60 / 77
59
しおりを挟む
一方のキャロルはリリアと別れた後、大声でがむしゃらに村中に伝えまくっていた。
「無加護がいるわ! あいつは村に災いをもたらす悪魔の生まれ変わりよ!」
(もうどうだっていい! あの無加護が消えるならなんだっていい! 私がブライアンの乙女じゃないなら花精霊祭もなにもかも全部めちゃくちゃにしてやる!)
リリアは花冠を受け取らなかったと言った。
つまり差し出されたのだ。ブライアンから、花乙女の証を!
花精霊祭ではフィナーレに精霊王役が乙女を選んで花冠を授ける。
選ばれた乙女がそれを受け取り二人が誓いの口づけをすれば花乙女となり、その年の精霊王と花乙女が決まる。
そうして二人で精霊への感謝や豊穣を祈り、祭は終わるのだ。
いつからかは分からないが精霊王役は壇上から乙女を選び、二人でステージの上でキスをするのが通例となっている。
白い花々と皆に祝福されキスをする精霊王と花乙女は幼い頃からキャロルの憧れだった。
今年はずっと大好きだったブライアンが精霊王だ。
ブライアンはモテるが、実はキャロル以外に親しい女の子もいない。
たまにうっとおしがられる事もあったが、リリアのように石を投げられたりはしなかった。
ピンク色のドレスを作っているのは知っていたし、それがキャロルのものでないと分かってもきっと仕事用のものなのだと、まだ余裕を感じていたのだ。
(ブライアンはステージの上から私を見つけてくれる。最前列にいなくても、私を花乙女に選んでくれるはずだったのに)
むしろステージから遠くにいた方が皆の前を通る時に見せつけられると思っていたくらいだ。
「花冠……そうよ。リリアが受け取らなかったならブライアンがまだ持ってるはず」
一度差し出した花冠が拒否されれば、他の女の子が選ばれるらしい。
実際にそんな事があったというのは聞いたことがないが、花精霊祭では精霊王と花乙女が揃って祝福する事が大切なのだ。
だが自尊心の強いブライアンの性格的に、今年の花精霊祭で拒否された花冠を使うだろうか。
(小さい女の子や年寄りに渡して誤魔化す気がする)
年頃男の子が気恥ずかしがって同世代の女の子に花冠を渡さずお茶を濁す事はままあった。
ブライアンはそういうタイプではない。
しかしリリアに断られた事を自分の中で納得させるために、そして万が一にもまた断られないように安全な方法を取るだろうとキャロルは考えた。
何より、ずっと見下してきたリリアがいらないと言ったものを受け取るのはキャロルのプライドが許さなかった。
ここ数日でブライアンの心境に変化があった事など、キャロルには知る由もない。
外が騒がしくなっても、精霊王の役を持つブライアンは舞台裏で待つことしかできない。
その代わり周囲にいる花精霊祭の実行組合員が様子を見に出払っているはずだ。
「チャンスだわ」
リリアはまだ見つかっていないのだろう。
普段から人目を避けて移動していたからなのか隠れるのがやたらと上手く、村中を攪乱しているようだ。
キャロルやブライアンならリリアの居そうな場所は大体分かるのだが、普段から遠巻きにしていた村の大人達には分からないらしい。
「今のうちに私が花冠を『奪う』のよ」
お情けで花冠を貰うのではない。
自分が花乙女だと主張するわけでもない。
ただ、花冠がなくなった事を無加護のせいにすれば、ブライアンとリリアへの意趣返しくらいにはなるだろう。
そして後でてきとうに村長の所にでも持っていけば村の宝物を見つけた功労者として大人たちから感謝される。
今のキャロルは自分の事を馬鹿にした報いを受けさせなければ気が済まなかった。
舞台裏は案の定人気が無く静かだった。
精霊王役と言ってもやる事は花精霊祭のクライマックスに衣装を着替えて花乙女を選ぶだけだ。
ブライアンがいつも使っている鞄は、色んな人の鞄と一緒にその辺にまとめて置いてあった。
軽く探るだけで金属でできた繊細な花の冠を手に取る事が出来る。
「ふん。私をコケにした事、後悔してもらうんだからね」
キャロルはそのまま花冠を自分の鞄に隠し、舞台裏を後にした。
「無加護がいるわ! あいつは村に災いをもたらす悪魔の生まれ変わりよ!」
(もうどうだっていい! あの無加護が消えるならなんだっていい! 私がブライアンの乙女じゃないなら花精霊祭もなにもかも全部めちゃくちゃにしてやる!)
リリアは花冠を受け取らなかったと言った。
つまり差し出されたのだ。ブライアンから、花乙女の証を!
