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壇上の精霊王と花乙女は寄り添ったまま村人たちへ視線を向ける。
「リリアはお前たちを許すそうだ」
張り上げているわけでもないのに精霊王の声は響いて聞こえた。
冬の川の水のような鋭い冷たさを含む声音に、村人たちは視線を落とす。
リリアが何を許すのか、誰もが思い当たる事があるからだ。
同時にあんな目に合わせたのに許すリリアの優しさに気付いた。
石を投げられ悪意をぶつけられ、精霊王という味方の力を使わず許す事はどんなに難しい事だろうか。
「あっ、気にしないで、とまでは言わないわよ! しっかり反省して、私みたいな思いをする人をもう作らないでほしいの!」
全員に届くようにリリアが声を上げる。
その声に頷いたり誓いを述べたりする村人をの目見て、リリアはもう大丈夫と確信した。
「ああそれとリリアの生活に必要なものを届けておくように。この通り服もないからな」
精霊王は村人などどうでも良さそうで、ただリリアの過ごしやすさにだけ興味があるようだ。
誰のせいでこうなったか分かっているな、と言外に匂わせる。
「そんなの悪いわよ。皆だって生活があるんだから無理させちゃだめ」
「しかし精霊には用意できないものだ。今までの詫びとして受け取れば良い」
「お詫びの強要なんかしても仕方ないでしょ」
山小屋でしていたような打ち解けた会話は全部村人たちに聞こえていた。
精霊王、もしかして花乙女の尻にしかれていないか?と思わないでもない村人たちである。
まさか精霊王がリリアの為に小屋の掃除をしていたなんて事も知らないのであった。
「あの畏れながら」
見かねて目を真っ赤に腫らしたブライアンが前に進み出て跪く。
今初めて精霊王を前にして固まっている村人には荷が重すぎるが、ブライアンはなぜか精霊達とテーブルを囲んだりもしているのだ。
ブライアンだって出来ればやりたくない。真面目に馬に蹴られて死んでしまうかもしれない。
「なんだ」
精霊王はブライアンの事を少しだけ覚えていた。
むかついたからに他ならないが、リリアが話を聞きたそうなので発言を許す。
「精霊王と花乙女に直接奉納するのはこの上ない栄誉です。なので花乙女様が気になさる事はなく、むしろその誉れを認めて頂けるのであればそれ以上の事はありません」
実際王侯貴族や教会でも上の方の役職が栄光の象徴として務める事だ。
普通の人々は精霊自体への感謝を込めて祈り、霊饌を供える。
「それに。……我々は花乙女ではなくリリアに、どうか受け取って頂きたい。彼女にしてきた事に対する謝罪というにはあまりにも軽いものではございますが、誠心誠意込めて彼女のこれからを助力いたす所存です」
村人たちは無加護に謝る前に許されてしまったのだ。
せめて気持ちとして受け取ってほしいというのはブライアンをはじめとする村人達の総意である。
「……扱いが変わりすぎてなんだかむずむずするわね。今まで通りっていうのも困るけれど」
毎日花を着るわけにもいかないので申し出はありがたいのだ。
さっきまで死にかけていて、花乙女だと分かった途端にこの扱いだ。
精霊への信仰が厚いからこそではあるが複雑な想いがない事はない。
よく見ると村で一番偉い長も、マチルダおばさんも皆恭しく頭を下げているのだ。
自分が変わったわけではないので、リリアはどうしたらいいのか分からなくなる。
「この村の者から受け取るのが嫌なら他の場所へ行くか」
「ふふ、そういうわけじゃないのよ」
エレスの提案は魅力的だったがややせっかちだ。
(これまでのんびり寝ていた反動かしら)
そう考えるが、エレスの気の短さはリリアに関わる事限定である事を知らない。
「ブライアン、ありがとう。じゃあ暇な時に小屋に何か持ってきてくれると嬉しいわ」
「ありがとうございます、花乙女リリア」
「リリアはお前たちを許すそうだ」
張り上げているわけでもないのに精霊王の声は響いて聞こえた。
冬の川の水のような鋭い冷たさを含む声音に、村人たちは視線を落とす。
リリアが何を許すのか、誰もが思い当たる事があるからだ。
同時にあんな目に合わせたのに許すリリアの優しさに気付いた。
石を投げられ悪意をぶつけられ、精霊王という味方の力を使わず許す事はどんなに難しい事だろうか。
「あっ、気にしないで、とまでは言わないわよ! しっかり反省して、私みたいな思いをする人をもう作らないでほしいの!」
全員に届くようにリリアが声を上げる。
その声に頷いたり誓いを述べたりする村人をの目見て、リリアはもう大丈夫と確信した。
「ああそれとリリアの生活に必要なものを届けておくように。この通り服もないからな」
精霊王は村人などどうでも良さそうで、ただリリアの過ごしやすさにだけ興味があるようだ。
誰のせいでこうなったか分かっているな、と言外に匂わせる。
「そんなの悪いわよ。皆だって生活があるんだから無理させちゃだめ」
「しかし精霊には用意できないものだ。今までの詫びとして受け取れば良い」
「お詫びの強要なんかしても仕方ないでしょ」
山小屋でしていたような打ち解けた会話は全部村人たちに聞こえていた。
精霊王、もしかして花乙女の尻にしかれていないか?と思わないでもない村人たちである。
まさか精霊王がリリアの為に小屋の掃除をしていたなんて事も知らないのであった。
「あの畏れながら」
見かねて目を真っ赤に腫らしたブライアンが前に進み出て跪く。
今初めて精霊王を前にして固まっている村人には荷が重すぎるが、ブライアンはなぜか精霊達とテーブルを囲んだりもしているのだ。
ブライアンだって出来ればやりたくない。真面目に馬に蹴られて死んでしまうかもしれない。
「なんだ」
精霊王はブライアンの事を少しだけ覚えていた。
むかついたからに他ならないが、リリアが話を聞きたそうなので発言を許す。
「精霊王と花乙女に直接奉納するのはこの上ない栄誉です。なので花乙女様が気になさる事はなく、むしろその誉れを認めて頂けるのであればそれ以上の事はありません」
実際王侯貴族や教会でも上の方の役職が栄光の象徴として務める事だ。
普通の人々は精霊自体への感謝を込めて祈り、霊饌を供える。
「それに。……我々は花乙女ではなくリリアに、どうか受け取って頂きたい。彼女にしてきた事に対する謝罪というにはあまりにも軽いものではございますが、誠心誠意込めて彼女のこれからを助力いたす所存です」
村人たちは無加護に謝る前に許されてしまったのだ。
せめて気持ちとして受け取ってほしいというのはブライアンをはじめとする村人達の総意である。
「……扱いが変わりすぎてなんだかむずむずするわね。今まで通りっていうのも困るけれど」
毎日花を着るわけにもいかないので申し出はありがたいのだ。
さっきまで死にかけていて、花乙女だと分かった途端にこの扱いだ。
精霊への信仰が厚いからこそではあるが複雑な想いがない事はない。
よく見ると村で一番偉い長も、マチルダおばさんも皆恭しく頭を下げているのだ。
自分が変わったわけではないので、リリアはどうしたらいいのか分からなくなる。
「この村の者から受け取るのが嫌なら他の場所へ行くか」
「ふふ、そういうわけじゃないのよ」
エレスの提案は魅力的だったがややせっかちだ。
(これまでのんびり寝ていた反動かしら)
そう考えるが、エレスの気の短さはリリアに関わる事限定である事を知らない。
「ブライアン、ありがとう。じゃあ暇な時に小屋に何か持ってきてくれると嬉しいわ」
「ありがとうございます、花乙女リリア」
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