくしたのも慈悲だろう。
次同じ事をしたらその時はどうなるのか、と。
「全然気づかなかったわ。だめね」
リリアはそんな態度には慣れっこであった。むしろ今までよりよほどましなので注意できなかったのだ。
「いや、精霊に対してじゃなくてリリアに失礼だからだろ」
「そうなの?」
「精霊様方が感情的になるなんて、リリア絡みでしかないと思う」
リリアは未だによく分かっていないようだ。
村への説明、リリアの説得。残った問題はまだまだ山積みで先が思いやられる、とブライアンは肩を落とす。
「そういえばキャロルは見つかったのかしら」
「……いや。両親は村にいるのがキャロルはまだ見つかっていない。あの花精霊祭のどさくさに紛れてどこかへ行ったらしい。酒場の金もいくらか持って行ったようだから」
「昨日の今日とはいえ遠くに行っている可能性もあるのね」
キャロルの行方は純粋に心配だった。
リリアに罰しようという気持ちはなかったが、その情けを賭けられる事もキャロルには我慢ならないのかもしれない。
正体を隠していた時は一時でも優しさに触れ、もしかしたら仲良くなれるのかもしれないと思っただけに行方不明である現状はリリアには気が重かった。
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