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「あっちだ!」
「無加護がいたぞ!こっちから回り込め!」
「まずいわね、一旦どこかに隠れられれば見つからずに村から離れる事は簡単なのだけれど」
しかし今はどんな物陰にも、無加護をみつけようと松明の明かりが差し込まれている。
村は今や一種の恐慌状態のような状況で、リリアは当初考えていたよりずっとまずい状況になった事を今更理解した。
(もし一人で見つかったら殺されるかもしれない……)
ゾク、と背筋に冷たいものが走った。
むろんリリアは殺されるつもりはない。
けれど今まで誰かに頼る事のなかったリリアは、精霊から差し出されている手も上手く把握出来ていなかったのだ。
(出来るなら誤解は自分で解きたかったけれど……難しいかもしれないわね)
どのみちこうなるならエレスに頼んで空に逃げるのも考えておいた方が良いだろう。
土地勘がある事だけが頼りだったが、それは今この村にいる人間の大多数もそうである。
人の声がする方から逃げていると、やがてリリアは開けた場所に出た。
「ここは……」
そこは広場の中心だった。
リリアを追いかけて裏道などを見ている内に、村人たちは広場から離れてしまったのだろう。
広場には普段は存在しない、木でできた立派な高座が組まれていた。
高座には隙間も見えないくらい白い花々がふんだんに飾り付けられいる。
精霊王を敬う気持ちが何も知らないリリアにも伝わってくる。
篝火から少し離れた場所にあるその白い舞台は、月明かりを浴びて眩く輝いていた。
思わず少し見惚れてしまう。
リリアは舞台を見た事がなかったが、その特別感にすぐに花精霊祭のフィナーレで使用する舞台である事が分かった。
中央では篝火が焚かれ、あたりを煌々と照らしていた。
「あっ、ドレスが……」
明るい場所で改めて見たドレスは無残なものだった。
全体的に泥がこびりついて黒ずんでしまっている。
あちこち擦り切れ、どこかにひっかけたのか足や下履きが見えてしまっている場所もある。
レースやフリルは今や見る影もない。
ドレスを着ているというより、大量のぼろ布を被っているといった方が早いくらいだ。
(ブライアンには悪いけれど、これはもう着ていられないわね)
ふんわりとしたドレスは柔らかな絨毯の上を歩く人々の為のもので、元々外で着るように作られていない。
リリアも繊細な服を着た時の動き方など知らなかったし、暗闇の中逃げ回っていたならこうなるのも当然と言えた。
惜しむようにドレスの裾をつまんだリリアは一度溜息をついてドレスのリボンを外していき、やがて脱ぎ去った。
美しいレースやフリルは泥にまみれていたが、腰から上の方はまだ綺麗な所もある。
きちんと染み抜きをして孤児院に渡せばリボンなどをワンポイントとして再利用してくれるだろう。
ほぼ下着のような姿になったが、元々ボロを着ていたのだからその時とあまり変わりはしないとリリアは割り切った。
そもそも村にいた頃からいつも着ていたぼろより、今の下着状態の方がまだ布の量が多い気もする。
恥ずかしいとあまり思わないのはそのせいだろうか。
(そういう問題でもないけどこの際仕方ないわ)
少なくともこれで動きやすくはなった。
「無加護がいたぞ!こっちから回り込め!」
「まずいわね、一旦どこかに隠れられれば見つからずに村から離れる事は簡単なのだけれど」
しかし今はどんな物陰にも、無加護をみつけようと松明の明かりが差し込まれている。
村は今や一種の恐慌状態のような状況で、リリアは当初考えていたよりずっとまずい状況になった事を今更理解した。
(もし一人で見つかったら殺されるかもしれない……)
ゾク、と背筋に冷たいものが走った。
むろんリリアは殺されるつもりはない。
けれど今まで誰かに頼る事のなかったリリアは、精霊から差し出されている手も上手く把握出来ていなかったのだ。
(出来るなら誤解は自分で解きたかったけれど……難しいかもしれないわね)
どのみちこうなるならエレスに頼んで空に逃げるのも考えておいた方が良いだろう。
土地勘がある事だけが頼りだったが、それは今この村にいる人間の大多数もそうである。
人の声がする方から逃げていると、やがてリリアは開けた場所に出た。
「ここは……」
そこは広場の中心だった。
リリアを追いかけて裏道などを見ている内に、村人たちは広場から離れてしまったのだろう。
広場には普段は存在しない、木でできた立派な高座が組まれていた。
高座には隙間も見えないくらい白い花々がふんだんに飾り付けられいる。
精霊王を敬う気持ちが何も知らないリリアにも伝わってくる。
篝火から少し離れた場所にあるその白い舞台は、月明かりを浴びて眩く輝いていた。
思わず少し見惚れてしまう。
リリアは舞台を見た事がなかったが、その特別感にすぐに花精霊祭のフィナーレで使用する舞台である事が分かった。
中央では篝火が焚かれ、あたりを煌々と照らしていた。
「あっ、ドレスが……」
明るい場所で改めて見たドレスは無残なものだった。
全体的に泥がこびりついて黒ずんでしまっている。
あちこち擦り切れ、どこかにひっかけたのか足や下履きが見えてしまっている場所もある。
レースやフリルは今や見る影もない。
ドレスを着ているというより、大量のぼろ布を被っているといった方が早いくらいだ。
(ブライアンには悪いけれど、これはもう着ていられないわね)
ふんわりとしたドレスは柔らかな絨毯の上を歩く人々の為のもので、元々外で着るように作られていない。
リリアも繊細な服を着た時の動き方など知らなかったし、暗闇の中逃げ回っていたならこうなるのも当然と言えた。
惜しむようにドレスの裾をつまんだリリアは一度溜息をついてドレスのリボンを外していき、やがて脱ぎ去った。
美しいレースやフリルは泥にまみれていたが、腰から上の方はまだ綺麗な所もある。
きちんと染み抜きをして孤児院に渡せばリボンなどをワンポイントとして再利用してくれるだろう。
ほぼ下着のような姿になったが、元々ボロを着ていたのだからその時とあまり変わりはしないとリリアは割り切った。
そもそも村にいた頃からいつも着ていたぼろより、今の下着状態の方がまだ布の量が多い気もする。
恥ずかしいとあまり思わないのはそのせいだろうか。
(そういう問題でもないけどこの際仕方ないわ)
少なくともこれで動きやすくはなった。
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