花精霊祭ではフィナーレに精霊王役が乙女を選んで花冠を授ける。
選ばれた乙女がそれを受け取り二人が誓いの口づけをすれば花乙女となり、その年の精霊王と花乙女が決まる。
そうして二人で精霊への感謝や豊穣を祈り、祭は終わるのだ。
いつからかは分からないが精霊王役は壇上から乙女を選び、二人でステージの上でキスをするのが通例となっている。
白い花々と皆に祝福されキスをする精霊王と花乙女は幼い頃からキャロルの憧れだった。
今年はずっと大好きだったブライアンが精霊王だ。
ブライアンはモテるが、実はキャロル以外に親しい女の子もいない。
たまにうっとおしがられる事もあったが、リリアのように石を投げられたりはしなかった。
ピンク色のドレスを作っているのは知っていたし、それがキャロルのものでないと分かってもきっと仕事用のものなのだと、まだ余裕を感じていたのだ。
(ブライアンはステージの上から私を見つけてくれる。最前列にいなくても、私を花乙女に選んでくれるはずだったのに)
むしろステージから遠くにいた方が皆の前を通る時に見せつけられると思っていたくらいだ。
「花冠……そうよ。リリアが受け取らなかったならブライアンがまだ持ってるはず」
一度差し出した花冠が拒否されれば、他の女の子が選ばれるらしい。
実際にそんな事があったというのは聞いたことがないが、花精霊祭では精霊王と花乙女が揃って祝福する事が大切なのだ。
だが自尊心の強いブライアンの性格的に、今年の花精霊祭で拒否された花冠を使うだろうか。
(小さい女の子や年寄りに渡して誤魔化す気がする)
年頃男の子が気恥ずかしがって同世代の女の子に花冠を渡さずお茶を濁す事はままあった。
ブライアンはそういうタイプではない。
しかしリリアに断られた事を自分の中で納得させるために、そして万が一にもまた断られないように安全な方法を取るだろうとキャロルは考えた。
何より、ずっと見下してきたリリアがいらないと言ったものを受け取るのはキャロルのプライドが許さなかった。
ここ数日でブライアンの心境に変化があった事など、キャロルには知る由もない。
外が騒がしくなっても、精霊王の役を持つブライアンは舞台裏で待つことしかできない。
その代わり周囲にいる花精霊祭の実行組合員が様子を見に出払っているはずだ。
「チャンスだわ」
リリアはまだ見つかっていないのだろう。
普段から人目を避けて移動していたからなのか隠れるのがやたらと上手く、村中を攪乱しているようだ。
キャロルやブライアンならリリアの居そうな場所は大体分かるのだが、普段から遠巻きにしていた村の大人達には分からないらしい。
「今のうちに私が花冠を『奪う』のよ」
お情けで花冠を貰うのではない。
自分が花乙女だと主張するわけでもない。
ただ、花冠がなくなった事を無加護のせいにすれば、ブライアンとリリアへの意趣返しくらいにはなるだろう。
そして後でてきとうに村長の所にでも持っていけば村の宝物を見つけた功労者として大人たちから感謝される。
今のキャロルは自分の事を馬鹿にした報いを受けさせなければ気が済まなかった。
舞台裏は案の定人気が無く静かだった。
精霊王役と言ってもやる事は花精霊祭のクライマックスに衣装を着替えて花乙女を選ぶだけだ。
ブライアンがいつも使っている鞄は、色んな人の鞄と一緒にその辺にまとめて置いてあった。
軽く探るだけで金属でできた繊細な花の冠を手に取る事が出来る。
「ふん。私をコケにした事、後悔してもらうんだからね」
キャロルはそのまま花冠を自分の鞄に隠し、舞台裏を後にした。
23
お気に入りに追加
6,015
あなたにおすすめの小説
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。
木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。
時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。
「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」
「ほう?」
これは、ルリアと義理の家族の物語。
※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。
※同じ話を別視点でしている場合があります。
もふもふ大好き家族が聖女召喚に巻き込まれる~時空神様からの気まぐれギフト・スキル『ルーム』で家族と愛犬守ります~
鐘ケ江 しのぶ
ファンタジー
第15回ファンタジー大賞、奨励賞頂きました。
投票していただいた皆さん、ありがとうございます。
励みになりましたので、感想欄は受け付けのままにします。基本的には返信しませんので、ご了承ください。
「あんたいいかげんにせんねっ」
異世界にある大国ディレナスの王子が聖女召喚を行った。呼ばれたのは聖女の称号をもつ華憐と、派手な母親と、華憐の弟と妹。テンプレートのように巻き込まれたのは、聖女華憐に散々迷惑をかけられてきた、水澤一家。
ディレナスの大臣の1人が申し訳ないからと、世話をしてくれるが、絶対にあの華憐が何かやらかすに決まっている。一番の被害者である水澤家長女優衣には、新種のスキルが異世界転移特典のようにあった。『ルーム』だ。
一緒に巻き込まれた両親と弟にもそれぞれスキルがあるが、優衣のスキルだけ異質に思えた。だが、当人はこれでどうにかして、家族と溺愛している愛犬花を守れないかと思う。
まずは、聖女となった華憐から逃げることだ。
聖女召喚に巻き込まれた4人家族+愛犬の、のんびりで、もふもふな生活のつもりが……………
ゆるっと設定、方言がちらほら出ますので、読みにくい解釈しにくい箇所があるかと思いますが、ご了承頂けたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる